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攻略0。勇くん、龍神様に会う。

【攻略0。勇くん、龍神様に会う。】


 

 空を見上げたら子鬼が降ってきた。

 うん。よくあることだ。

 勇は顔面で子鬼を受け止めた。


 佐藤勇(さとういさみ)、15歳。この春、6年ぶりに生まれ育った町に戻ってきて高校生になる。

子どもの頃から「人には見えないモノ」を視る力があった。こんな体質なものだから、よく幽霊や妖怪と呼ばれる類のものに目をつけられた。声を掛けられたり、いたずらされたり、追いかけられたり、悩みや愚痴を聞かされたり、時には食べられそうにもなった。その時は殴って返り討ちにした。幸い、自分には破魔の力が備わっていたようだ。

 そんな普通の人とは違ったアクティブ人生を歩んできた勇少年は、多少のことでは動じなくなった。今も降ってきた子鬼が頭の上で髪をちょこちょこひっぱって遊んでいるが放置している。抜いたら放り投げる。無害なら放置。有害ならしばく。思考は至ってシンプル。これが勇少年が妖怪と関わってきた人生で学んだ処世術だ。


 受験も終わり、引っ越し荷物の整理も完了し、あとは4月の入学式を待つだけだった。勇はそれまでの数日間をのんびりと過ごすと決めていた。

 今日は6年ぶりの町を散歩しようと、とりあえず家の近くの海岸沿いの歩道を歩いていた。三月も終わりにせまっていたが、風はまだ冷たい。久しぶりの街の風景に「こんなのだったかな?」と記憶を手繰り寄せながら、海岸まで降りようかと階段の方へと向かったところ、何やら上から気配を感じたので顔をあげたら―――……話は冒頭へと戻る。

 子鬼は勇の中指くらいの大きさだろうか。楽しそうに小さな両手で勇の髪をひっぱっている。

 はあーとため息を吐きながら勇は仕方なく階段に腰をかけしばらく子鬼の好きにさせていたが、いい加減解放してほしいとも思った。周りに人がいないことを確認すると頭の上の子鬼に話しかける。

「……なあ。おまえ、仲間のところに戻らなくていいのか」

 これだけ小さな体ならきっと群れで生きているのではないかと思ったのだ。子鬼は勇に話かけられてきょとんとしている。言葉が通じないのか、それか人間に自分の姿が見えていることに驚いたのか。

 すると、子鬼は嬉しそうに頭の上でぴょんぴょん跳ね出した。痛くはないが……なんとも言い難い気分だ。

 何度か跳ねると、一度大きく跳ねて勇の手のひらに飛んできた。手の中にすっぽりと納まる子鬼はとても小さく、握れば簡単に潰れそうだった。

「なーかーま」

 子鬼が声をあげた。

「仲間?」

 近くにいるのか。勇は辺りを見渡すが先ほどと変わらず人はおろか、妖怪の気配すらない。子鬼は勇の手のひらの上で再びぴょんぴょん飛び跳ねた。

「なーかーま。なーかーま」

 今度は歌っているようだ。

「なーかーま。なーかーま。リュウセイさまにお連れしよー」

「リュウセイ?」

 妖怪の名前か?それは誰のことだ?と聞こうとしたら「何か」の気配を感じた。

 ―――上から。


「―――っ!?」


 空を見上げたらさらに複数の子鬼が降ってきた。

「なっ!!」

 それらは勇の頭や肩や腕へボトボトと落ちてきた。もちろん顔面にも。なんだ!こいつら~! チビ鬼たちの襲来に勇もさすがに驚く。手のひらの子鬼はまだ「なーかーま。なーかーま」と歌っている。よく分からない状況に勇は頭が痛くなってきた。

「……おまえ、自分の仲間を俺に紹介しているつもりか?」

 手のひらの子鬼はぴょんぴょん跳ねた。すると先ほど降ってきた子鬼たちが一斉に歌い出した。

「なーかーまー。なーかーま。リュウセイさまにお連れしよー」

「なーかーまー。なーかーま。リュウセイさまにお連れしよー」

 歌いながら子鬼たちは勇の指や服をひっぱった。

「なんだよ?」

 来い、ということだろうか。だがそれは無理な話だ。

「悪いけど、俺は一緒に行くことはできないから」

 ついて行って、万が一喰われるようなことにでもなったら、たまったものではない。人間に牙を剥く妖怪もいることを勇は知っている。もともと「こちら」の世界に関わることも良くないことだとも思っている。わざわざ深追いをするつもりはなかった。

 勇の「一緒にいけない」という言葉に子鬼たちはどうして?と小首を傾げる。どう説明すればいいのか勇が考えていると、


「そう言わずに、来てくれないかな」

 

 急に入ってきた声に勇は反射的に顔をあげた。砂浜に一人の若い男が立っていた。

 ……いつの間に?人がいる気配なんてなかった。そしてさらに目を見開いたのは男の服装だ。男は上は白、下は水色の狩衣(かりぎぬ)を纏っていた。眼鏡をかけた奥の目が、楽しそうにこちらを見ている。

「リュウセイさまー」

「リュウセイさま―」

 勇に纏わりついていた子鬼たちがぴょんぴょんと跳ねながら青年の方へと飛んでいった。この人がリュウセイさま?勇は無言で青年を凝視する。

「迎えにきたよ。あまり脱走していると戻れなくなってしまうよー」

 纏わりつく子鬼たちに青年はおっとりと話しかけるとまた勇へと視線を向けた。

「この子達が世話になったようだね。大丈夫?迷惑かけなかったかい?」

「いえ、……あなたは神主様ですよね?」

 子鬼が見えることと青年の服装からそう予想する。しかしそれにしては随分と若い神主だ。

「まあ一応表向きはそういうことになってるよ」

 表向きは?勇はにこにこ笑う青年神主をじっと見る。そしてある直感を感じ、言った。

「あなた……人間ですか?」

「君は人間だね」

 勇の問いには答えず、逆に青年が勇を人間だと断言した。そんな返しがあるかよと、勇は若干の苛立ちを覚える。

「俺の質問に答えてください」

「人間じゃないよ」

 今度は拍子抜けするほどあっさりと吐いた。なら最初から言えよ。勇は内心舌打ちした。

 人間じゃない。つまり妖怪。ならこれ以上関わってもろくなことはない。勇はそう結論づけ早々にこの場を立ち去ろうとした。

「待って。君をスカウトしたいんだ」

 踵を返そうとしたら止められた。は?今なんて?

「スカウト?俺を?」

「うん。人手が足りなくて困っているんだ~。助けてくれないかな?」

「何のスカウトか分かりませんが他をあたってください。俺はただの人間なんで無理です」

 きっぱりと断る。関わると面倒そうだ。だが青年も引かなかった。

「またまたまたぁ。君がただの人間なわけないでしょう?ね?佐藤勇くん?」

「! なんで俺の名前…」

 明るく笑う青年に勇の警戒が強くなる。

「そんな細かいことは気にしない気にしない。僕の力を使えば個人情報を探るなんて朝飯前だよ」

 この男、さらっととんでもないことを言いやがった!勇は睨みつける。

「なんなんだよ、あんた……っ」

「そんなこわい顔しないで。ね、お願いだよ。人助けだと思って」

「人じゃないんだろ」

「あははは、勇くんは上げ足取りがうまいなぁ」

 もはや得体の知れない相手に敬語で話す気にもなれない。呑気に笑う顔すらもむかつく。

「大丈夫だよ。難しいことじゃない。ちょっと色々な雑用を手伝ってほしいんだよ」

「だから俺は……」

「断ったら、あのーあれだよ、あれ。あーそうそう、あれだあれ。呪うよ。僕の呪いは個人情報探るより恐いよ」

 人間を脅すのに、呪うという言葉すらすぐに出てこない妖怪。コイツはアホなのか。何だか調子が狂う。

「……おまえ、一体何者なんだ」

 一体何の妖怪なのだろうか。小さく呟く。青年はその声をしっかり拾っていた。

「僕?そうか。まだきちんと自己紹介していなかったね。僕は龍聖(りゅうせい)

 子鬼の言っていたリュウセイはやはりこの男だったようだ。しかし、勇はその後に発した彼の言葉に完全に凍りついた。


(たつ)かみ)。龍神だよ」


 龍聖の背後に広がる海が一段と強い波しぶきをあげた。

 まるで、我らが王を歓迎しているかのように―――……。



 佐藤勇、15歳。今まで色々な妖怪を見てきたが、このたび神様との邂逅を果たした。


初めまして「ことは」と申します。

ここまで読んでくださって有難うございます。

始めたばかりで右も左も分かりませんが、

少しずつ更新していけたらなと思っています。

続きの攻略1もがんばります。

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