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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
The Sum of All Army
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【6】運命

 よし、こんなものか。


「こっからここまで詰め込め、慎重に扱え?」


 地面に並べられた木箱。プリントされた文字は5.56mmx45mm、それを六つ馬車に運ぶよう指示する。


「急げよ! ゆっくりやってたら日が暮れるぞ!」


 出発は三時間後、それまでに荷を全部上げて、これから始まる二週間の旅に備えなければならない。

 俺たちが食いつなぐ食料も水も、馬たちの分だって乗せていかなければならないから、旅というのは人数が少なければ少ないほどその道は早くなる。


「名簿は?」

「こちらです」

「……よし」


 全員の名前を確認したわけではないが、ざっと目を通して五十六人全員がいるようだ。


「本当に良いのか」

「あぁ、それよりお前がこんなところで油売ってていいのか? 忙しいんだろ」


 出立となって俺を見送りに来たのは王宮で一番忙しいはずの人間。

 俺に今後のスケジュールを説明しようと出てきた執事を手で制しながら、アーニアルは俺の隣に立つ。


「たったこれだけの人数、道中何かあれば心もとなく思うのだが」

「逆だ、ぞろぞろ大人数で行動している方がもめごとを引き寄せる。 本当は六人で行動したいところだが、目的が目的だから最低限これだけは連れていく」

「ふむ。 まぁお前がそういうのであれば」


 リレーアまではアルカトール領内、山間に囲まれ敵襲の心配はない道である……とはいえ山賊、野盗の類は存在しているし、山の民も俺たちに好意的というわけではない。

 出来るだけ穏便に行動し、リレーアまで到着することが肝要となれば、あまり中途半端な兵を引き連れていくのは得策とは言えないだろう。

 特に俺には将軍の代わりなんてできるわけがない。将たるもの兵の規律を引きしめ、その士気を保たねばならないのだ。小隊一つ預かる程度なら問題はないが、これが三百人、五百人ともなってくれば話は変わる。

 大将軍にはそれなりにふさわしい人格と人物が必要となるのだ、端的に言えばカリスマというやつ。


(そういうところはわからないんだなこいつ)


 最近わかったことだが、政治的に頭の良く回るアーニアルはこうした軍事と用兵に関して驚くほど無頓着……というか知識がない。

 数さえあれば敵に勝てる、程度の認識だということがわかった。

 

 一応それを諫めるのはソーリスの爺様なのだが、爺様もあまり知識がある方ではないらしく、ことごとく外れた助言をしているのをよく見る。

 まぁシャインガルの防備で盗賊と戦うのであればそれでも良いのだろうが、此度は国家同士の総力戦だ、こんな認識で兵を戦わせれば無暗に兵を傷つけるだけ。

 

(……俺が頑張るしかないか)


 向こうの状況がどうなっているかはわからない、だからこそ俺がそこに入って、アーニアルに必要なものを教えてやらなければならないのだろう。

 まさか教練で叩きこまれた古代の戦史がこんなところで役に立つとは、人生とはわからないものだ。


「ふっ」

「何がおかしい」


 デルフに言われてから気が付いたが、確かに俺と話している時こいつはよく笑う。

 俺もこいつになら気兼ねなく言葉をかけているし、王相手に随分失礼なことだが、一番気を使ってないのがこいつだ。


「いや、随分と嬉しそうだな」

「あぁ」

「そんなに家に帰るのが嫌か」

「……」


 まぁ正直その点は否定できない。

 これから長く旅に出れるという事でほっとしている部分がかなりあって、内心戻ってきたら元の生活に戻れるんじゃないか、なんて希望すら抱いてるから。


「うるせぇ」

「色男のくせに女は苦手か?」


 こいつは。


「ではな聖戦士殿」

「あぁ行け行け、二度と来るな」


 執事に引っ張られ去っていくアーニアルを横目に、俺は腰かけていた木箱からゆっくり体を持ち上げて、荷がちゃんと積み込まれているかの確認を行う。

 やはり最終点検は自分の目で、信用しているというのは裏腹無責任でもあるということをよく知っているから、万が一もないよう己でやるのだ。


 ……やはりパラダにもジストにも黙ってきてしまったのは少し悪かったかもしれない。

 俺が何も言わなくても彼女たちは大丈夫だろうという信用を押し付けてしまった、もしこれが原因で何か騒ぎが起こるようなら俺のせいだな。

 出立について硬く口を閉ざしてきてしまったことに、少々居心地の悪さを感じる。


「準備の方いかがですか?」

「あぁ順調だな、よくやってくれている」

「それは何よりです」

「この分なら一時間前には終わりそうだ」


 まぁだからといって教えたらパラダがどう行動するかわからない。まさかついてくると言い出さないとも限らないし。


「イヅさんは何をしておられるんですか?」

「ん? いや確認を」


 そこでふと気が付く、イヅさん?

 そしてそれが女の声であったことも今になって理解して、その不自然な状況に思わず振り返って


「……」

「どうかされましたか?」


 俺に満面の笑みを浮かべるその人がいることを見て、あとついでにその後ろにジストもいて。


「な、何で」

「今日ご出立だと聞いたので」

「私は神官殿の護衛だからな!」


 なんで。

 

「それで」


 どうして。


「私たちはどの馬車に乗ればよろしいのでしょう」


 俺の思うことはこううまくいかないんだ。

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