【10】否定
檻の中で毎日過ごす動物っていうのはこんな気分か? じろじろと奇異の目で見られて、興味深そうにぎょろぎょろと覗かれる。
正直に言うならあまり歓迎したい状況ではないが。
「……」
初対面の相手にここまで遠慮なしにできる相手に何を言っても無駄だろう、コニューが飽きてくれるのを待つしかない。
「ふ~ん……、羽が生えてたり、角があったりするわけじゃないんだ」
「ご期待に沿えなかったか?」
「そうだね、ちょっとがっかり」
鈍い音、骨と骨がぶつかった音。コニューの脳天に突き刺さった拳は、素手とは言えコニューの頭よりも大きいような特大サイズ、痛みも特大だろう。
「このアホ! 聖戦士様になんて口ききやがる!」
「って! 何すんだよハゲ、一々頭を殴るなって言ってるだろ! それに僕には関係ない話!」
「あ! この、まったく! すいませんねぇ、こいつほら魔術を学んでるって言ったでしょ。 その関係で信教の方からその、疎まれてましてね」
「あぁ」
なるほど、ようやく合点がいった。この禁術、忌み嫌われている(といっても教会とその信徒からだが)魔術とやらを扱っている以上、彼女はこの国で数少ない異教徒なのだろう。
無神論者と言い換えてもいいかもしれない、どちらにせよ、彼女にとって宗教的シンボルである俺は何ら意味を持たないというわけだ。
彼女のこれまでの態度もそういう事情を鑑みればうなずける。
「いいから黙ってお前はその頭聖戦士様に貸しとけ! いいな! 余計な事言うんじゃねぇぞ!」
「ふ~んだ嫌だねぇ~、何で僕がそんなことしなくちゃいけないんだよ、勝手にそっちでやればいいだろ~。 それとも何? 父さんもようやく僕の大陸一の知性を認めたってわけ」
小脇に抱えられているというのに随分と余裕の態度だ、ダグレイスの拳が今一度振り下ろされるのも時間の問題に思えるが……
そうやってこじれられて彼女の協力が取り付けられないのも困る、現状魔術に対する唯一の情報源なのだから。
仕方あるまい。
「コニューといったな」
「……そうだよ、なんか文句ある?」
「神を信じていないようだな」
俺が発した言葉にダグレイスが青くなる。
「当然でしょ」
「なっ!」
そんな父親の心配も余所にコニューはあっけらかんと答えて、まるで悪びれた様子もない。
この国で信教を同じくしないものというのは要するに移民や山の民のそれであって、あまり歓迎される類のものではない。
さらに言えば彼女はその山の民の魔術なんか研究していて
「はっきり言うな」
俺は聖戦士だ。青ざめ切ったダグレイスの頭の中には異端審問の四文字が浮かんでいるに違いない。
「あったり前でしょ! 神様がいつ僕らを助けてくれたっていうのさ! そんな奴がいるなら今押し寄せてきてるあの連中を滅ぼして見せろってんだ!」
「コラ、黙れ! 馬鹿!」
「うるさいうるさい!」
ダグレイスに小脇に抱えられたままじたばたともがくマニュー、この二人は余程仲の良い親子なのだろうな。
「実はな」
少々羨ましくすら思ってしまう。
「俺もだ」
「は?」
「え?」
俺の言葉に同じような反応を返す二人、やはりこの二人は親子のようだ、見た目が似ていなくてもその心底がよく似ている。
「俺も神を信じていない。 もし神がいるのだとしても、苦難を退けるのはやはり自分の力だと思っているし、俺はそのためにここにきたのだから」
「……」
ダグレイスはあっけに取られて口を半開きのまま固まってしまった。それはそうだろう、信教のシンボルたる聖戦士が教えを否定したのだ、天と地がひっくり返るとはまさにこのことだろう。
一方彼女といえば
「……!」
目いっぱいその目を見開いて、先ほどまで俺に向けていた視線とは別種の、熱籠ったまなざしを向けていた。




