第二話~昔の姫~
「姫様ーっ! 何処にいらっしゃるのですかぁーっ!?」
メイド服の裾を揺らしながら、私専属の使用人が私を探している。
「ふふふっ。」
そう簡単には物置を出ないんだから!
扉の隙間から使用人を眺めるのに飽きるまで、ずっとここに居るんだもん。
「お父上がお呼びになられているのですーっ!!」
えっ、お父様が?
「ここだよー、こっここっこぉ~!!」
お父様が呼んでいるのなら、話は別だ。
使用人をからかうより、ご飯の時以外は多忙で会えないお父様と話せる事の方が嬉しい!
「姫様! こんな物置なんぞに入ってはなりません! お召し物が汚れてしまいますよ?」
「いいじゃない。そんな事よりも、お父様が私を呼んでるの?」
「良くはないのですが……はい、お父上……陛下がお部屋で姫様をお待ちになられています。」
なんだろう?
どこかに連れていってくれたりするのかな!?
コンコンッとお父様のお部屋の扉を叩いた使用人は、中からお父様の。
「誰だ。」
という威圧的な声には屈せず。
数えきれない程に繰り返してきた……そんな、機械的口調で。
「白雪姫様をお連れしました、ジュードです。」
「入れ。」
「お父様ぁっ!!」
お父様が入室を許可すると、私は使用人が扉を開けるのも待てず、突進する猪の様な勢いでお部屋に飛び込む。
「白雪。」
暑く硬く、そこらの兵士よりも遥かに勝る胸板に抱き着いても、その体はびくともせずに私を受け止めてくれた。
お母様が1年前に亡くなってから、お父様のお仕事は倍に増え、こうやって会える機会が本当に少なくなって……正直寂しい。
だけど、我が儘を言ったらお父様が困るって、9歳だからもう知っている。
それでもこうして、たまーにだけど食事以外で会う時間を作ってくれるお父様が大好き。
「ごめんな。一緒に外出するどころか、遊ぶ事すら出来なくて。さぞ、寂し……。」
「ううん、だいじょーぶ! 使用人達が遊んでくれるもの! そうよね、ジュード?」
「は、はい。毎日の様に元気に遊んでおられます。」
少し困り顔のジュードを見て、お父様は少しだけ微笑んだ。
この後私の周りには、お父様と仲の良い伯爵の令嬢『クララ』と『クレア』という名前の双子が、常にいる様になった。
「クララとクレアは私よりも一つ年上で、友人だけど姉が出来たみたいに……一人っ子の私には嬉しかったの。」
「そうなんだね。そっか……白雪姫にもお友達がいたんだ。」
橙がへにゃっと笑った。
「おいっ、橙! 姫様に失礼だろ!!」
そんな横で、紫は眉を吊り上げて怒る。
「いいのよ、紫さん。」
「ごめんよぉ、白雪姫……。」
「橙さんも気にしないで。ね?」
「う、うん。」
白く清潔なシーツが敷かれた木のベッドの上で、脇にイスを置いて座っている小人達と仲良く話している今。
過去の……6年前の私には、想像も出来なかった。
それにしても……。
「私達、すっかり仲良しになったよね。」
出会ったのは半月前だと言うのに、私と7人の小人は普通に打ち解けている。
むしろ、友人と呼べる関係に……。
「俺はお前と仲良くなったつもりはないぞ。」
「青!! 姫様、すみません。青の奴があんな口を利いて。」
「赤さん、青さんはツンデレだって分かってるから大丈夫。」
「おい、ツンデレって言葉の意味は分からんが、いい気分にはならねぇぞ?」
「はいはい。ツンデレって言うのは、良い意味だから大丈夫。」
「本当か?」
「本当よ。」
嘘だけど。
嘘だけど、青は少しだけ嬉しそうな顔をした。
おじいさん……というかおっさんというか、兎に角小人達の笑顔はなんだか癒される。
……しかし、この半月で私が喧嘩の仲裁役になると、誰も思わなかっただろう。
何故こんな事になったのかは、半月前の自分が行った事に関係がある……当たり前だが。