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エピローグ

少しずつ目を開くと、かすかな光を感じた。

と、同時に鳥のさえずる音も聞こえてくる。


出来るだけ揺れないよう、音をたてないよう、そっとベッドから起き上がった。

傍にあったシャツを羽織りながら、窓辺へと近寄る。

カーテンをそっと開けると、暖かい陽の光を感じた。

(9時か・・・)

少し肌寒さを感じて身震いする。

ベッド側に置いてあったカーディガンに気がつき、手にしようとした時だった。


「おはよう・・」


「おはよ・・ございます・・。起こしちゃいました?」


まだ眠そうな顔をしながらも少し笑顔になった彼が話しかけてきた。


「・・いや、そうじゃないよ。普通に目が覚めただけ」


「あ、シャツ借りてます。いいですか?」


「・・・・うん。まぁ、別にいいけど・・・」


彼はまだ寝ぼけてるんだろうか。

何となく不服そうに答えてくる。


「嫌なら、自分のに着替えますけど・・・」


彼が普段こんな風に朝から機嫌が悪い、なんて事はほぼない。

しかも今日は久々に彼とゆっくり過ごせてると言うのに、何が不満なのだろうか。


「・・・ったく。そうじゃねぇよ」


彼は少し身を起こした。

おいで、と呟くその姿を見たら、放っておく事が出来なかった。

掴んでいたカーディガンごと、ベッドに腰掛ける。


「久しぶりにゆっくり出来るんだからさ、もう少しこのままのんびりしよう」


彼の両腕が背中に回され、ふんわりとした温かさに包まれた。

ここのところ慌ただしかったせいか、こんな風に彼の温かさを感じるのは久しぶりだ。

手にしていたカーディガンは、いつのまにか床に落としてしまっていた。

これまでの多忙な時間が嘘のように解かされ消えていく。

今、私に溢れてくる感情は幸福感。

彼を好きだという感覚のみだ。


「・・フフ」


思わず声に出してしまった。


「何だよ」


彼の両腕が離されたかと思うと、顔を覗き込まれた。


「あ、ううん・・。おかしいとかじゃなくて・・」


何て説明すればいいのだろう。

この溢れそうな温かい想いを・・・。


「その・・。えっと・・」


考えれば考える程、想いを語る術を失う。

変わりに感じてくるのは、彼の視線から逃れようとする焦りだ。

思わず俯いて、彼の胸にうずくまる。

こうすれば自分の想いを素直に語れるだろうか・・・。


「久々だったから・・、何だか嬉しいなって思ったの」


「・・・・・へー・・」


「変?」


予想外な反応を示す彼に不安を覚え、思わず覗き込んだ。


「今までそういう事、言ってくれた事なかったからな。ちょっと感動した」


「そ、そう、だっけ?」


言われてみればそうなのかもしれない。

上司だった人とある日から突然付き合いだして、しかも、その上司は意外に肉食な人で・・・。

勿論、公私混同するような人なんかではない。

今、目の前にいる恋人は、公私のギャップが大き過ぎると感じる程の優しさを与えてくれる人だ。

だからなのか、日々彼についていくのがやっと。


「しかもさ、二人でいるって時も、お前は敬語が直んないんだよな」


「いきなりは直んないよ。その点は長い目で見て・・」


「まぁ、いいけどね・・」


彼は意味ありげに口の端を上げると意地悪く笑った。


「寒い?」


「あ、うん。ちょっと寒いかも・・」


少し体が震えていたようだった。

じき年末が近づく晩秋だ。部屋の中といえど、暖房がない中でシャツ一枚はさすがに寒かった。

いきなり腕を掴まれると、そのままベッドの中へと引きずり込まれた。


「ちょ。ね、もう起きようよ」


甘い、そう言うと、彼はまたもや意地悪く小さく笑った。

マジマジと射る様な視線に思わず顔が熱くなって目を逸らす。


「お前、気づいてないだろ?」


「な、何?」


恐る恐る彼を見た。

その瞬間、私の足に彼の温かい手が乗せられる。


「・・・っ」


「俺と話してる最中、いきなりタメ口に変わる瞬間あるんだよな。今もそうだけど・・」


「そ、それが、何?・・ちょ、やっ・・」


彼の手は徐々に私の体を上がっていく。と、同時に私の息も上がりそうになる。


「そういうのって俺のスイッチが入る瞬間なんだよ。わざとやってんの?」


「なっ、そんなわけないでしょ!」


思わず彼の肩を掴んで抵抗の意思を見せる。


「まぁ、そうかなとは思ってたけど・・・・」


優しい声音に変わったかと思うと、私のおでこに唇が優しく触れてきた。


「・・・・も、もう、タメ口で喋んない・・・」


「はは。それは困る。でも逆にそんな風に言われると煽られてる気分にもなるなぁ・・・」


おでこに触れられていた唇が、首筋に触れてくる。


「や、ちょ、主任・・・」


「嫌か?」


ずるい・・。

そういう言い方されると、嫌だと言えなくなってしまう。


「そうじゃ、ないけど・・。久々にゆっくり出来るから、もっと有意義に過ごしたいなって思って、その・・」


「俺にとってはかなり有意義だ!」


まるで小学生のようなその得意気な顔に、思わず噴出しそうになった。


「もう」


苦笑いを浮かべた私に釣られるように、彼も苦笑いを浮かべた。

そして私の頬に唇に、何度も何度も、彼の唇が優しく触れてくる。


「なぁ・・・」


「なあに?」


彼の手が私の手に軽く触れてきたかと思うと、強く握られた。


「名前で呼べっていつも言ってるだろ?」


「あ・・・」


「ほら。言えよ・・・」


「・・・っ、と、と・・お・・・・・・」


「聞こえない。もう一度」


「・・・・・もう、徹!」


「よく出来ました」


その瞬間、力一杯抱き締められた。

彼の重みが優しさに感じられてきて、私も彼の背中を強く抱き締めた。






私にとっての恋愛は、平行で、それでいて決して交わるものではないと思っていた。

でも、この平行線は私に優しく、でも力強く、触れてきた。


人を好きになるって、どういう事だろう。

私にとってはきっと心を突き動かす事なんだろうと思う。

そして、彼を好きになって、欠けていた私の一部分が埋まった気がする。


私が幸せだと感じる以上に、彼を幸せにしたいと思う。

柔らかくて、ふわふわしていて、強く掴んだら壊れてしまいそうなこの想いを、二人でならきっと強くしていけると思っている。


一人より二人だからこそ、そう信じている・・・・。



「・・・好き。徹が好き・・・」


うわ言の様に何度も呟く私に、彼は何度もこう応えた。


「俺も・・、俺も好きだよ・・、葵・・・」



これにて「平行線の行方」終了です。


初めての投稿、という事で緊張致しました・・。

つたない文章で皆様には読みづらかったのではないかと思います。

そんな中、最後までお読み頂きまして心よりお礼申し上げます。


また次回作投稿時には懲りずにお付き合い頂ければなと思っております。

本当にありがとうございました。

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