17-02
「こたえろ! きさま、陛下の何なのだ!」
「……ただの幼なじみだよ。大学では同じゼミだった」
「幼なじみ? 大学も……?」
「ああ。アルーア星王立大学の生物学科で、彼女と一緒だったんだ」
「きさま! 気安く、彼女などと……!」
いまにも親衛隊長が飛びかかろうとしてきたとき、ひとりの親衛隊員が部屋に入ってきて、親衛隊長に耳打ちした。
「……女王陛下の……お見えであるっ!!」
怒りを押さえ込んだ親衛隊長は、静かに、しかし威厳をこめてそう言った。
ドアが開くと、頭から足もとまでベールをかぶった女王が、静かに入ってきた。
わたしは立ちあがり、深く頭を下げた。
「親衛隊は外へ」
女王の言葉に、親衛隊長は片手を額にかざして敬礼し、部屋から出ていった。それを確認してから、女王はベールを脱いで、やさしくわたしに語りかけた。
「おひさしぶりです、オラキル。何年ぶりでしょうか?」
「陛下が大学を卒業して以来ですから、銀河統一時間で、まだ五年ほどです」
頭を下げたまま、わたしはこたえた。
「たった数年でも、わたしには永く感じられました。あなたの五年間は、流星のごとく過ぎ去ったのでしょうね。立派な博士になられて……」
「陛下におかれましても……」
女王が静かに笑った。
「陛下はやめてください。学生のころのように、リリルと」
「そういうわけには、まいりません」
わたしは女王の足もとだけを見つめ、丁重に断った。
「どうしても?」
重ねて要求されるも、わたしは頭を下げ続けることで返事に代えた。
「では女王として命令します。……面を上げませい、オラキル!」
威厳に満ちた鋭い女王の言葉に、わたしは体がびくっとなるほど驚いてしまった。
おそるおそる顔を上げると、しかし女王は、やさしく微笑んでいた。
「おかしなオラキル。顔が真っ赤ですよ」
「ず、ずっと、下を向いていたので……」
あわてて取りつくろうわたしを見て、女王がくすくすと笑う。その笑顔に、わたしもつられて笑ってしまった。
女王の笑顔は、学生時代と変わらず、とてもかわいらしい。
そのかわいらしい笑顔が、ふと、くもった。
「きびしい決断でした。あなたには、つらい試練を与えてしまいましたね」
「陛下は銀河連合の星々の未来を、背負っておられますから……」
女王は窓際のイスに腰かけると、青く輝く地球を眺めながら、静かに話し始めた。
「半年前、未開惑星の定期調査で地球にキリ星人の遺跡があることがわかると、貴族院のジランダ議長とズメイ参謀は、すぐに地球人への攻撃準備を始めました。彼らをあんな風にしてしまったのは王家の責任です。銀河連合の星々には、ひたすら恨むばかりの歴史を与えてしまった。だからこそわたしは、少しでも彼らの暴走をおさえようと、あなたの派遣を決めたのです。
キリ星を破壊し、銀河の果てまで追撃し、キリ星人を絶滅させた……。かつての女王も、晩年、自分の犯した罪を悔いたのでしょう。銀河連合の絶対平和主義は、そうして生まれたと、密かに王家には伝わっています。
ですから、わたしは女王として、二度と同じ過ちをくり返すわけにはいかなかった。そしてあなたは、わたしの願いの通り、地球人をかばってくださいました」
「女王陛下の目指す世界を、わたしは知っていますから」
わたしは『全宇宙生物図鑑』を手に取った。
「大切に持っていてくれたのですね」
「もちろんです。陛下がわたしに託してくださった夢ですから。いまは絶滅危惧種ばかりですが、いずれその名の通り、全宇宙の生物が一緒に暮らせる世界を目指してがんばります。お入りになられますか?」
「ぜひ!」
わたしは遠慮ぎみに女王のとなりに立つと、図鑑を起動させた。
「パ、パワーオン。オープン……」
『全宇宙生物図鑑』がぱたりと開いて、ふわりとふたりの頭上に浮かぶ。
女王は肩をよせると「学生のころのようですね」と、わたしを見上げたが、わたしは照れてしまって、目を合わせることさえできなかった。
紙面を下にした図鑑がゆっくりと降りてきて、わたしたちは本の世界に入った。




