【B5】戦士2
☆ブックマーク10超記念
剣ね。
「おい、ほんとにやるのか」
「なんだ? 今更怖くなったのか」
使ったこともないし、ましてやまともに握ったことだってありゃしない。
ナイフと銃剣術は一通り習熟してあるが、刃渡り60cmもある剣を使ったことなどあるわけがなく、両手で握ってみるも随分と手に慣れない。
「素人なんだ、手加減してくれよ」
「そうはいくか、私の裸を見た罪は重いぞ」
「お前が見せてきたんだろうか」
事の始まりは家に一度戻った時。
荷物の整理に帰ったはずが怒り心頭のジストに訓練場まで連れてこられて、渡されたのはこの剣。
つまりここで一対一の決闘をしようということらしい。
ま、実際には刃がつぶされた訓練用の剣なので、摸擬戦ということになるのだろうが。
「構えろ、怪我をするぞ」
「なぁ今からでも槍に変えちゃダメか?」
「問答無用!」
踏み込みから一気に距離を詰めたジストが迫る、剣を担いで一撃必殺の構え。あれをまともに食らえば防具を付けているとはいえ骨の一本二本ヒビでも入りそうだ。
「チィッ!」
「……」
「せいっ!!」
「……」
だから俺としては当たり前の行動をとるしかない。
「お前!」
「なんだよ」
「真面目にやれ」
「やってるだろ」
目の前を通り過ぎる剣戟はこれで五回目。当たり前といえば当たり前、そんな大仰なふりかぶりをされては当たる方が難しいというもので
「おい、マジになるなよ。 怖いだろ」
「……くっ」
横なぎの一線をステップで躱し、落ちそうになった片手剣を握りなおした。
「お前に一発も当てられなかったら私は笑いものだろうが!! 当たれ!」
「無茶いうなよ」
更に熱の入る剣先。さすがにこのまま加速されては避けるのも難しくなるし、かといって剣をジストに当てるというのもどうにも気が引ける。
といって剣に当たってやるようなお人よしの精神も持ち合わせていないし、じゃあどうするかといえば
「この、この、こ……っ!?」
ジストの腕をとって、捻りあげるように外側へ、足は彼女の軸足とは逆の足をはじきながら、体重を支えた膝を裏側から押し込み、一気にその重心を傾ける。
「ぎゃっ!」
踏みつけられた珍獣のような声を上げて地面に倒れるジスト……を一歩手前で引いてやる。
さすがに重鎧をつけられたらそれもかなわないだろうが、今のジストは肌着に最低限の防具という軽い身なり、右手で支えるには十分軽い。
落ちた剣を蹴り飛ばしてやれば、剣を当ててはいないものの勝敗は明らか。
「……」
二人して沈黙したまま地面に俯き、そのままいくらかの時間が経った。
「な」
うつ伏せになったジストからしゃくりあげるような声が聞こえて、慌てて拘束を解いて地面から引きはがしてやる。
「泣くなよ……」
鼻水垂らして顔を真っ赤にして泣いている彼女は顔を少し土で汚して、その土を洗い流すように目からは涙がこぼれていく。
「嫌いだ、お前なんて嫌いだ」
「悪かった、悪かった、な? 機嫌直せ」
「うるさいバカ、どっかいけ」
あぁめんどくさい、うちのチームにいた元レンジャーの女なんて泣くどころか上半身にタンクトップ一丁でコマンドサンボを使い男を締め落としていたというのに、これくらいで泣くものなのか。
「ほ~らジスト、見ろ、これな、いろいろかちゃかちゃ押すと音が出るんだ、楽しいぞ」
「お前私馬鹿にしてるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
くそ、これでもダメか。俺の暇な時の手慰みだぞ。六面ダイスの表面に色々スイッチがあって、それを押すと音が出るんだ。
「じゃあほら……こっちの……これはだな」
「バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!」
しばらくそうしてジストを慰めるために色々と趣向を凝らしていた。
さすがに彼女をそのまま放置してどこかへと行けるほど神経太くもなければ、途中からこれら玩具の面白さを理解させることに躍起になっていたような気がする。
泣くジストを泣き止ませたら勝ち。なんだかそんな勝負ごとのような精神状態であったことは、否定できない……。
ちなみにジストの機嫌はFidget Cubeで治った。




