表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた公爵令嬢は初恋の王子様に真逆のことしか言えない  作者: 柑橘眼鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

第26話 ハーブティー

 舞踏会のアイデアを練る日々が続くうちに、いつの間にか数日が過ぎていた。その頃には、セヴリードが隣に座ることもすっかり日常になっていた。祝福の制限による真逆の発言も、今のところ起きていなかった。

 セヴリードとの時間が日常になることがとても嬉しい一方、自分から出来ることがないのがもどかしかった。ロニカの積極的な行動が純粋に羨ましかった。

 担当のブルバーンから郵便物が届いていると知らせがあったので、シャルロットは逓信室へと足を運んだ。恐らくナタリーからだろう。つい先日までシャルロットは屋敷に帰っていて、ナタリーと色々話が弾んだというのに。

 何が書いてあるのか気になりながら逓信室の扉を開けると、丁度ロニカが退室しようとしていたところだった。


「あっ、シャル様!」


 いつもと変わらない明るい笑顔がそこにあった。手にはこじんまりとした麻袋が握られている。


「こんにちは。ロニカは荷物の受け取りだったのかしら?」


「はいっ! 今度の代表会議にお出ししようと思ってる茶葉用のハーブを母様に送ってもらったんです。セヴ様やシャル様にお茶をふるまうことになったって伝えたら何故か母様が張り切っちゃって。手紙出してから少ししか経ってないのに、もう届いたんですよ!」


「ロニカはお母様とよく連絡を取り合っているのね」


「私としてはせっかく学園にいるのだから母様のこと忘れてたいんですけどねぇ。なかなか上手くいきません。でも今回は助かりました。全然、量足りませんもん。あーあ、本当はセヴ様と二人っきりでお茶したかったのになぁ。もっと近づきたいのに」


「そうなのね」


 どう反応すればいいのか分からないシャルロットは、とりあえず曖昧に微笑んだ。


「でもその優しいところも素敵なんですけどねっ! 気合を入れてお茶用意しようと思うのでシャル様も是非飲んでくださいね!」


「ありがとう」


 シャルロットの返事に満足したロニカは軽やかな足取りで逓信室を去っていった。

 一つ深呼吸をして受付に並ぶ。ロニカの真っ直ぐさが最近ひどく眩しい。誰かを誰かが想うのは自由だ。とはいえ、自分に出来ないことを堂々と出来る存在はとても心に来る。


――――お腹の中にいるその子には私が味わった地獄のような苦しみ、切なさを同じように味あわせてあげる。


 魔女ルベリアがシャルロットに祝福をかけた際の言葉が脳裏を過る。ああ、きっと今の自分は彼女の期待通りの状況に置かれているのだろう。ロニカのような存在を想定していたのかは不明だが、王子であるセヴリードは必ず誰かと婚約し、結婚する。今の状況も苦しいが、正式なお相手が決まったら想像を絶する辛さがそこにあるだろう。

 セヴリードの横に誰かがいて、その誰かを優しくエスコートする姿はきっと見ていられない。

 双方の感情を考慮するとはいえ、基本的に貴族の結婚は政略結婚だ。こんな心持ちは褒められたものではないだろうが、ずっと想っていた分、簡単に割り切れるものではなかった。


 列は進み、受付へとたどり着く。やはり手紙の送り主はナタリーで、受領簿の差出人欄には彼女の名前があった。署名をし、受け取る。

 特に予定もないので、シャルロットは寮へ戻り、手紙を開けてみることにした。



親愛なるお嬢様


 先日お目にかかったばかりだというのに、お嬢様にお伝えしたいことばかりで思わず筆を執ってしまいました。

 旦那様がお呼びした一座の上映後、エルヴェ様が魔女の作る薬に興味をお持ちになったことはご存じのこととは存じますが、それに乗じて旦那様は複数の書物をお取り寄せされました。エルヴェ様も大変お喜びのご様子で、それらの書物を抱えながらまた隣国へと向かわれました。

 お二方がそれぞれ学業に戻られ、旦那様はご領地を視察に行くとのことで今準備されております。伺ったところによりますと、その途中でスライドに投影されていた魔女の住処の近くにある村にも訪問されるようです。祈りの日までには戻られるとのことでした。

 奥様はお屋敷に残られるため、私もお屋敷に残ります。何かご不便がありましたら、変わらずお知らせいただけましたら幸いです。

 これから季節はやがて秋へと移り、気温も下がってまいります。どうかお身体を大切になさってください。


ナタリー



 どうやら公爵は領地の視察がてら学者が訪れたという村にも訪問するようだ。シャルロットにかかっているのは呪いではなく祝福だが、魔女は元々聖女候補が深淵の魔女による悪しき囁きに耳を傾けた結果誕生している。そこから調べることで分かることもあるかもしれない。

 父親の調査に少しだけ期待しつつも、シャルロットは過度な期待はやめておくことにした。



 * * *



 次の代表会議の日を迎え、前回と同じようにシャルロットはセヴリードと談話室へと向かった。

 談話室の扉を開けると、すっきりとした清涼感のある香りが広がった。ロニカが早速ハーブティーを淹れたようだ。

 全員が着席するとロニカはそれぞれの茶器に薄黄緑色の液体を注いでいく。茶器の横には蜂蜜が入った容器が置かれており、好みに合わせて楽しめるようになっていた。

 シャルロットは早速いただいてみた。爽やかな柑橘の香りがふわりと鼻を抜け、すっきりとした味わいが喉を優しく潤した。緊張がほぐれながらも思考はすっきりさせるような、そんな味わいだった。


「お味はいかがですか? 私のお気に入りのブレンドなんですけど……!」


 感想を聞いてはいるものの自信があるようで、ロニカは笑顔を浮かべていた。


「とても美味しいよ。ありがとう、ロニカ」


 その声に続き、穏やかな賛辞が円卓を巡っていく。ロニカはとても嬉しそうだった。

 こういうことがずっと続いて行けばセヴリードの心もいつかはロニカに傾くかもしれない。受け入れがたいがそういう未来が一瞬想像できてしまった。

 このやるせない気持ちを表に出すわけにはいかない。シャルロットは気持ちを隠すように、蜂蜜をたっぷりと注ぎ、もう一度カップに口をつけた。ほぼ蜂蜜の味になってしまい、せっかくのハーブティーの味わいは消えてしまった。


 代表会議は無事に終わり、王道で伝統的ながらも魔石を使用した最新技術も取り入れた舞踏会を目指すことになった。王太子や天才魔法使いがいる代として相応しい方向性に満場一致で決まった。


 会議終了後、グレトーナが柔らかな足取りでシャルロットのもとへやってきた。


「ねえ、シャルちゃん。お疲れかしら? 今度放課後にフィンくんとお菓子を持ち込んだお茶会をするのだけれど、どうかしら? きっと楽しい時間になると思うの」


 きっと参加したら楽しいだろうが、流石に二人の時間に割って入る気にはなれなかった。もし二人が良い雰囲気になった場合、どう立ち振る舞えばいいのか皆目見当つかない。空気を壊してしまったら大問題だ。


「ありがとう。でも大丈夫よ。二人で楽しんでちょうだい」


「分かったわ。無理しないでね、シャルちゃん」


 グレトーナはそういうと扉へと向かっていった。そこにはフィンが待っており、二人の仲睦まじさがひしひしと伝わってくる。


「シャル、大丈夫?」


 隣から労わるような優しい声が聞こえてくる。顔を向けると、セヴリードがこちらを覗き込むようにして、心配そうな表情を浮かべていた。

 セヴリードが原因だなんて口が裂けても言えるわけがないのでシャルロットは事実を飲み込み曖昧に微笑んだ。


「ありがとうございます。少し疲れているみたいです」


「シャルが元気ないと心配だよ。今日はゆっくり休んでね」


「はい、殿下」


 セヴリードの気遣いが嬉しいのに、その喜びを素直に出せない自分にまた嫌悪してしまいそうだった。


 そんな中、ロニカの「いいなぁ、シャル様は」という声が耳をかすめる。別にシャルロットはこれが特別なことだとは思っていなかった。グレトーナやロニカが体調を悪そうにしていれば同じように声をかけるだろう。

 シャルロットとしてはロニカの方が羨ましくて仕方がなかった。結局、他人の手の中にある幸せの方が、いつだって輝いて見えてしまうのだろう。

 やるせない気持ちを抱えながらシャルロットは静かに談話室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ