【32】謬見
一体何があったというのだ、いくら何でも遅すぎる。
「兵どもは未だ見つけられないのか?」
「は、遺憾ながら」
イヅも、女王も、まるで忽然とこの場内から消え失せたかのようにして存在が掻き消えた。
足取りはつかめたもののそれから先彼らがどこへ行ってしまったのか、まるでつかめないままもう四時間近く経っている。
(私を裏切り女王を助けた? いや、まさかな)
あの男は見る限り実利をとって行動するタイプの人間だ、あの女がイヅを言いくるめられたとも思えない。
イヅからしてみても私を敵に回してあの女に利するほどの価値があるとは考えにくいから、この考えはありえないと仮定しよう。
ならば今彼は何をしている? 女王を追って命を落とした? なるほどそれなら考えられる……が、今度は死体が見つからない。
あの女がわざわざ持って行く、どうして?
(一体何が起きている……)
とにかく今は報告を待つしかないようだ、全ては状況に進展があってからだろうな。
「私を困らせるな、イヅ」
「困らせたつもりはないんだがな」
ここは私の部屋、つまりこの城の中で最も警備が厚く、堅固な場所である。
入り口は一つしかなく、その入り口では常に警備兵が守りを固め、窓にはいくつも防護柵が張られているはずで
そんな部屋の中に出入りする姿も見せずに現れるというのは、まさに神仏のモノであるだろう。
「イヅ」
彼は私の後ろに立っていた。何を喋るでもなく、おどけるでもなく、ただ静かに。
「何故すぐに私の元へ来なかった?」
「用事があったからな、お前の元へは戻れなかった」
ふむ。
「用事というのは女王のことか? 彼女はどこへいる」
「さぁな」
彼は表情を動かして見せてはいるが、その心底探られないようにしている。これは、つまり。
(私を値踏みしているつもりか)
イヅの目は感情を宿していない、私を見る目は、言ってしまえば突き放したような冷たさがあった。
だが敵対しているというわけでもないのは私を殺さぬところからわかる。敵だというならさっさとこの首をもっていけばよいだけなのだから。
では一体彼は何を思いここにいるのか。
「俺は聖戦士のはずだな」
「そうだ」
「聖戦士と王は対等の立場だ」
「そうだな」
イヅは静かに入口へ立つと、ゆっくりと背を扉に預ける。
「あの女王はその保証だ」
そういわれれば、ようやく彼が何を言いたいのか理解することもできるというもの。
「気づいていたのか」
「城壁をどれくらいで登れるか、なんて質問をされていれば当然気づく」
どうやら俺のついたパラダの嘘を、見抜かれてしまったらしい。




