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01話 短すぎた日常

窓の隙間から差し込む陽光も、アラームの電子音も、俺を引きずり起こすには到底足りなかった。


夜明けの代わりに、いつも俺の眠りを切り裂くのは、両親の容赦ないドアのノックと呼び声だ。18歳になった俺のルーティンは、遠大な野望ではなく、「バイクを暖機して妹を学校へ送る」という、重荷のような小さな義務から始まる。


顔を洗う時、鏡に映る自分を見つめる。そこにいるのは、世界の期待から完全にズレた天川平田あまかわ・ひらたの姿だ。同年代の奴らは大学入試や輝かしい将来について語り合っているだろう。


だが、俺はどうだ? 巷で言われる「荷物息子にむすこ」そのものだ。立派な学位もなければ、夕食の席で誇れるような実績もない。


ただ、服に染み付いた木の香りと木屑の匂いがあるだけだ。木細工職人として、俺の毎日は木を削り、磨き、命のないものに形を与えることに費やされる。皮肉なものだ。俺は椅子の脚を直し、机の表面を滑らかにすることはできるが、自分自身という「端材」だけは、どうにも形を整えられない。


妹を学校へ送る道は、いつも必要以上に長く感じられた。


バイクに跨り、喧騒の中で自問自答する。いつまで俺は、親に背中を押されないと動けない「荷物」で居続けるんだろうか。だが、工房に戻ってオーク材の冷たい質感に触れると、その焦燥は少しだけ和らぐ。俺の人生にはドラマチックな章題なんてない。ただ、木材の山と避けられない雑用の中で、自分自身を探し続ける長いナレーションがあるだけだ。


工房では両親が忙しく働いている。毎日指示を出してくる「ボス」が自分の親だという事実は、時として精神的な重圧になる。


「平田、いつまでここにいるつもりだ? もっと将来の保証がある仕事を探しなさい」


その言葉は壊れたカセットテープのように繰り返される。彼らは俺に、スーツを着て満員電車に揺られる「まともな」社会人になってほしいのだ。だが、その息苦しい階級社会を想像するだけで、俺の勇気は萎んでしまう。


俺は防塵マスクの裏に隠れ、机の表面を磨きながら、彼らの助言を聞こえないふりをする。木材たちは、俺が「荷物息子」かどうかなんて気にしない。加速し続けるこの国で、俺はわざと緩んだ「ネジ」のように、社会の締め付けを拒絶していた。


そんなある日の午後、母がキッチンから現れ、断らせない口調で言った。コンビニまで食材を買いに行ってきなさい、と。


(はぁ……やっと腰を下ろせるところだったのに。なんで今なんだよ)


内心で毒突きながら、重い腰を上げた。バイクのキーを手に取る。これが、この退屈な世界での「最後の旅」になるとも知らずに。


バイクを走らせ、大通りに出た瞬間、すべてが加速した。右側からの光が目を射抜き、鼓膜を震わせる轟音が響く。ブレーキを握る暇もなかった。


体が宙に浮き、アスファルトに叩きつけられる。世界が回転する。


横たわる俺の視界に、頭から流れる熱い液体が入り込み、すべてを赤く染めていく。


(痛い……寒い……俺、こんなふうに死ぬのか? 母さんの頼み事すら果たせない、荷物息子のままで……?)


意識が遠のく中、パニックの声が聞こえる。

「救急車を!」「おい、目を開けろ!」


そして、聞き慣れた、震える悲鳴が鼓膜を突き刺した。


「平田! 天川平田! 嘘でしょ……誰か、この子を助けて!」


母さんの声だ。いつも小言を言っていたあの声が、絶望に満ちた叫びに変わっている。答えたい。ただ眠いだけだよと言ってやりたい。でも、唇は鉛のように重い。


(母さん……ごめん。おつかい、行けなかった……)


死の間際、猛烈な後悔が胸を突いた。怠惰、無関心、親の脛をかじり続けた日々。


(神様……もし、もう一度だけチャンスをくれるなら……。次は逃げない。必死で働いて、誰かに頼られる人間になるから……!)


救急車のサイレンが遠ざかる。激しい冷気が心臓まで浸食してくる。


暗闇に飲み込まれる直前、その誓いだけを、俺は魂に刻み込んだ。

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