【S5】歩いてきた人生
わかってる、わかってるよ……いやきっと俺はわかっていないんだろうけど。
「おい、何したんだ?」
「ちょっとな」
パラダを迎えに来たジストは、こちらへ振り返ろうともせずカツカツと早足で目の前を歩くパラダの様子を、随分と不審がっていた。
いつもならばパラダは俺の隣か、誰からの横を歩くことが多いのに、今はいかにも機嫌が悪いですといった様子で俺たちの五歩先を行く。
こんな居心地の悪い帰り道は初めてだ、周りに敗残兵が多いのも一層それを掻き立て、まるで叱られた子供の心持。
まぁ、俺のせいなんだが。
「説明しろ、彼女と一日過ごすのは私なんだぞ」
「そうだなぁ」
事の顛末はそう難しくない、俺がダグレイスと話していたあれだ、あの会話の内容がまずかったらしい。
俺はそもそもリレーアの救援のつもりできているから、やれることは何でもやるつもりであったのだが……。
“そんな危険な場所に行くなんて!”
怒られてしまった。
「お前、馬鹿だろ」
「なんだよ、仕方ないだろ」
この街を助けるために必要な事なのだから、それを行う以上危険はつきもの。
安全なところに居て何かを変えるのは政治家の仕事で、俺たち兵士は常に危険と共にある……それくらいパラダにもわかっていると思うんだが。
とにかくこのまま怒らせたまま別れるのはどうにも心苦しい。
「パラダ」
俺の呼びかけに彼女がびくりと体を震わせ立ち止まる。とりあえず話を聞く気はあるらしい。
「悪かったとは思ってる、相談もせずに急にあんな話をしてしまって」
「……」
「けどな、俺はこれをやらなきゃいけない立場にあって、なんだ、そうするのが当然というか」
「王はリレーアにいるだけでいいとおっしゃりました」
「それはそうだけどさ」
まさかこんな状態を放っておいて客将らしく部屋の中で豪華な食事を楽しんでいるわけにもいくまい。
「それに、このままいけばどうせここは戦場になる。 だったら先手を打つべき、違うか?」
「……」
どうにもこいつは深刻な事態らしい。いつもならここらへんで大きくため息をついて、仕方ないですねと許してくれるのがパラダなのだが。
「どうして」
「ん?」
パラダはようやく俺に振り向いて、その顔を上げる。
その表情はどうにも表現しづらい、困ったような、怒っているような……それでいて泣いているような顔だった。
「どうして、あなたはそんなに簡単に命を投げ捨てる様な真似をするのですか」
そういうとパラダの目に涙が浮かぶ。他人の命にそこまで感傷的になれる人間というのはそういないもので、彼女はまさに聖女らしい女性なのだな。
それゆえに俺と彼女は一生相容れないのだろう。
「それが兵士だからさ」
「だったら兵士なんてやめてください。 私と一緒に、教会で暮らしましょう、静かに。 王もそれを望んでいるはずです」
言われてみれば考えたことなかったな、兵士をやめるか。確かにそんな選択肢もあるのだろうな。
いや、あったのだろうな。
「悪いがそれは無理だ」
「どうして!」
パラダと共に教会で子供の世話をするのだって嫌いじゃない。シャインガルで過ごしたあの穏やかな日々も、楽しくなかったわけじゃない。
だけどあそこは俺の居場所じゃない。
「これをやめたら、俺はどうやって生きればいいのかがわからんのさ」
俺のいつもそばにあって、俺と一番同じ時間を過ごし、命を共にしたこのライフルの銃把は、もうすっかり俺の手のひらになじんでいる。
赤く染まった俺の手も、赤い靴も、すっかり俺をここから逃がしてはくれないのだ。
それが、恐らくきっと、命を奪うということなのだろう。




