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緑の丘の銀の星  作者: ひろみ透夏
第5話 はじめてのツナ缶

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05-04

 

 

「とにかく掘ってみようよ」



 わたしはスコップで穴の入り口をひろげるように掘り始めた。草の根が張った土はなかなか掘りずらく、三人で交代しながら掘り進めていく。


 かたわらでステネコが、のんびりとあくびをした。


 真夏の熱気と刺すような陽射(ひざ)しが、容赦(ようしゃ)なくわたしたちに降り注いでいる。



「あ~、もうやぁめたぁ~!」



 意外にも最初に()を上げたのはアユムだった。アユムは草原にばたんと大の字に倒れ込むと、顔の上にヘルメットを置いて寝てしまった。


 わたしもいいかげんへたばりそうだった。スコップを持つ手にも力が入らない。


 なにしろこの星に来て一度も食事をしていない。もともと一週間に一度しか食事をしないわたしだが、もう十日間、何も口にしていなかった。



「なんか、お(なか)へっちゃったな……」



 誰にでもなくつぶやいた、わたしの目の前に、トモミが何かをさし出した。


 わたしはそれを手に取り、まじまじと見つめた。

 円筒形(えんとうけい)の缶に描かれた地球の魚らしきイラスト。地球の文字でマグロの油漬けと書かれている。



「これが、あの有名な『ツナ缶』か……」


「初めて見るみたいに言わないでよ」



 トモミがちょっと、すねたように言った。


 ツナ缶を裏返すと、そこには『父』と書かれていた。

 素知(そし)らぬ顔でトモミは草原を(なが)めている。



「いいの? もらっちゃって」


「パパが出て行って、分け前が増えたから。そんなものでよければ、どうぞ」



 わたしは再びツナ缶を見まわして、缶の上面に取っ手を見つけた。引っぱっると、小気味のよい音をたてながら、きれいに缶のフタが取れた。


 なかなかよくできた構造だ。


 缶の中には油に(ひた)されてきらきらと輝く、フレーク状にされた加熱ずみの魚肉が入っていた。



「はい」と次に渡してくれたのは、五ミリ角、二十センチほどの長さの木材でできた棒が二本。


 不思議そうにその物体を見つめるわたしのことを、わたし以上に不思議そうな顔でトモミが見つめている。



 これは……食べ物ではない。

 たぶん、この物体は食材をつかむための道具だ。


 まずい! 使い方が、まるでわからない!



「見られていると、ちょっと恥ずかしい……」



 本当は全然そんなことなかったし、せっかくもらったツナ缶を、トモミの目の前で美味(おい)しそうに食べて見せたかった。

 たとえ口に合わなかったとしても、そうすることが異文化(いぶんか)に対する礼儀だからだ。



 トモミがくすりと笑って背を向ける。


 それを確認してから、木の棒をスプーンのようにしてつかみ、ツナ缶の中身をすくった。

 たぶん間違(まちが)った使い方。この方法が正しければ、棒が二本に分かれている必要がないからだ。



 おそるおそる口に入れてみる。とろんとした植物油の味が口の中にひろがった。


 もう一度、今度は多めにすくって口に入れてみた。

 どこを見るでもなく、わたしの視線は鮮やかな緑の地平線から、にょっきりと生えた入道雲をとらえている。


 よくかむ。味に集中する。ごくりと飲みこみ、はぁと息をはいた。


 これは……。



美味(おい)しい……」


「そう、よかったね」



 トモミが背を向けたまま、気のない返事をした。

 わたしは缶に口をつけ、大量に口の中にかき込んだ。


 夢中になって食べる。


 脳を埋めつくしていた疲れや暑さといった感覚が、強烈に吹き込んださわやかな風に一掃(いっそう)された。



「……美味しい! 美味しいっ!! ツナ缶ってやつは、とっても美味しいぞ~!」



 思わずわたしは、立ちあがって叫んでいた。



「そう?! よかったねっ!!」


 振り返ったトモミが、さっきと同じ言葉を、今度は(はじ)けるような笑顔で言った。




 びっくりして起きあがったアユムが、ぼんやりとした目でわたしたちを眺めていたが、またヘルメットを顔の上に置いて寝てしまった。








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