15-02
「ここは緑が丘じゃない。ここにいるのはみな、死に絶えたはずの生き物ばかりだもの」
トモミが息をのんだ。
わたしたちのまわりは、いろいろな生物たちであふれている。しかしそのどれもが、トモミの見たことのない生き物ばかりだろう。
目の前を細長い尾を引きながら蝶が飛んで行く。四つの翼を持つ小鳥がさえずりながら大空を舞い、草かげから、うさぎのように長い耳をもつ、きつねの親子が顔を出した。
「待ってぇ~」
ヘビのように長い体のトンボを追いかけて、アユムが野原を走っている。
「……でも、いい。ハカセやアユムと一緒なら」
しかしその目からは、ぽろりと一粒、涙がこぼれ落ちた。
トモミはわたしに見えないように顔をふせて、その涙をふいた。
「ごめんねトモミ。ぼくが地球人じゃないってこと、黙っていて」
「ハカセはハカセだよ。こんなごちゃまぜの天国を見れば、地球人とか宇宙人とか、気にするほうがおかしいよ」
トモミのその言葉に、わたしは意を決して立ち上がり彼女の正面に立った。
「擬態スーツ、オフ……」
わたしの体の中心にきりきりとヒビが入り、やがて擬態スーツが左右に割れて地面に落ちる。
驚いて見つめていたトモミが、やがて柔らかな笑みを浮かべるのを見て、わたしの心はとても温かくなった。
「この宇宙にはいろいろな種類の生物がいて、いろいろな違いがある。ぼくはその違いが大好きなんだ。まったく違う生き物同士が心を通わせて友だちになる。違うからこそ、惹かれあうんだ」
「違うから……?」
「そう。自分にないものに心が惹かれるんだ。トモミの勇気とか、やさしさとかね」
「わたしの勇気? やさしさ??」
トモミが目を丸くした。
「さっきアユムが話してくれたよ。六年生のクラス替えのあと、いじめの標的にされていたアユムを、トモミがかばって助けてくれたんだってね。そのせいでトモミは、いじめっ子から心ない言葉を投げつけられた……。
元気で正義感あふれるトモミを妬む者にとって、トモミを傷つける言葉なんて何でもよかったんだ」
わたしは野原にあふれる、さまざまな生物たちに目を向けた。
「ごらん。この世界の生き物たちは、姿形も生きてきた星も違うけれど、みんなが互いを尊重して生きているんだ。ぼくたちは完璧な生物じゃない。自分とは違う誰かと足らない部分を補い合ってはじめて生きていける。それを知っているから、自分を大事にして、相手を大切に思い、みんなで協力して、この世界をともに生きている……。ぼくらの世界でも、それは同じなんだよ」
トモミはうつむいて、力なく首を横にふった。
「わたしがいなくなったって誰もこまらないよ。だってわたし、みんなに嫌われて……」
「トモミを嫌っているのは、トモミ、きみ自身だよ」
驚いた顔で、トモミがわたしを見上げた。
「わたしが、わたしを……?」
「みんなとの違いが嫌われる原因だと決めつけている。そのせいで大好きだった学校の友だちも、街の灯りさえも嫌いになっているんだ……。
見た目も生まれも、いまの立場だって、その違いを理由にきみを責める友だちが、本当に他にもいた? 勝手にみんなに嫌われていると、思い込んでいないか?」
黒ネコがトモミに近づいてきて、体をすり寄せた。
キリル王子の魂を受け入れていたネコだ。
トモミはそのネコを両手で抱きよせると、そっとひざの上にのせて背中をなでた。
「きみが自分を嫌う理由なんて、どこにもないんだ。みんなと違う自分を大好きになったら、あの弾けるようなトモミの笑顔を、また学校のみんなに見せてごらん。きみの居場所は、みんなの心の中にしっかりあるはずだから……」
野原に風が吹いて、うつむくトモミの前髪をゆらした。
春の香りがする風だった。
「わたし、みんなの笑顔をまだ憶えてる。もうずっと、みんなの顔を見ないようにしていたけど、わたしが笑えば、みんなもまた、笑ってくれるかな……」
「みんなのもとへ、もどりたい?」
わたしの質問に、トモミは小さく、こくりとうなずいた。
「じゃあ帰ろう。ぼくたちの『緑の丘の銀の星』へ」




