27. 試験結果と祝賀会
宿屋に別れを告げ、冒険者ギルドへとやってきた。
例によって例のごとく、数ある受付ゾーンの中からぺルぺルの元へと足を運ぶ。
正直最初はここまで同じ受付を利用しようとは思っていなかった。別にぺルぺルが特別美人というわけでもないし、あ、もちろんすごい美人なんだけど他の人もみんな美人だからという意味だけど。なんだか同じ受付を使っていると愛着が湧いてくるんだよね。
「というわけで、おはようございます」
「なにがというわけかはわかりませんけど、おはようございます」
ぺルぺルさんは今日も綺麗なお辞儀をする。
「試験結果を聞きにきました」
「試験結果ですか......」
ぺルぺルが視線を下にさげて渋い表情をする。
沈黙が数秒、緊張でごくりと唾を呑んだ。
「まさか......」
僕は不吉な結果を想像する。
「合格ですよ!今日からタイチさんはEランク冒険者です」
「なんでちょっとふざけたんですかー」
「すみません。タイチさんって表情がころころ変わるからからかうの楽しいんですよね」
「ぺルぺルさんにもからかわれ始めたら、マリ―さんを除いて世界中のすべてが敵になっちゃいますよ。勘弁してください」
「ごめんなさい。ごめんなさい。それじゃあ、手続きをしますから、今持ってる冒険者カードを出してください」
「はい。お願いします」
僕は腰袋から冒険者カードを取り出して、ぺルぺルに手渡した。
「はい。それでは少々お待ちください」
冒険者カードを受け取ったぺルぺルは、カードを机の中にしまい、代わりにちょっぴり綺麗なカードを取り出した。
「これが、新しい?」
「はい、こちらが新しい冒険者カードです」
受け取ったカードの今までとの大きな違いは、カードのふちが緑色になっていたことだ。今までは何も色はついていなかった。そして表記がEランク冒険者に変わっていた。僕はカードの裏を見た。何も判子は押されていない。まっさらな状態であった。
「判子はリセットされるんですね」
「ええ。宿屋の判子はランクが昇格するとリセットされます。また、利用しますか?」
「いえ、大丈夫です。しばらく頑張ってみます!」
初日を思い出せば、この制度は利用しないで済むなら利用しないに越したことはないはずだ。メルはまだ子供だったから判子を押してある僕に対して異様にわかりやすく警戒心をあらわにしてきたけど、他の大人だったら心の底できっと疑っていたに違いない。いつDランクに上がれるかわからないし、今回は利用するのはやめておこうと思う。まだ銀貨2枚もあるし。
「わかりました。それと、貸し出していた剣と盾はまだレンタルを続けますか?」
「これも返却します」
僕は身に着けていた剣と盾を返却する。
「でも、武器がなくて大丈夫ですか?」
「武器屋に安い剣と盾が売ってたんでそれを買いますよ。今、僕リッチですから」
「ふふ、わかりました」
「これで登録やら手続きはお終いですかね?」
「ええ。これからEランクとして頑張ってくださいね!」
「はい、ありがとうございます」
「では、次はあちらで合格を祝ってくださいね」
「あちら?」
ぺルぺルが僕の後ろに手をかざす。
その手にしたがって振り返ってみると、そこにはマリ―とテレサの姿があった。酒場の机に並んで座っている。
僕はすぐに振り返ってぺルぺルに質問をした。
「どういうことですか?」
「Eランク試験に合格した場合は試験官が一杯おごるっていうしきたりがあるんですよ。二人のところにいって一杯おごってもらってください」
「そうなんですか。それじゃあ、行ってきますね」
「はい、いってらっしゃい」
僕は二人の元へ駆け足で向かった。
「遅いわよ!何やってたのよ」
「おめでとうございます、タイチさん」
いつも通りの反応で僕を出迎えてくれる二人。テレサの罵倒もマリーの笑顔もどちらも心地がいい。僕はついにっこりと笑ってしまった。そんな僕の様子を見てテレサは気持ちの悪いものを見るような目で見つめてくるも、いつものことなので気にしない。
「ありがとうございます」
僕はぺこりとお辞儀をする。
「まーまー、どうぞ座ってください」
僕は二人の向かい側の席に座った。
「えー、それでは。タイチさん、Eランク試験合格おめでとうございます」
マリ―がそう言って、木の器になみなみと注がれたビールを手渡してきた。
僕はそれを受けっとって、「ありがとうございます」とお礼を言う。そして、乾杯の掛け声をかけ、ビールに口をつけた。
「Eランク冒険者になってようやくルーキーみないなものよ!慢心せずに頑張りなさい」
テレサは先に飲み始めていたのか、既に少し顔を赤らめながらそう話す。
「そうですね。Eランク冒険者はスタートラインです。これからどういう冒険者になっていきたいのかを自分で考えながら仕事を選択していかないと駄目ですからね。今までよりもずっと大変になると思います」
テレサに続いてマリ―も冒険者の心構えを語る。
自分よりもずっと若い女の子に人生のアドバイスをもらうというのもおかしな話だけれど、彼女達はずっと前から冒険者をやっている先輩だし、これまで何もしてこなかったのは自分だからと素直に受け入れる。二人の言っていることをきちんと受け止めて頑張らないといけないのだ。まだまだどうなりたいというのは決まっていないけれど、そろそろ考え始めないといけないな。
「はい、頑張ります」
僕のきっぱりとした返事を受けて、マリーとテレサもにやりと笑う。
「しかし、最初に会った時は一角ウサギに殺されそうになってたのにね。まさかそれがEランク冒険者になるなんて」
「私も少しびっくりしてます」
「ちょっと酷いですよ~。あの時も言ったけど、記憶喪失で何にも覚えてなかったんだからしょうがないじゃないですか」
「それでも変な格好だったし、頼りなさそうだったし、すぐにへこたれると思ってたわ」
「私はそこまでは思ってなかったですけど」
「本当に?最初は大丈夫かな?ってすごく心配してたじゃない」
「そりゃあ心配はするでしょ?」
テレサとマリ―がちょっぴりにらみ合う。
僕はあわてて二人を止める。
「そう思ってもしょうがないですよ。現に二人がいなかったからへこたれてたかもしれませんし」
「でしょう?」
「私達がいなかったらへこたれてたってどういうことですか?」
「それは......まぁ、あれですよ。ははは」
これを言うのはちょっぴり気恥かしいものがある。二人に頑張ってるところを見せたかったから頑張れたなんてさすがに恥ずかしくて言えない。
「あれってなによ?」
「どういうことですか?」
「二人が助けてくれた恩に報いなきゃと思いまして」
それほど外れていない返答でお茶を濁す。
「別にそんなの気にしなくていいのに」
「そうですよ。私達はここまで連れてきただけですからね」
「それでも本当に嬉しかったんですよ。へんてこな格好をしたへんてこな人間である僕を見捨てずにつれて行ってもらえて。それに、街で見かけた時も声をかけてもらえてすごく嬉しかったです。僕はあんまり自分から声をかけられるタイプじゃないから、積極的に絡んできてもらえてすごい嬉しかったんです――――」
あれ、なんだろう。話し始めたら止まらなくなってきた
「――――テレサにはいつも馬鹿にされっぱなしだったけど、それでも気にしてくれてるのが伝わってきたし、マリ―さんの笑顔にはいつも癒されてました。だから、二人に頑張ってるところをみてもらいたくて一生懸命頑張ってました。これからも頑張りますので、こんな僕ですけど、仲良くしてください」
僕は瞳に涙を浮かべながらお辞儀をした。
自分でもこんなことを思っていたんて、話し始めるまでわからなかった。
「まったく、あんた酒を飲むと泣き上戸になるのね」
「そんな頭を下げないでください。これからも仲良くしましょう」
「......ありがとうございます」
ちょっぴり恥ずかしい思いを引きづりながらも、ちょっとした祝賀会は続いた。
テレサとマリ―の冒険者論の争いや、僕の人生相談を終え、木の器に溜まったビールがなくなりそうになってきたころ、テレサがポツリと呟いた。
「――――で、アンタこれからどこで生活していくのよ?ホームレスにでもなるつもり?」
「............どうしようかな~」
あまり考えないようにしていたことをずばりと切りこまれたのであった。




