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『神谷』さん家の『ネコ丸』が死んだ。

掲載日:2019/04/03

 この文章を、運営さんにbanされた神谷ネコ丸さんと、その追悼企画をやろうと言った絢さんに捧ぐ。


 そして、リポグラムという遊びをわたしに思い起こさせる切っ掛けとなった、石河翠さんと、彼女の短編集、「『あい』を失った女」に感謝を。


この文章は、

『か、が、こ、ご、ね、ま、み、や、ゃ、る』

の文字を使わずに書かれている。

「なに、あいつ死(し)んだの?」


 隣(となり)の家(いえ)の愛猫(あいびょう)さ、死(し)んでたんだって。


 遅(おそ)い夕飯(ゆうはん)のあと、僕(ぼく)は最愛(さいあい)の人(ひと)に、そんな話(はなし)をされた。


 ふーん、つい先日(せんじつ)も鳴(な)いて挨拶(あいさつ)してくれたのに。




 黒(くろ)い体毛(たいもう)に黄金(きん)の眼(め)、ぴんと生(は)えたひげ、細(ほそ)いしっぽ。


 よく塀(へい)の上(うえ)でだらりとしていた雌(めす)だ。


 出勤(しゅっきん)のときも、帰宅(きたく)のときも。


 いつも塀(へい)の上(うえ)にいて、僕(ぼく)を睥睨(へいげい)し、機嫌(きげん)の良(よ)いときは鳴(な)いて挨拶(あいさつ)した、そんな雌(めす)だった。



「なんで死(し)んだのさ。……轢死(れきし)? 以前(いぜん)も二度(にど)、トラックに潰(つぶ)されそうになってたのに」



 もとは隣(となり)の家(いえ)の主人(しゅじん)に拾(ひろ)われた野良(のら)の雌(めす)だったらしいけど、ふと居着(いつ)いていて、その夫婦(ふうふ)には溺愛(できあい)されていた。


 僕(ぼく)は野良(のら)の雌(めす)にそんなふくふくしい名(な)をつけて……と思(おも)ったものだった。


 拾(ひろ)われた最初(さいしょ)はあばらの浮(う)き出(で)たちびだった。でもあいつは立派(りっぱ)な雌(めす)に育(そだ)ってきていたのに。




 そう、とても『らしい』雌(めす)だった。


 全身(ぜんしん)をしっぽで覆(おお)っては球(きゅう)のように、大(おお)きくのびをしてはすらりとしていた。


 手(て)をのばせばそっぽを向(む)き、手(て)をひけばすり寄(よ)った。


 だれにも餌(えさ)をもらい、だれにも懐(なつ)きはしない。


 大(おお)きな音(おと)に逃(に)げていくくせに、発情期(はつじょうき)には大(おお)きく喘(あえ)ぐ。


 臆病(おくびょう)なくせに、危険(きけん)ににぶく。


 美(うつく)しく、薄汚(うすぎたな)く。


 矛盾(むじゅん)そのものであり、神秘(しんぴ)を体現(たいげん)していた。



「ふうん、隣(となり)の夫婦(ふうふ)だけではなくて。あいつを好(す)きなの、何人(なんにん)もいたのにさ。寂(さび)しく思(おも)われてんでしょ」



 僕(ぼく)の最愛(さいあい)の人(ひと)も、あの雌(めす)を愛(あい)していた一人(ひとり)だろう。


 傾城(けいせい)の名(な)を戴(いただ)く動物(どうぶつ)はあいつらだけだ。男女(だんじょ)を問(と)わず、あいつらには太刀打(たちう)ちできない。


 僕(ぼく)は最愛(さいあい)の人(ひと)の手(て)をひき、ベッドにさそった。


 泣(な)いていた跡(あと)を目尻(めじり)に覚(おぼ)えたので。




 ……とはいえ、あいつなんていなくても朝(あさ)はいつも通(どお)り。


 いつも通(どお)りに朝(あさ)の準備(じゅんび)をして、いつも通(どお)りに出勤(しゅっきん)。


 ただ、塀(へい)の上(うえ)にあいつはいないというだけ。


 そう、鳴(な)いて挨拶(あいさつ)されないだけ。


 今日(きょう)も、駅(えき)へとつづく隘路(あいろ)を歩(あゆ)む。


 隣(となり)の家(いえ)には、その雌(めす)はいなくなったけど、別(べつ)の家(いえ)に似(に)たような黒(くろ)いのを目(め)にした。


 ひょっとして、あの雌(めす)の娘(むすめ)?


 それとも別(べつ)の雌(めす)?


 僕(ぼく)はふと笑(わら)う。そうだったな。Nine(ナイン) Lives(ライブス)、九度(くど)の命(いのち)を生(い)きていくものよ。


 僕(ぼく)らに心配(しんぱい)されなくとも、あの雌(めす)はよろしく生(い)きていくのだろう。


 さらばだ、友(とも)よ。


 いずれ、その別(べつ)の塀(へい)の上(うえ)で、僕(ぼく)にその背(せ)を撫(な)でさせておくれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら拝見させていただきました! リポグラムとは思えないくらい文章が自然で、「ホントにリポグラムか!?」と最初疑ってしまいましたw その上でしっかりと純文学になっている! 驚嘆です。…
[良い点] 凄いです! 10文字もの縛りを設けて ここまで素晴らしい文章を構成するとは。 しかもここまでの長文を…… 感動しました。
[良い点] どこかウェットで、それゆえに色鮮やか。そんな印象を鮮烈に抱きました。 「が」が封印された状態で小説ってかけるの?! しかもこんなにすてきなの! と驚愕です。 すてきな作品を読ませていただき…
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