【31】別離
「王だ」
ここまでは予定通り。
「我らの王が戻ったぞ!」
「旗を掲げよ、カイネの旗を!」
王家の旗ではない、我が聖守護者、カイネの横顔が縫われた旗が翻る。
予定外のことがあるとすれば、民衆の熱狂ぶりが予想以上のものであることだろうか。
(時期尚早にありましたな母上?)
口々に我が名をたたえる民たちをこうして高い場所から見下ろすのであれば、それはやはり王の所業であるといえる。
私は王であり、この国の主であり、彼らを導く責務を負って生まれた人間であればこそ、こうしてここに戻るためになんでもしたつもりだ。
母に陥れられ、賊どもの虜になろうとも、泥をすすって生き永らえようとここに戻ってくるために全てを行った。
この右手を民の頭上にかざせばその熱狂はより強いものとなる。
「余は戻った。 ウェールデル・ブルチェニズ・ヴェラニ・ドリシェン・アーニアル、貴様らの王である」
久々に袖を通したこのガウン、私の体にはやや勝ちすぎるきらいがあるが、それでも王の威厳を保つというのであれば仕方あるまい。
「貴様の働き、このアーニアルしかとこの眼によって見届けた。 その忠誠は貴様らの血が絶えようとも語り継がれるであろう!」
民らの熱狂を後に私は城内へと戻っていく。まだところどころに死体が散乱しているが、それも兵たちによってすぐに片づけられるであろう。
片付くといえば一部で抵抗を試みている親衛隊共もそのうちに我が眼前にその首を晒すであろうから、もはやこの国内の問題というのはいくらも残ってはいない。
これで王として恰好が付いたといえよう。
「どうかな? 聖女よ」
演台の後ろに控えていた彼女、民衆と共にいたところを保護させたのだが、それにしても随分と小汚い恰好だ。
これから彼女にはこの国を守護する聖者として活躍してもらうのだから、一等ましな服を用意してやらねばなるまい。
「お見事でした王よ」
「貴女のご助力あってこそだ、感謝しているよ」
さて、ここまでは順調だ。
「しかし」
だが問題がある。我が国家にとって、我が家にとって、我が民にとっての一大懸念が未だ解消されていないというのは随分と不安になるものだ。
「聖女よ、彼は遅いな。 一体何をしているのであろうな」
一刻も早くあの女の身柄を確認し、この全てのもめごとに蹴りをつけたいのだが。イヅの姿は先ほどから一向に見えない。
「危険にある戦士の心中は、そのものの心にしかわかりません」
「そうだな、奴の尽力に期待するしかないか」
私は今あの男が、女王がどこにいるかも把握していない。
(イヅ、お前は今どうしている)
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この街は広い。
最初に街の中を歩き続け、把握した直線距離はなんと26km。
それが円形にぐるりと広がっているのだから、この街の中で人一人を探し出すというのは至難の業と言えるだろう。
「一体」
王城を脱出した俺は人目に付かない裏通りを選びながら、その隔離された地区を目指した。
この状況だから裏通りはすっかり人もおらず、左程苦労せずとも移動できるのは幸運であったといえる。
「一体どこへ行こうというのです」
なんせ背負っているのがこの国の女王だ、随分と目立ってしまうからな。
「アーニアルのところへ行きたいか?」
「そうではありません」
「なら黙ってろ」
ずり落ちそうになる彼女の体を支えなおしてやる。
「あんたは大事な体だ、乱暴なことはしないさ」
「既に随分と乱暴でしょう、あなたは」
「そうかもな」




