【12】目的
魔女ねぇ、majorならなじみがあるんだが。
「笑いごとじゃありませんぜ、あの魔女一人に俺たちは随分苦しめられたんでさ」
「いや、すまん馬鹿にしてるわけじゃないんだが、どうにもこう俺にはなじみないことでさ」
「まぁ俺もついこないだまで爺さんのほら話だと思ってたんで人のこと言えませんが、まさかバイバレスの連中が連れてくるなんて思いもよりませなんだ」
しかし俺が行くのも止めるほどとは、それほど恐ろしい存在なのであろうか。
「魔女ってのはどれくらい凄いんだ?」
「えぇそりゃもう、地平が焼き焦げたり、大気が唸ったり、雹が降ったり……ありゃ化け物ですなぁ。 あれのせいで俺たちの戦列があっという間に崩されてこの有り様」
「ふむ」
たった一人でそれほどの力を持つとは、魔術とやらを使うのだろうが、そいつも山の民ということか?
「あ! 聖戦士様、もしかして信じてない!?」
パラダの手をすり抜けてこちらへ近づいてきたコニューが、俺の方へと顔を近づける。
どうやら俺の表情はまだ真剣なものにはなっていないようだ。
「魔術は使い手さえ相応の人間ならその程度簡単にできちゃうんだからね! 古の魔女たちは過去に災厄と戦うために大地を凍らせ、大陸を冷気で閉じたんだから!」
「コニューもできるのか?」
何気なく聞いた一言なのだが、コニュー先ほどまでの強気な表情とはうってかわって急に眉を曲げてしまう。
「こいつですね、研究はしてるんですけど、使う方はからっきしなんですよ」
「あっ! このハゲ!」
あぁなるほど、知識と経験は別物か。
「もしこいつがあの魔女みたいだったら俺たちももっと楽なんですがねぇ、いかんせん」
「この、この! 僕だって一生懸命やってるんだからな!」
「うるせぇ出来なきゃ同じだ」
ふむ。
「というわけでですね、聖戦士様。 前線に行くっていうのはちぃとばかり危険なわけで、どうぞ諦めちゃくれませんか」
「そうだな」
「すいません、せっかく俺たちのためにやってくれようとしたのに」
ダグレイスの目は俺に申し訳層にしつつ、安心したように目じりを下げていた。
いやぁ悪いな、ダグレイスにはもう一度驚いてもらうことになるなこれは。
「余計行く必要があるな」
「……どうしてそうなってしまいますかい」
頭を抱えて机に突っ伏するダグレイスに、少々申し訳ない気持ちも湧いてくるが、どうしてもここは譲れない。
「魔女を始末できればリレーアだけで敵を追い返せるのだろ?」
「えぇそりゃもう……って!」
「俺ならできる」
というよりも俺しかできないだろう、彼らの投げ斧でまさか魔女の頭にちょうど当たるまで投げ続けるわけにもいかないであろうし。
「お止めしたって聞いてはくれないんでしょうなぁ」
「いや、どうしても行くなというならやめる。 俺はここの援軍であり、ダグレイス伯、あんたはここの最高指揮官だ。 その命令には絶対遵守する」
だが俺ならできる。
「だがそれが可能なのだとしたら? 伯、あんたの頭の中ではもうはっきりと答えは出てるはずだ」
「……」
倉庫の奥に眠りこけていたあのライフルならば。
「くそっ、お上手だ。 俺に断る理由がないのを知ってらっしゃる」
「部下を信頼するのだって上官の仕事さ」
L115A6、.338 ラプアマグナム仕様のこの精密対人狙撃銃であれば。
「……お気をつけて」
「任せろ、こんなところで死ぬ気はない」
まさかこんなものまであるとは思わなかったが、今回持ち込んできて正解であった。
「必ずラジルド将軍を連れて帰り、魔女の狙撃を成功させて見せる……まぁその前にまずは飯だ、食べてしまおう」
俺に与えられた任務はリレーアを助けること。具体性のないこの仕事が、ついに具体性をもって動き始めようとしていた。




