【B4】聖女2
☆30pt超記念
最近私の日記には書くことが増えた。元々聖職者にはこうして毎日の記録を付けることが義務付けられているのだけれど、最近は特に彼の記述が多い。
『今日もあの人はよくわかりません。 何を求めているのか、何を信じているのか、何を……』
そこまで書いて日記を閉じる。
(あの人は一体何が好きなんでしょうか)
こうして毎日書きつられていると、まるで何も知らないことに気づかされる。出身も、家庭も、好みも、まるで何一つ知らない。
結構長い間一緒にいるはずなのだけれど。
「随分おかしな奴だなそいつは」
「えぇまったく……」
全身の筋肉がこわばってうまく体が動かなかった、けれどなんとかひきつる首を徐々に動かして、その声がした方へと振り返る。
「あの……、いつから?」
「いや、今さっきだが」
私は馬鹿だ、そういえば今日は彼を教会に呼んでいたのだった。
「食事ができたようだから、俺が呼びにきたんだが、邪魔したか?」
「いえ、いえ! なんでもないです! ……日記どうでした?」
そういうと彼は少しはにかんでから、満面の笑みを私に向ける。
「あんた、男で苦労しそうだな」
顔が赤くなったのが自分でもわかった。
「大変だな、この世界でも恋愛沙汰は。 邪魔しちゃ悪い、俺は先に降りてるからパラダも早く来いよ。 あんたが熱くても料理は冷めてしまうからな」
笑いながら部屋から去っていく彼の後に残された私は咳ばらいを一つ、身なりを整えてから階段を下りていく。
区間長から聖女なのだからともらった個室だけれど、それだからここまで人が来ることなど思いもよらなくて油断してしまった。
いつもならちゃんと声をかけてくれるから私が出ていくので、ああして真横にいきなり人の顔があるということは今まで一度もなかったのに。
そこまで思い出してから彼の横顔を思い出してまた顔が赤くなった。
「……全くあなたはどうしてそうなのですか」
「あぁやめてくれ口うるさいのは、せっかくのご招待だ、気楽に食べさせてもらってもいいだろ?」
「おお神よ、なぜこのようなものに力をお与えなさったのでしょう」
階下から聞こえてくる会話を聞きながら、ゆっくり、ゆっくりとその光の輪に身を沈めていく。
「うるさいばあ様だな、まるで俺の……っと、主役のご登場だぞ」
「聖女パラダ、ほら、みなご挨拶なさい」
長い机を囲むように並んだ彼と、区間長と。
「「「こんばんは聖女パラダ」」」
「はいこんばんは」
たくさんの子供たち。この教会で養っている孤児達だ。
席は多く埋まっていたから、私の座るべきところはどこにも無いように見えたけれど。
「ちょっと、アインス、そこどきなさいよ」
「あぁ? なんでだよルチアノ」
「なんでもいいから! ほら!」
子供たちの中でも一番年長の女の子、ルチアノが隣に座っていたアインスを退かして、私ににっこりとほほ笑む。
彼女はどうもませているところがあって、私のことを誤解しているようで。
「あ、あの」
「んっ?」
アインスが座っていたのは彼の右となり。
「お隣……失礼します」
「あぁ」
武骨で、飾り気がなく、研がれたナイフのような横顔。
先ほどを見たそれが何故だかやたら美しいもののように見えてしまって、私はまるで出来の悪い農業機械のように体をぎくしゃくと動かす。
“あんた、男で苦労しそうだな”
えぇほんとに。
子供の体温が残るその木の椅子に腰かけて、なんだか体が暖かくなるのを感じながら食器を動かすのだった。




