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43.浦賀沖海戦

ご愛読ありがとうございます。


 いよいよ黒船と安宅船の激突する浦賀沖大海戦!

 至近距離からの砲撃戦。

 そして、勇者と英雄のタイマン対決。

 やっとタイトルに偽り無しの展開に突入です。



 康政座乗の安宅船には四層の楼閣がある。

 その天守閣とも取れる構造物の上から、リューシャは康政の交渉という名の宣戦布告を見ていた。

 交渉になどならない条件なら、公爵が書状を受け取る必要などないと判断されたのだ。

 戦争を売られて買うのなら戦場往古の自分が対応した方が良い、そう康政が申し出たこともある。


「某は戦場にて立身した武辺にござる。戦場こそ我が命にて候。

 姫様には我が武勲の誉れをご高覧あれ」


 前田慶次郎がそうであるように、榊原康政も戦人である。


 いや、慶次郎と違って康政は歴史の表舞台で大きな武功を立て続けた武将の中の武将、三河騎士の鑑という男である。

 姉川で、三方ケ原で、長篠で、高天神城で、小牧・長久手で。

 その武功故に家康から康の文字を賜ったという男だ。


 その男が小娘は引っ込んでいろという。


 その意気や良し。


 リューシャは全てを康政に任せることにしたのだ。


 完全に見物人に徹して、高い場所からディエゴを眺めていたのである。

 そして、近くにいる黒髪の少年が神楽耶の言う勇者なのだろうと見当をつけていた。



 その大三郎は船上の天守閣に興味を魅かれて眺めたのだが、そこに金髪や銀髪の美少女を発見。彼は彼女達のステータスを見て仰天した。


 大三郎は現在勇者Lv70である。

 剣術Lv72、槍術Lv70、格闘Lv67、飛行魔法Lv60、神剣/神槍召喚Lv72。


 ところが、天守閣にいる連中は軒並み大三郎よりも上だった。

 外見の美しさも素晴らしいが、ステータスも極め付きだった。


 クルーガ

 巫女Lv92

 スキル;魔法;地;Lv99、水;Lv93、風;Lv92、火;Lv94、空;Lv92。

 仙術Lv40、祈祷Lv92、剣術Lv25、槍術Lv15、乗馬Lv30。

 洞察Lv40。


 まともに魔法を使われたらひとたまりもないだろう。優人や樹里達とは異次元の使い手だ。

 そんな圧倒的な戦闘力を持つ者が、天守閣には4人もいる。


 大三郎は恐怖ではなく、憧れを抱いた。


 極めて美しい娘でありながらも、飛び切りの強さ。

 中でも茶色の髪の娘には、なんとも魅かれてしまう。


 あの娘を連れて帰りたい。

 本気でそう思い始めている大三郎であった。




「ふん、精々後悔するがいい。今日の所は用が済んだ!おい、帰るぞ!」


 ディエゴが声をかけて来たときには、大三郎は喧嘩の売り買いなどは全く見ていなかった。


「・・・ああ、行こう」


 さて、どうやったらあの娘を持ち帰れるのか?気にはなるものの、今はひとまずは戦争に意識を向けることにした大三郎であった。





 康政は5隻の安宅船と5隻の関船を率いている。


 対してポルトガル側ではガレオン船5隻。


 但し、ガレオン船の方が安宅船よりも大きく、搭載している大砲も大きく、数も多い。


 ディエゴ一行が船に乗り込んだ所での彼我の距離は200m程である。


 鉄砲では威力を発揮できないが、大砲なら十分に威力を発揮できる距離だ。


 双方ともに船の運航に必要な風や海流を操作するための魔法師は乗せている。


 しかし、戦闘用の魔法師としては極めて少数。

 決戦は博多と見て、ここには少数の魔法師しか投入されていないのだ。


 ポルトガル側は大三郎1人。


 大環側は与楽と4人の妻達。


 だから、大三郎が攻撃している間に、ポルトガルの魔法師達は船を離脱させる必要がある。


 能力が低い魔法師だとなまじ防御壁を展開すると、魔力が続かなくなって船は低速でしか運航できなくなってしまう。



 ディエゴらが帰艦するまでの時間稼ぎに、僚艦が大環側の船に割って入りそこから戦闘になった。


 数の上では大環側が優勢だが、関船とガレオン船では規模が違う。


 ガレオン船側が全力射撃すると、近くにいた関船はたちまち穴だらけにされてしまう。


 楯代わりに厚い板を舷側に貼っているのだが、それが貫通されてしまっているのである。


 距離200mからの射撃だから、命中精度も高い。


 それに当たれば威力も大きい。


 一気に10数発もの砲弾を食らって、関船は憐れあちらこちらが穴だらけにされてしまった。


 幸いだったのは火薬に引火しなかったことだろう。


 水面上の船の横側が穴だらけにされても、それで船が沈むことは無い。乗船している者達には悲惨なことが生じてしまうのだけれど。


 厚い板を貫通して威力が弱まった砲弾とはいっても、人間に直撃してはひとたまりもない。


 だから、船上は悲鳴と呻き声。血飛沫が飛び交う阿鼻叫喚の場所と化してしまう。


 関船に乗っていた者が幸運だったとすれば、この時代の大砲は現代の速射砲とは違って次弾を装填するまでに時間がかかることだ。


 混乱しながらも関船は、次の攻撃を受ける前に離脱しようとしていく。


 それを、別のガレオン船が攻撃を仕掛ける。


 そのガレオン船の砲撃も10数発が関船に命中して、さらに血糊を増す結果となっていく。


 この間、大環側ではこの攻撃を阻止する動きは見せていない。


 大環側ではディエゴ達が乗り込んだ旗艦だけに攻撃を集中するように命令が下されたのだ。


 2隻のガレオン船が損傷した関船を攻撃する間に、大環側は一斉に敵旗艦1隻のみに集中砲火を浴びせたのである。


 1隻単位の火力ではポルトガル優位であっても、9隻で1隻を攻撃するのなら?


 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!


 断続的に大環艦隊からの火砲が発射されていく。


 大砲といっても、この時代のものだと腹の底に響き渡るような轟音ではない。


 それでも相当な轟音を響かせて、砲弾は打ち出されていく。


 そして火薬の性能の都合で、発射時の煙が凄いことになってしまう。

 全量射撃をすると一旦は船上が煙に包まれるかのようだ。


 短距離からの砲撃だから、狙いは外れない。


 ディエゴの旗艦は舷側が穴だらけになって、しかも搭載している大砲用の火薬にも誘爆したらしい。


 一カ所から火の手が上がった。


 ディエゴの旗艦上は悲惨な状況になってしまった。


 片舷側から一斉に50発近い砲弾が飛び込んで来たのである。


 相当に厚い板を張っているのだが、それも短距離からの砲撃を受けては簡単に撃ち抜かれてしまったのである。


 あるいは距離が1km程度であれば無事だったのかもしれない。


 大環艦隊からすると200~500m程度の距離からディエゴ船に撃ち込んでいるのだから、被害は甚大なものとなっている。


 大砲が1門直撃されてしまって、その近くにあった火薬が暴発。


 至近距離にいた砲撃要員5名が巻き込まれて即死。


 そして火災も発生してしまったのだ。


 旗艦附近にいたポルトガル船は、それぞれの近くにいた安宅船に対して攻撃を加えている。


 戦場では、


 ・1隻の関船に対して、2隻のガレオン船が攻撃中。


 ・ディエゴ旗艦に対して、5隻の安宅船と4隻の関船が攻撃中。


 ・1隻のガレオン船が、近くの安宅船に攻撃中。


 ・さらに別の1隻のガレオン船が、近くの安宅船を攻撃中。


 こうした構図になっている。



 ここで康政が動いた。


 ガレオン船に攻撃をうけている安宅船2隻については、攻撃を受けている敵船の排除に当たれと指示を出したのである。


 デイアゴ旗艦に対して、3隻の安宅船と4隻の関船で一気にケリを着けようというのだ。


 同時に切り札を切った。


「敵旗艦直後に漂っているゴミを狙え!」


 何とも戸惑うような命令である。海上であるから漂流しているゴミはそれなりにある。


 流木であったり、海藻であったりするけれど、海上にはなにかとプカプカしているものはある。


 確かに敵旗艦の後ろには海藻らしいものがへばりついている。


 それを狙えというのである。


 常軌を逸した命令ではある。


 それがアホらしいと思っても、命令は命令である。


 砲弾が撃ち込まれ、海藻の周りに水柱が5本上がる。


 するとどうしたことか!


 巨大な爆発が生じたのである。


 轟!


 耳を塞ぎたくなるような大音量。


 目をつぶりたくなる様な閃光。


 そして、旗艦を包み込む巨大な水柱。


 爆煙が旗艦全体を包み込んでしまう。


 戦場を包んでいた砲撃の音が一瞬で全て止まった。


 海風に煙が飛ばされて行って、姿を現した旗艦は船の後方1/4が吹き飛んでいた。


 ゆっくりと沈み始めるディエゴ船・・・。





 最初から海藻は偽装だったのである。


 火薬を油紙で包んで樽に入れる。その樽に海藻をしばりつけた。


 そういう物騒な物だったのだ。


 次にクナイという小型の刃物に縄を縛り付ける。縄のもう片方は樽に縛りつける。


 忍びがそれを引っ張って泳いで行って、敵船にクナイをしっかりと打付ける。


 最後はそれを砲撃した。


 見事、作戦は大成功。


 同じ偽装を施された樽は他にも2隻の敵に括り付けることに成功している。


 康政は上機嫌になった。


「ここで樽を取られたら面白くないことになり申す。


 リューシャ様、お力添えを頂きたく存じまする」



「ええ、あの海藻を爆発させればいいのね!


 楽しそうだわ。


 ペルセウス、父なるゼウスの雷を運べ!」


 かくして、関船を攻撃していたガレオン船2隻が大爆発に巻き込まれた。


 攻撃に夢中になっていた彼らは、全く忍びの接近に気付いていなかったのだ。


 穴だらけにされて、完全に意気消沈していた関船では目の前で突然に敵艦が大爆発を起こしてビックリ仰天だった。


 それでも、危機が去ったと大喜びで万歳!万歳!と大騒ぎだ。




「なんだよ、ポルトガルって全然弱いんだな。


 邪竜使いさえいなけりゃ、戦争なんて楽勝だと言ってたのは誰だよ・・・。


 一方的にやられちまってるじゃんかよ。


 船の図体はデカイけれど、それだけ。


 作戦指揮ダメ、戦術なんてまるでナシ。ちっとは頭を使えばいいものを」


 沈みかかっている旗艦の甲板で、文句タラタラの大三郎である。


 肝心の魔王がどこにもいないのに不満なのである。


「勇者殿、どうかお力添えを!このままでは全滅してしまいます」


「邪竜使いという魔王はどこにいるんだよ。


 俺は魔王退治にきたの!魔王はどこだよ」


「そうは仰いましても。どうかご慈悲を、味方に撤退させる時間をお与えください」


 尊大でとにかく態度のデカイオヤジであったディエゴであるが、戦闘が始まってからは全くの役立たず。

 “こんな奴に指揮される部下連中もたまったもんじゃないだろうな。”と、少しは周りでウンウン唸っている負傷兵達に目をやる大三郎である。


「仕方ないか・・・」


 そう言い残して飛び出して行く大三郎。


 強力な魔法使い達が乗っていない船を襲ってやれば、多少なりとも敵艦隊も混乱するだろうという考えだ。

 流石に自分よりも強力な相手を、それも4人もまとめてやる気にはならない。


 飛行魔法で上空からステータスの高い者がいない船を選んで乗り込んでみることにした。


 この時代の海戦は砲撃戦で始まっても、最後には着舷して相手に乗り込んでいって決着をつけるのである。


 だからどの船も甲板上には戦闘準備している兵士に溢れている。


 手頃な船に乗り込んで、好き放題なで斬りにするのも面白いかもしれない。


 ステータスとして、さして強い奴のいない安宅船を選んで降り立つ大三郎。


 彼の手にしているのは新たに召還した神剣である。


 特に誰という狙いもつけずに適当に気合を込めて、その神剣を野球のバットスイングのように豪快に振り切る!


 すると安宅に乗り込んでいた斬り込み要員が10人程見事に真っ二つ。


 なんともあっけない。海戦を意識して余り頑丈な金属鎧を着けていないとは言っても、あまりにも簡単に斬り裂けてしまえる。


「なんだ、こんなもんなのか。戦争っていっても呆気ない物なんだな。


 血が飛び散るし、生臭い。


 でも、やれるな!」


 大三郎は更にもうひと振り豪快なバットスイングを披露する。


 これで、また周囲に悲鳴と血飛沫が撒き散らされた。


「ああ、勇者万歳ってところか。俺ってやっぱり強いじゃん」


 ノリノリになって来た大三郎。


 更にもう一撃という時に、背筋に冷たい物を感じて咄嗟に横へと飛び跳ねる。


 一瞬の出来事だった。


 大三郎がさっきまでいた場所には、錫杖を手にした男が得物を振り切っていたのだ。


「ほう、勇者とやらはカンがいいのだね。


 気配を消した僕の攻撃を避けるなんて凄いじゃないか!


 でも、僕の攻撃をいつまでかわせるのかな?


 少し試してみようか」


「な、なんだお前!


 妙な技を使いやがって。お前が魔王か!?」


 与楽のステータスを見た大三郎は完全にビビってしまったのだ。



 与楽

 英雄Lv30、仙人Lv70、行者Lv90、退魔師Lv99+。

 スキル;仙術Lv70、呪術Lv95、降魔術Lv99+、祈祷Lv95、棒術Lv92、剣術Lv90、乗馬Lv60、洞察Lv99、策略Lv60。


 退魔師Lv99+となれば悪魔退治の専門家。

 恐らくメフィストも倒せるだろう。

 イザという時に、メフィストでは役に立たない・・・。


 実の所、大三郎が自分より強い魔法師集団がいても逃げずに大環艦隊に攻め込んだのは、ヤバければメフィストに押しつけるつもりだったのだ。


 勝てそうになければメフィストに言って、自分のステータスを上げるか、強力な武器でも持ってこさせればいい。そう考えての行動だった。


 ところが、大環には退魔師という存在がいて、それも妙に強そうなスペックだ。

 この退魔師は普通の魔法-地水風火空という属性はないけれど、怪しい仙術や呪術という物を持っている。

 しかも、棒術にも長けているではないか。


 大三郎では、まともに遣りあってはマズイ相手だ・・・。


 内心大いにビビっている所に、突然現れた男は落ち着き払て淡々とした態度で言う。


「キミが探している魔王とやらは博多に向かったよ。


 ちなみに彼は召喚術が巧みなだけで、魔王などではない普通に人間だ。


 キミ達が頑張って倒しても、それで元の世界に戻ることはないよ」



 大三郎は理解してしまった。

 目の前の男は自分に恐怖など微塵も感じていない。勇者として魔王を倒す為に召還された筈の自分にはまるで価値などないと言いたいらしい。

 それが彼の感情を苛立たせた。


「何でそれを知っていやがる?誰だ、テメエは!」


「与楽という旅の行者さ、キミが帰りたいというのなら、キミ自身で帰れるように稽古をつけてあげてもいいけれどね」


「余計なお世話だ。俺は自分で帰れる。


 邪竜使いを倒したら、サッサと戻るだけだ」


「でも、どうだろうね。キミでは彼に勝てない気がするけれど。


 ここで僕が大人しくさせてしまった方が良いようにも思うな」



 完全に舐められている。与楽の態度が相手は自分よりも強いという現実を大三郎の頭から吹き飛ばしてしまう。

 だから、大三郎は問答無用とばかりに神剣を思い切り与楽に向けて振り切った。


 強力無比な超音波カッターとして機能した神剣は、上下に向けてそこに存在するすべての物を引き裂いた。


 安宅船のマストの一部から、船の甲板、その下にある船倉までを。


 バッサリと綺麗な切り口で真っ二つに。


 だが、しかし肝心な与楽はそこにはいなかった。


 またもや嫌な感じがして、後ろに飛び跳ねる大三郎。



「へえ、僕の攻撃を二度も交わしたのは立派だね。僕の子供の頃以来じゃないかな。


 いいカンをしているのか、それともその神剣らしい物が加護を与えているのか?


 試してみようか」


 そう言い放つと、与楽は3人に分身した。


 分身の1人は大三郎の神剣を持つ小手をしたたかに打ち据えた。


「っつ、いってえ・・・」


 思わず神剣を手放す大三郎。


 そこへ2番目の分身が大三郎の右ひざを錫杖で打ちつけた。


 堪らずにダウンする大三郎。


 さらに3番目の分身が止めを刺すべく石突で猛烈な突きを出して行く。


 ギリギリのところで、空へと飛び出して避けた大三郎!



「へえ、これはカンがいいのだろうね。いい動きだ。


 でも、キミのご自慢の剣が無くなってはここまでじゃない?


 諦めて降伏した方がいいだろうね」


「うるせえ。武器位いくらでもある」


 大三郎は神槍を取り出して、必死に空中から雷撃を与楽に打ちつけようとする。


 しかし、与楽の分身たちはあっという間に大三郎の後ろと左右に移動していたのである。


「なっ、いつのまに!」


 大三郎が悲鳴を上げた時には、槍は叩き落とされた。


 次の瞬間には鳩尾に強烈な突きを受けてしまう。


「やべえ、メフィスト・・・」


 そのまま大三郎の意識は途絶えた。


 一方の与楽は困惑した。


 意識を失った“後から”大三郎は瞬間移動したのだ。


 意識の無い者が魔法を使えるはずもない。


 空中にあって近くには誰もいないというのに、咄嗟に特定の人間を瞬間移動させる。

 普通の瞬間移動だと、術者に触れているか、精々3~5m程度の範囲内にいないと駄目なものである。


 ところが与楽に気配を感じさせないままに、遠距離から大三郎を瞬間移動させるような術者が敵にはいるらしい。


 それが与楽を戸惑わせた。


 神楽耶達からの情報だと、大三郎と波留という戦闘要員と優人という魔法師で組んでいるという。

 咄嗟に大三郎を庇ったのは優人という魔法師なのだろうか?


 そうだとしたなら、この世界では珍しいほどの強力な魔法を使う存在だということになる。

 神楽耶の情報だと優人は樹里と同じ程度の術者で、妻達には到底及ばないという話だったのだが。

 優人という男はポルトガルから来るまでの間に、余程の修行をしてきたのか?

 それとも何らかの魔法道具でも使ったのか?


 大三郎が逃走に移った敵の黒船に転移しているのは見えている。

 しかし、未知の魔法をつかうような奴がいるとしたなら迂闊には追撃をかけることは躊躇われる。こちらが思いもよらぬ場所に転移させられるのは困ることになるだろう。


 さて、どうしたものか・・・?


 戦場で生き残っている敵の黒船は2隻。


 大環側では関船が1隻穴だらけになって沈みそうになっている他は、各船とも少々の損害があったとしても沈みそうな心配がある船はいない。


 当面、王都が襲われる心配は無い状況だ。


 海戦としては大環側の勝利は動かない。


 後、残りの2隻をここで撃破するかどうか。


 康政と家康の判断次第になるだろう。


 ひとまず、与楽は康政の船に戻ることにした。


 康政とリューシャが座乗している船には大きな損害はない。

 妻達は先頭が始まると分散して防護結界を張っていたのだ。リューシャ座乗船は彼女が、他の3人もそれぞれ他の船に移動して、同じく味方の防護をやっていた。


 大三郎からの報告を受けるまでも無く、意識を失った勇者が瞬間移動したことはリューシャも見ていたから彼女から康政は聞かされていた。


 康政の判断は与楽に無理な強襲はさせずに、このまま艦隊決戦を続けるというものだった。


 艦隊の戦力なら既に圧倒的な差が生じている。このまま継戦していても間も無く敵を潰せる筈である。


 その時に異能の術者が出て来るのなら、与楽と妻達で集中的に仕掛けて潰せばいい。


 余計な損害を出さずに、確実に勝利をものにしようという考えだ。


 確かに戦力面ではこのままで問題はないのだ。このまま押し切ればいい。



 しかし、戦況は康政の思い通りには動かなかった。


 敵の黒船が異常に速かったのである。


 沈没した船から魔法師たちが生き残っている船に移動。これで防護結界をはりつつも風と海流を操作しつつ航海できるようになった黒船2隻。


 もともとから速度面では安宅船では不利だったのだが、今回の黒船にはポンポン船システムまで装備されていた。


 お蔭で逃走を始めた黒船が圧倒的な速度を持っていたのである。


 速度に劣る安宅船では追尾ができない。

 しかし、速度のある関船では戦力不足だ。


 そうかといって、魔法で安宅船の速度を上げるにも限度があった。船の強度を上げておいて速い速度に船体を耐えるようにする必要があるのだ。無理な高速を出すなら船が砕けてしまう。船の強度を重視するのなら、今度は速度が犠牲になる。


 要するに強度と速度のバランスが取れる範囲内では、黒船の方が速かったのだ。


 距離が離れると大砲ではダメだ。

 魔法攻撃をするにしても、敵には未知な術者がいるらしい。


 結局、ジリジリと距離が離れてしまって2km以上の距離になった所で魔法攻撃もできなくなり。


 浦賀沖海戦はここで終了となった。


 来襲した5隻の黒船3隻撃沈、2隻逃走。


 味方の被害は関船1隻が大破。他の船に曳かれての帰還となった。

 敵艦と正面から撃ちあった安宅船2隻も損害は大きく中破という所。


 敵を撃破したものの、得たのは大三郎が落した神剣と神槍。

 後日引き上げることになる、沈んだ黒船に多少なりとも金銀があることくらいであろうか。


 勝ったものの、得る物は少ない戦いであった。


 康政の艦隊は品川に入港。


 王都では外敵を打ち払ったと歓喜する住民達で大騒ぎ。


 勿論、戦勝パレードが挙行されている。


 ポルトガル恐れずに足らず!王国軍は強い!


 庶民にとっては、これが一番重要なことではあった。


 宰相家康としては、戦費の補填や参戦した者への恩賞で気が気ではないのではあるが。

 次回は博多に舞台を移しての戦闘になります。

 貴志一党と勇者3人の大決戦。

 久しぶりにレキュアとシェイラも活躍してくれる予定です。

 乞う、ご期待!


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