11-03
「夜逃げしたんだよ」
とつぜん聞こえた太い声に、わたしは驚いてふり返った。
窓から差し込む夕日を背にした大きな黒い人影が、部屋の外に立っている。
顔がドアの向こうに隠れるほどの大男だった。
「まさか、娘をおいて逃げるとはな……。トモミちゃんの友だちかい? じつは、おじさんたちもトモミちゃんを探していてね。お母さんがどこにいるか聞きたいんだ」
大男は首を傾げるようにしてドアをくぐり、部屋に入ってきた。
「トモミちゃんの両親はね、トモミちゃんが幼いときにこの国にやってきて、ちゃんとした手続きをしないまま生活している外国人なんだ。おじさんたちは、そういう人たちを見つける仕事をしているんだよ」
未開の星のなかには、ひとつの星の中に線を引き、それぞれを国と呼んで区別することがある。この星にもいくつかの国があり、それぞれの国で暮らすには、特別な許可をもらう必要があるのだろう。
「見つけて、どうするんですか?」
「不法にこの国に居座っているんだ。とうぜん、自分の国へ帰されるだろう」
「トモミも一緒に……」
「トモミちゃんに落ち度はない。だが両親と別れて暮らすより、一緒に故郷の国へ帰った方がしあわせじゃねぇかな?
慣れ親しんだ街を離れるのはつらいだろうが、これは誰もが守っているルールなんだ。ルールは守るべき。きみもそう思うだろう?」
どこかで聞いた台詞……。
そう、宇宙航海法を破り、未開の地球に無断で立ち入ったステネコに、わたしが言った台詞そのままだ。
ルールは守るべき。
当然、いまでもそう思っている。
だが、いざ反対の立ち場になって聞かされると、言葉が胸に突き刺さる。
返答に困ってうつむいているわたしに、ごとりごとりと足音をたてて、大男が近づいてきた。
「さあ、トモミちゃんを連れてきておくれ。みんなで一緒に、お母さんを探そう」
「あの……どうしておじさんは、家の中なのに靴を履いたままなんですか?」
見れば、大男は黒光りする革靴を履いていた。
「どうして、そんなに顔をケガされているんですか?」
見上げれば、大男の顔にはいつか調べた地球の果物『メロン』の皮のように、たくさんの切り傷があった。
そのとき、大男の背後に『パイナップル』の葉のような髪型をした細身の男が、アユムの肩をつかみながら現れた。
『メロン』と『パイナップル』の組み合わせ。
どこかで聞いた記憶が……。
「……おじさん、本当は誰ですか?」
★決して『思想の押し付け』をするのではなく、
このあとも物語はエンターテイメントとして『左右それぞれの感じ方』が出てきます。
あくまでも、
『いつもと逆の立場から見ると、全く違う景色に驚くかも……』
といった隠しテーマのひとつです。




