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言葉の練習  作者: さいこ
2/5

眩暈

揺れた。

それは僕自身であった。


真っ白な広い部屋に浮かぶような。

群青色。藍鉄色。そんな何か。


あまりにも大きくて、目を背けていたもの。

目に見えれば、霧のように莫大に漂って、拭えない。


夜のような黒を孕んで、強く揺れる。

それは僕自身であった。


思えばこれまで、永い刹那を凭れかかって来た。

いつからか角膜と水晶体の間隙に雲がかかっても、怠惰に振る舞って来た。


右が良ければ右と言わせ、左が良ければ左に引き寄せた。

だから、僕の背後は一本道であった。


現在地は地平線の端っこ。

長い道のりを振り返ると、足跡が1人分と、地を這ったかのような跡。


気づくには少し遅かったみたいだった。


間隙の雲から角膜を通過して雨が降った。

それすら濃霧の中で、許されないと分かっていた。


這った跡に雨粒が落ちると、灰神楽のように舞って、揺れた。

それは僕自身であった。


地平線を踏み越えた先に、どうやら色はないらしい。

澱のようなものが、蠢く。蠢いている。


夜に潰されて、眩暈に溺れて、僕は仰向けになった。

逃げるように微睡み、夢を見た。


紫蘭の花が咲き誇る一面の草原に、立っていた。

注ぐ陽は暖かく、ビビッドな景色がどこまでも続く。

まるで幼い頃に描いた絵のようであった。


カラスアゲハにつられて振り返れば足跡は2人分。

寄り添うように続いていた。


そこで泡沫は弾けた。

現在地は地平線の端っこ。


冷えきった手の甲で目を擦っても、雲は晴れない。

鉛のような体を起こして、一つ呼吸をする。


乾いた空気が肺に流れ込み、ぐらりと大きく揺れる。

それは僕自身であった。


ふと、道端を見ると、味気ない風景に、一輪の紫蘭。

手を伸ばして、瑞々しく咲くそれを撫でた。

色のない地平線の一歩向こうと、皮肉なまでに対照的な鮮やかさ。


僕は地面に残る這った跡にキスをして、立ち上がった。

微かに、また灰が舞う。


徐々に朽ちる一本道に別れを告げて地平線の彼方へ墜ちた。


夜のような黒、灰神楽、カラスアゲハ、濃霧、泡沫、紫蘭、眩暈……そんな何か。


揺れる。

それは僕自身であった。

あなたを、忘れない。

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