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ダンジョンに静寂が戻る。


普段森の中を闊歩する魔物らも深部で息を潜めているな。深部から最深部は世界樹の枝葉の領域内でもある。エリンが森を守ってくれたようだ。

転移が出来ないため居住区に置いてけぼりをくらったアナンシが子蜘蛛たちからダンジョン内の情報を得るために、ダンジョンの崩落で出来た空白地帯に子蜘蛛を配置し直している。


俺たちが今いる中部と地下階層は森の影もなく燃え尽くされ、黒焦げた大地だけが広がっている。戦う気満々で中部にいた魔物たちもエリンやロノが深部に避難させたようだ。ロノが助けようとした子狼も無事だな。俺の暴走で殺してしまってなくて安心した。


新たに作ったばかりの地下階層はすでに階層を維持できずに崩壊しかけているのを世界樹の地下茎でなんとか支えているといった状態だ。

浅部は炎こそ届いていないが、あちらこちらに地割れが発生し森の木々もいかにも生気がなくなってしまっている。まさに魔の森といった様相だ。


ダンジョン内にいたすべての人間は、俺の肚に収まった。灰も残らず燃やされても生命エネルギーはダンジョンに吸収されるからな。

中部や地下階層はもちろん、浅部にいた人間も残らず地の底に呑み込まれるか俺の怒りで変質した魔素の余波を受けて呼吸が出来ずに命を落としている。所々に魔物も倒れていて、見た目だけなら浅部が一番死屍累々としているな。

何人かは逃げ延びて森の外に出たようだ。森の外側では残っていた指揮官などが報告を受けて大騒ぎになっている。


コアに呑まれかけて意識を飛ばした俺がダンジョンを拡張したため農村や近くの街まで俺の領域になっているが、そこで生活している人間どもは特に変化を感じた様子もない。領域の支配権を塗り替えただけでまだ何のコントロールもしていないからだろう。

森の外にいた待機兵どもも一掃出来ていたら楽だったのだが、そちらも同様にまだ俺の影響は発揮されていないようだ。



「あるじ様、大丈夫か…?」

『父ちゃん、ボクのためにごめんね。』


エリンとロノが心配そうに俺の元に寄ってくる。正気を失って人間を殺したことを、今の俺がどう感じるかを心配しているのだろう。

俺は不思議と凪いでいる気持ちのままに二人に笑いかけながら、ロノを抱きしめる。


「大丈夫だよ。ロノ、お前が気にする必要もない。

 俺にとっては人間との争いを避けることよりもお前たちの安全の方が大切だ。俺の意志が曖昧だったばかりに、ロノを危険に晒してしまってすまないな。」


「…無理はしておらぬようじゃな。」


「ああ、心配かけたな。皆を守ってくれてありがとう、エリン。」


エリンが俺の顔をじっと見て頷く。どうやら納得してくれたようだ。


「しかし、あるじ様が人間に危険視されるのは気に入らぬのじゃ。せっかく神格化計画が上手くいっておったというに。」


「元々神なんてガラじゃないだろ。お前たちを護るためなら魔王にだってなってみせるさ。」


拗ね半分、茶化すの半分といった表情で笑うエリンに俺も笑って応えながら、これからどうするか考える。


とりあえず森の外の軍隊を全滅させるべきか。しかしそうすると明確に人間に敵対する勢力と見なされて面倒なことになるのは目に見えている。うちの子たちが危険に晒されるのは却下だ。


いっそのことダンジョンの範囲内の人間すべてを根絶やしにして、それこそ魔王のようにおいそれと手を出せない存在になるほど恐怖を植え付けるのはどうだろうか。しかし人間が全然来なくなるのも生命エネルギー的には困るんだよな。

運営を考えると人間の街を気付かれないようにダンジョン化させて生命エネルギーをこっそり頂くのが安全かつ効率が良いかもな。


となるとやはりダンジョンの支配領域をどんどん広げるべきか。人間に気付かれないようにダンジョンを拡大しながら、少しずつ間引いていくのが手っ取り早いような気もする。


しかしそれにも問題があるんだよな。どうやらダンジョンに取り込めない場所があるのだ。

近くでいうと北の崖の向こう側、魔の領域と呼ばれる場所だ。ダンジョンを拡大したときに当然北にも支配範囲を伸ばしたのに、押し返されるような感覚があった。

それ以外でも街の神殿や領主の館の地下など、一部取り込めない領域がある。


恐らく俺以外の何者かがすでに結界などで自らの領域としているのだろう。案外他のダンジョンという場合もあるかもしれない。


支配が弱い領域なら無理やり支配権を塗り替えることは出来そうだが、そうすると元の支配者に気付かれるだろう。強い支配者であれば周りがダンジョンになっただけで察知される可能性もある。

俺に出来ることが俺より強い者に出来ない道理はないからな。

北の崖の向こうのように俺の力の及びそうにない存在もまだ多いだろう。自分の力を過信して無計画にダンジョンを拡大するのは危険だな。



はぁ、色々考えていると外の軍はこのまま帰すのが良いような気がしてきた。ここまで事なかれ主義で来たことがロノに傷を負わせた原因だと思うと、ここらで何かしら方向性を定めておきたいところだというのに。


ん?ルクシア教国の者がまた森に入ろうとしているな。第二皇子の命令か。

他の人間は皆先ほどの荒ぶる魔素に怯えて二の足を踏んでいるというのに元気なことだ。


まだ攻める気概があるならこちらも遠慮はいらないな。森に踏み込むのを待つ必要もないだろう。

ライブラリで軍を掃討できる規模の魔法を探し、転移しようとした、そのときだった。







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