【B3】少女
☆20pt超記念
太陽が落ちるまで、それが刻限だが、まぁまだしばらくはかかりそうだ。
「おい、ついたぞ」
手綱を引いて馬を止める。今日は随分とこいつにも無理をさせてしまった、後で何かしら用を計ってやろう。
「ありがとうございます」
「馬鹿、飛び降りたら怪我するぞ。 待っとけ」
背中に乗っていた彼女がごそごそと足を入れ替え飛ぼうとするのを感じて、あわてて先に地面へと足を付ける。いくら背のあまり高くない種とはいえ馬は馬だ。
地面に降り立ち尻の方へと二歩下がると、彼女の手を引いてやるために手を出しだす。
「聖戦士様は紳士的です」
「よく言われる」
彼女を地面に下ろしてやってから、手綱をもってこいつのたてがみを撫でてやった。今日は随分と頑張ってくれた、後で色々持って行ってやろう。
「その子、ハレスというのですよ」
「ん、あぁ、お前馬の世話してるんだったか」
「はい」
手綱を引いて城壁の入り口で待機していた男にこいつを引き渡す。引き渡す直前にぶるると鳴いて、その長い顔を俺に擦り付けてから、何度か振り返りながら厩舎へと向かっていった。
「さすが聖戦士様、馬にも人気があります」
「馬と子供にモテてもうれしくはないんだがなぁ」
おっと、今の言葉がどうやらお子様の癇に障ったらしい。怒りを露にして俺の方へきっと顎を上げる。
「今日お付き合いください!」
「なんだ? 何を?」
「この街を案内します!」
「いや」
別に案内されなくとももう結構な帰還滞在しているんだが。そりゃ全容を把握しているというわけではないにせよ、しかし迷子になるようなへまはない。
「……まいったな」
俺の袖口は不自然に伸びて、引かれた右腕に体は動き出す。もう断るという雰囲気でもないし、彼女が満足するまで付き合うしかないであろうことはなんとなくだが理解できた。
あぁ、神よ。いるなら答えてくれ。何で俺の周りによって来る女っていうのはどうしてこう面倒ごとばかり運んでくるんだ、一体俺が何をしたっていうんだ。
とまぁ愚痴ったところで終わる話でもなし……。
彼女はぐいぐい俺をメインストリートの人ごみに向けて引っ張っていく。正直言って治安もよくなければもめごとも多いあそこを歩くのはできるだけ避けておきたいところなのだが。
「わっ!」
こうなればとことんまで付き合うしかないのだろう。
「どっちだ?」
「おぉー!」
子供の足であの人ごみを渡らせるよりは、こっちの方がはるかにマシになる。彼女を背に担いでやれば俺の頭はすぐに小さな両手でつかまれた。
「高い! 聖戦士様、あっちです!」
「髪を掴むな髪を」
その指さす先は地面に落ちる影でしか見えようのないものだったが、騒がしい彼女の動きのお陰でどちらを向いているのかはすぐにわかる。
人ごみを肩切って歩くにもこれは少々不便であるけれど、彼女に手を引かれて歩くよりはマシだと、次々に当たる体の衝撃でつくづく実感した。
「ん? おい、あれ」
こうも目立つからさすがに俺に気づく人間だって出始めるわけで
「なんてこった聖戦士に乗ってる」
当然その反応はこうもなってくる。
「聖戦士ライダーだ」
「聖戦士にまたがるもの」
俺の耳に届く呟きはどうやら彼女には聞こえてこないらしく
「聖戦士様! 向こうです、向こう!」
「髪をねじるな、手綱にするな」
そうしてこの気楽な乗り手を運ぶため、俺はしばらくそうやって衆人環視の中、裏通りにある猫の集まる集会場まで歩かされたのだった。
ちなみに猫はいなかった(飯時だったらしい)。




