第23話 エピローグ ――堕ちた人、澄んだ人
ご希望があったので、エピローグに「ざまぁ編」を追加しました。
ハネムーン中、ゆっきーと、ずっとケンカばかり。
「どういうことなのよ!」
「オレだって、わかんねぇーよ」
ヨーロッパ旅行は最低だった。そもそも「ヨーロッパなんて、何度も行ってる」って話だったじゃない。
イタリア語、フランス語がダメなのは仕方ないかもしれないけど、商社マンだよね? なんで英語も喋れないのよ。
タクシーの運転手との会話も怪しげ。スマホの通訳アプリを頼りにするはずが、ローミングの手続きをしてなかったらしい。役に立たない!
あげくに、セーヌ川の反対の岸で下ろされたところでケンカになった。
ホテル、レストラン、楽しみにしていたショッピング。
じもティーとコミュニケーションを取れなんて言わないけど、道を聞くくらいは男の人ならできて当然。
なのにゆっきーは、何もできない。挙げ句の果ては「ノン! お前、フランス文学専攻だって言ってたじゃん!」と私に文句を言う始末。
フランス文学は専攻したけど「フランス語」なんて知らない。アベセくらいならわかるけど、発音なんてわからないもん。
そもそも、フランスなんて旅行者で儲けているクセに、日本語の標識くらいつけなさいよ。
そして、ルーブル宮のそばで声をかけられた。イケメンだ。
「ここ、フォトスポットですよ!」って日本語で話しかけてきたので、喜んでスマホを渡したら、とんでもなかった。
「チップ、チップ!」
と手を出されて、百ユーロをふんだくられたって、いくらになるの? え? 二万円…… やばっ。
そこから、いろいろとサイテーなハネムーンだった。
そして、帰って来てからはもっと大変。
「パパの会社が潰れてた……」
「何で、そんな大変なことを今ごろ?」
「新婚旅行中は心配掛けないようにって、言わなかったって」
「お友達とかから、言われなかったの?」
「昔のダチからは、大変だなとか、ナカーマとか、わけのわかんないDMがたくさんあったんだけど、面倒だから、そのままにしてて」
成田で、またケンカになった。
でも、それだけでは終わらない。
「え? 北海道か沖縄を選べ? 旅行とか、出張じゃなくて?」
「どっちも子会社への転属なんだ。有休が明けたら、その日のうちに選べってメールが入ってた」
「どういうことよ!」
「パパの会社のコネで入ったからってことらしいけど……」
「まさか、潰れたから、ポイされちゃうの?」
「ゴミみたいに言うなよ!」
さっきから、ゆっきーは、半ば怒鳴るみたいな返ししかできなくなってる。
気が付けば、凍堂家はメチャクチャだった。
リビングでは「ママ」が意気消沈。パパは「放浪の旅に出る」とか言い残して、帰ってこないし……
連絡は取れてるみたいだけど、今は名古屋でパチンコ三昧してるって、写真入りのメールが来てた。
そんなことをしてる場合じゃないと思うんだけど。
そして、役員待遇だったから、倒産しちゃうと退職金もでないらしい。あと数年で億単位の退職金と、子会社の顧問で高給が保証されているって自慢してたのに……
ゆっきーは、こういう時でも、ママ優先。私と口論するとき以外、つきっきりで背中をさすってる。
優しい息子みたいだけど、凍堂家の問題解決には役に立ってない気がするっていうか、なんで私ばっかりが食事を作るのよ。
しかも、せっかく作ったのに、文句ばっかり言われる。
「凍堂家の夕食です。最低五品は必要ですからね。それに、せっかくだけど、これじゃあ季節感が全然無いわ。彩りも悪いし。あらあら、お出汁の扱いも全然ダメね」
ダメ出しのあげく「作り直していらっしゃい」だ。
あんたはどこぞの美食マンガの陶芸家か!
さすがに新婚早々、姑に逆らうのもどうかと思うから、動画を見ながら作るけどさ。
半日掛けた料理を食べた後は、あれこれ洗い物。品数が多いってことは洗い物もそれだけ多くなるんだよね。
しかも、この家のお皿って、ちょーお高いから雑に扱えないらしい。「食洗機」すらないから、ひとつずつ手洗いするしかない――全てを、つきっきりで、ママに監視されながら。
で、昼間ケンカになった「北海道か沖縄の話」だけど、ママはあっさりと裁定を下した。
「ユキ君はママと暮らす方が良いと思うわ。ノゾさんも、まだまだ、仕込まなきゃいけないみたいだし」
「でも、ママ、転属の話は断れないんだ」
「あら、それなら簡単よ。辞めちゃえば良いわ」
「だけど、今の会社みたいなところは、なかなか入れないよ」
「何言ってるの。大丈夫よ。パパがどこかに頼んでくれるわ」
「あ、そっか~ 今の会社も、それで入れたんだし。きっと大丈夫だよね」
私は、二人の会話を聞いて、一人蒼ざめるしかない。
だって、パパのコネって、要するに「パパの会社」があったから。潰れた今となっては、どこにコネがあるって言うか、本人がそもそも無職のオッサンなんだけど……
それとも、凍堂家には、何か特別なコネがあるんだろうか? 自信たっぷりなママの顔を見てると、ひょっとしたら、家系的な何かがあるのかも知れない。
私はそう思って、何も言わなかった。
――でも、何もなかった。
退職届を出したゆっきーに、雀の涙の退職金が振り込まれた頃、凍堂家には、さらなるピンチがやって来た。
「え? 背任?」
パパが会社のお金を使って好き放題にしていたらしい。それを補填しろって、弁護士さんがやって来た。
「補填できないと?」
「特別背任罪で告発することになります」
慌てて、ママが貯金をはたいたけど、それでも全然足らない。
ヤバい……
プンプン臭う「香ばしい匂い」だ。
しかも、足りない分として家を差し押さえられてしまった。
アパート暮らし? マジ?
すぐにでも離婚して実家に帰りたい。だけど「二度とウチの敷居をまたぐな!」と家を追い出された以上、すぐに戻れるはずがない。
第一、惨めすぎる。
どうせメグがドヤ顔してるに決まってる。見たくない!
帰りたいのに帰れない。だけど、ここに居場所も立場もないわけで……
その日から、無職のパパと、無職のゆっきー。そして口だけはやかましいママの四人暮らし……
そして――
私の本当の「結婚生活」が始まったころ、インスタにメグが写真をUPした。
会社の先輩とのツーショット。イケメンじゃないけど、真面目で優秀そうな男だ。
あいつめ、こんなのを隠してたなんて!
―― あれ? よく考えたら、メグの好みって、ゆっきーよりも、実はこっちだよね? 初めての彼氏も、イケメンじゃなくて、どっかしらボーッとした感じの男だった。……え~っと、白木だっけ? 白井だっけ? なんか、シラッとした名前のキャプテン。
覚えてないけど、男バスで、デカい子。面白半分に、声をかけたら、あっさり、メグを捨ててたよね。
楽しかったなぁ.メグのガックリした顔。でもさ、あの男と、顔は全然似てない気がするけど「真面目そう」って言葉で言えば、同じ雰囲気かもしれない。
――まさか、だよね?
正解は「白根君」でした。
次の作品も、もっと面白いものを書けるように頑張ります。
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