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ヒール最高  作者: 猫美
学院中等編
44/90

遠征の日、実験の時間のフランテスタ(お嬢様)

「よーし、お前らも解散!」


戦士学科のデリューシュ先生による各種注意事項の伝達が終わり、自由時間となりました。


「お嬢様、いかがなさいますか?」


侍女で戦士学科のイサラがいつものように付き従います。


「そうですわね。

 ひとつ、私の実力を知らしめることにしましょう」

「どうなさるんです?」

「ディリングを討伐なさるんですね」

「ええ、私の実力を持ってすれば、

 余裕のはずですわ」

「それは素晴らしい考えです」


いつものようにフォシナとルノシィが賛同してくれます。


「ディリング退治に、このキーウェン、

 ぜひ、お供にお加えくださいませ」


戦士学科のキーウェンが、騎士のまねごとをして、ひざまずきます。


「キーウェン・・・

 慣れない言葉を使うから、

 おかしな事になっていますわよ?」

「まぁ、ガラじゃないからな。

 たまには格好つけてもいいじゃないか」

「騎士のまね、似合ってるわよ」

「そうね。似合ってるわ」

「うふふ。そうね。

 キーウェン・・・

 あなたを護衛の騎士に任命します」

「ははぁ。ありがたき幸せ」

「うふふ」

「格好いいですわよ」

「ははは。まぁ、前衛は任せてくれ」


この5人で柵を出て、林に向かいます。


林の中ではディリング・・・人の形をした汚らわしい者共が徘徊しています。

これが・・・ディリング。


「かる、もるで、やーる!」


私の炎弾がディリングの頭を吹き飛ばします。


「はぁああぁぁぁぁっ!」


キーウェンが気合いのこもった一撃を振り下ろし、ディリングに止めを刺します。

この構成での連携は十分に効果を発揮していますわ。


「かる、じおに、すらんと!」


後ろを振り返ると、フォシナが風の刃で1体のディリングを真っ二つにしている姿が目に入ってきます。

ジオニ級の魔法であの威力・・・どういう魔法陣なのかしら。


「フォシナすごーい」

「ええ、本当。

 ジオニ級でディリングを倒すなんてすごいですわ」

「わわ、フランテスタ様、

 いえいえ、私なんてまだまだです」

「魔法陣に工夫があるのかしら?」

「えっと・・・魔術道具です」

「魔術道具なのね。

 それにしてもすごい威力だわ」

「ええ、ちょっと、質の良い物が手に入りましたので」

「そうなのね。羨ましいわ」

「ずるーい。私にも貸して貸して」

「だ、だめです。

 他の人だと効果が出にくいんです」

「負けてられませんわね。

 ルノシィ、帰ったら魔術道具屋に行きましょう」

「はい。行きます行きます」

「ま、何にせよ、ディリングは楽勝だな」


キーウェンが会話に合流します。


「そうですわね」

「この調子なら、コア持ちも楽勝ですわ。

 ね?フランテスタ様」

「そうだな。

 ひとつ、俺たちでコア持ちを倒して、

 早々に卒業資格とやらを貰っちゃうか」

「あら、それはいい考えです。

 それこそ、実力を知らしめるにはちょうどいい相手ですわ」

「じゃぁ、次はコア持ちだね」

「そうですわね」


コア持ち・・・確か、林の中を徘徊しているのも居るとのことでしたが、見かけませんね。

洞窟の中に行かないとダメ・・・かしらね。


「やはり、洞窟かしら」

「そうだろうな。

 今のところ、1匹も見かけていないからな」

「でも、1年が洞窟に入ったら怒られるんじゃない?」

「そうだな。

 巡回の先生に見つかると面倒そうだ」

「じゃぁ、裏側の方へ行ってみません?」

「そうね。そちら側なら人も少ないでしょうし」

「じゃぁ、決まりですね」


少し、足早に移動します。

ディリングは見かけるものの、他の人たちを見かけることなく・・・ここいらなら良いんじゃないかしら?


「あそこの洞窟はどうだろう?」

「そうね。あそこに入ってみましょう」


5~6レティーム(3メートル)程度はあるかしら?

洞窟の入り口を入っていくと、水晶がキラキラときらめいて、ひんやりとした空気と相まって、とても清浄な・・・ディリングが徘徊しているのが分不相応な景色が広がっていました。


「わぁ、綺麗・・・」

「そうね。綺麗ですわね」

「ま、綺麗だが、

 綺麗じゃないお客さんだ」


キーウェンが無粋な・・・ディリングの来訪を告げます。


「コア無しの雑魚に用はありませんわ」

「さっさと倒して、奥に行きましょう」

「私たちの敵じゃありませんわ」


イサラが素早く、ディリングの脇をすり抜け・・・足を切り、敵の動きを制限します。

私の炎弾で頭を破壊し、キーウェンが気合いの入った一撃で止めを刺します。


道中のコア無しディリング程度では、私たちの歩みを止めることは出来ず、洞窟を進んでいきます。

さすがに、外に比べると、ディリングの数が段違いに多いです。

みんなも少し疲れているように見えますわね。


「少し、休憩しますわよ」

「フランテスタ様、あそこの奥はどうでしょう?」


ルノシィの指差す方を見ると、少し狭まった通路が見えました。

慎重に通路の奥を覗くと、少し大きめな部屋になっているようです。


「そうね。この部屋で休憩を取りましょう。

 交代で入り口を見張っていれば、大丈夫でしょう」

「あぁ~。さすがに疲れましたわ」

「さすがにちょっとね~」

「取り敢えず、俺が見張ってるよ。

 敵が来たら、援護を頼むぜ」

「ええ、解ったわ」


キーウェンが入り口側の壁に寄りかかるようにして、見張ります。

ああ、それにしても疲れましたわ。

結構、奥まで来たというのに、コア持ちに遭遇しませんし・・・


どれくらい休憩した後でしょうか・・・4半ルーオ(20分程度)くらいかしら?

入り口の向こうから、ディリングのうめき声が聞こえてきました。

しかも、1体や2体じゃない数の・・・


「どうやら休憩は終わりみたいだ」

「ちょっと、数が多いのではなくて?」

「休憩も取りましたし、楽勝・・・ですよね」


楽勝?

1体や2体なら楽勝でしょう。

でも、それ以上となると、この部屋の構造が私たちの行動を阻害します。

入り口の幅が6レティーム(3メートル)程度。

キーウェンとイサラが並んで剣を振るうには少し狭い・・・

前衛が道を塞いでしまっていては、私たちの魔法も役に立たない・・・

かといって、剣士の2人が前衛として、ディリングを抑えて頂かなくては、簡単に突破されてしまいますわ。

キーウェンとイサラに全てを任せられるほど、2人に体力の余裕があるとも思えませんし・・・


「はぁああぁぁぁぁっ!」


考え事をしている間に、キーウェンが先頭のディリングに切りかかっていました。

まずはここを突破することを考えないとまずいですわね。


「イサラ!

 私が炎弾を唱えます。

 そうしたら身をかがめなさい」

「はい。お嬢様」


「かる、もるで、やーる!」


イサラが身をかがめ、ディリングが丸見えになります。

その頭に目がけて、炎弾を投げつけます。

ディリングの頭へ吸い込まれるように命中し、頭ごと爆発!


「イサラ、今です」

「はい!

 ヤァァァァァ!」


イサラが、身体を預けるように突進し、お腹の付近を貫きます。

その攻撃がとどめとなり、ディリングの崩壊が始まります。

しかし、その後ろから、新たなディリングがイサラに迫ります。

後ろに転がるようにして距離を取り、体勢を立て直します。

とにかく、数が多すぎますわ。

行き止まりなら、通路と違って、そんなに来ないだろうと思っていたのに・・・失敗です。


「なんとかして、ここを出ないとまずいですわね」

「そ、そうしたいのは山々だが!」


キーウェンが1体、倒しながら叫びます。

このままでは、ろうそくの最後の灯火になってしまいますわ。


「3人の魔法で一気に殲滅して、走り抜けます」

「解った」

「フォシナ、ルノシィ!

 一気にいきますわよ!」

「は、はい」

「フランテスタ様、大丈夫でしょうか?」

「このままでは前衛の体力が尽きてしまいます。

 その前に、一気に走り抜ける必要があるのです!」

「は、はい」

「いきますわよ!

 キーウェン、イサラ、

 呪文に合わせて避けなさい!」


魔法陣の描かれた札を用意し、各々が呪文を唱え始めます。


「かる、じおに、すらんと!」

「かる、じおに、てとら、やーるえ!」

「かる、じおに、あるーだ!」


フォシナの風の刃が前列の2体を切り裂きます。

私の4つの炎弾が後続を爆砕、視界が塞がれてしまいましたが、ルノシィの石矢が貫いているはずです。


「今です!駆け抜けますよ」

「よし!まずは俺が向こうを・・・」


炎弾の爆発と土煙の中から、見たことの無いディリングが姿を現しました。


「なっ、なんだこいつは!」


無傷というわけにはありませんが・・・片腕が無くなっています・・・今までのディリングと違うのは一目で解ります。

表面には少し光沢があり、腕は手甲の様な形をしており、何より、動きが速いです。


「はぁああぁぁぁぁっ!」


キーウェンが切りかかりますが、手甲の様な腕に防御されました。


「バカな!か、固い!」

「キーウェン!」

「き、切り落とせない!」

「これが・・・コア持ち!?」


その隣から、胸にルノシィの石矢が突き刺さった状態の・・・同じようなディリングが現れました。


「イサラ、下がりなさい!」

「しかし、お嬢様!」

「キーウェンで切れないのです。

 あなたの力では敵いませんわ!」

「ここで食い止めなければ!」

「では、呪文に合わせて避けるのですよ!」

「フランテスタ様、ここは私が!」

「フォシナ・・・そうね。

 お願いするわ」


「かる、じおに、すらんと!」


「キーウェンも避けなさい!」

「おう!」


通路に2体並んだコア持ちに、フォシナの風の刃が走ります。

左のキーウェンが対峙していたコア持ちが切断され、崩れていきます。

しかし、右のコア持ちには効果が薄かったみたいです。


「かる、じおに、てとら、やーるえ!」


私の作り出した4つの炎弾をコア持ちにぶつけます。

爆発でディリングの残骸が吹き飛び、土煙を巻き上げます。


その土煙の中から、両腕を失ったコア持ちが出てきました。

あれでも倒しきらないと言うのですか!

左側から無傷と思われるコア持ちが、キーウェンに迫ります。


「キーウェン!」

「おっと!」


後ろに飛んで躱します。

気がつけば、キーウェンもイサラも入り口から、だいぶ下がってしまいました。

入り口からコア持ち、コア無し共々、ぞろぞろと入ってきます。


「ちょっと、やばいかもな」

「だからって・・・やられるわけにはいきませんわ!」

「やだ・・・

 いや、こんなところで死にたくない!」

「ルノシィ、落ち着きなさい!

 まずはこいつらを倒すのです!」

「だって、倒れないじゃない!」

「来るぞ!」


キーウェンの方へコア持ちを先頭にしてディリングが迫ります。

何故キーウェンの方にばかりこんなに多いの!


「うぉぉおおぉぉぉぉっっ!」


キーウェンが叫びながら1体と対峙します。

が、他のコア持ち、コア無しがその脇をすり抜け、後ろに控えるフォシナに向かいます。


「フォシナ!」

「いやぁぁぁっ!」


このままではフォシナが襲われてしまいます。

心力が心許ないのですが、そんなことを心配してる場合ではありませんわ!


「かる、とりと、えくーていぉん!」


フォシナに迫っていたコア持ちの頭に炎弾が命中し、爆発します。


「きゃぁあぁぁぁぁ!」


爆発の余波で、隣のコア持ちを巻き込んで転倒・・・フォシナも後ろに尻餅をついてしまいましたが・・・

しかし、それでもダメ・・・コア持ちは固すぎます。

命中した1体の頭を吹き飛ばすことには成功したのだけれど、他は転倒した以外の効果が見受けられません。


「フォシナ!逃げなさい!」


巻き込むことの出来なかったコア持ち、コア無しがフォシナに迫ります。

どういうこと!

何故、フォシナばかりを狙うの!?

立ち上がって後ずさろうとしたフォシナの腕をディリングの1体が掴みます。


「いやぁぁぁぁぁっ!」


悲鳴を上げる暇があるなら、攻撃をしなさい!

叱責したい声を飲み込みます。

フォシナは既に冷静な判断を下せないんだわ。

ここは私が・・・先ほどのトリト級で消費した心力が、思ったよりつらい・・・


フォシナの援護に向かうべく、フォシナの方へ駆け寄ろうとしていた。その時・・・

コア持ちがフォシナへ腕を伸ばすのと、腕を掴んだコア無しが引っ張る姿が見えました。

物凄くゆっくりと・・・私の歩みも、キーウェンの援護も・・・全てがゆっくりと・・・

世界はこんなにも私の歩みを妨げ、フォシナへ近づくことを阻害します。

そんなゆっくりの世界で、コア持ちの腕がフォシナの身体に吸い込まれるように・・・

すっと消えて・・・背中から付き出た途端、世界の動きが戻りました。


「いやぁぁぁぁっ!」


その悲鳴は、私の物だったのか、ルノシィの物だったのか・・・判断が付きません・・・

キーウェンは敵に阻まれ、フォシナに近づくことも出来ず、フォシナは身体を貫かれたままぐったりしています。

急いで助けなければ・・・と思うものの、どうしたらいいのか頭が働きません。


視界の隅で、イサラが走ります。

近くの岩を踏み台にして宙へ飛び、体重を乗せた一撃でコア持ちの腕に切りかかります。

固く、鈍い音がしたかと思うと、イサラがはじき飛ばされました。

腕を切断することは適わなかったようです。

が、攻撃を加えたことにより、コア持ちが腕を引き抜きました。

フォシナは意識を失っているのか、力なく膝を崩し、後ろへ倒れていきます。

腕を抜かれた胸から、血を吹き上げなから・・・


「キャアァァァァァァァ」

「フォシナ!フォシナ!

 しっかりなさい!」


フォシナに駆け寄り、フォシナの状態を確かめようと・・・

あまりの血の多さにどうしたらいいのか・・・どうしたらいいの・・・


「誰かー、誰か・・・

 フォシナを助けて・・・」


キーウェンとイサラが賢明にディリングを攻撃します。

それでも奴らはフォシナの方へ迫ろうとします。


「ルノシィ・・・

 援護を・・・

 ここを突破しなければ・・・」


ルノシィは、目の前の出来事から逃げるかのように、しゃがみ込み、悲鳴を上げています。


「くそう!

 来るな!来るんじゃない!」


キーウェンの悪態・・・


「お嬢様、お下がりください」


こんな時でも、私のことを案じてくれるイサラ・・・

目の前で死に瀕しているフォシナ・・・

後ろで恐慌状態のルノシィ・・・


「誰か・・・誰かー!

 助けてー!」


近くの先生とまで言わない。

近くに先輩方でも居れば、逃げるくらいは手助けして貰えるかもしれない。

そんな細い糸にしがみつくような心境で叫びました。


すでにディリングは、私たちを追い詰め、十重二十重を取り囲み・・・もう駄目なんだと・・・


「ヒール!」


知らない男の子の声が聞こえ・・・

・・・誰かが助けに来てくれた・・・の?


次回「遠征の日、ヒーラーの時間のフランテスタ(お嬢様)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

刻→ルーオ

恒→レティーム


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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