24. ひとつの区切り
月が変わって、最初の神殿教室の日。そこでアレクから、重大発表があった。……ついにアレクも、今月で辞めることになったんだって。
誰かが辞めるのは、これが初めてじゃないんだけどね。今回はアレクだったから、思ってたよりショックが大きかったんだよね。だって、魔法のこととか、一緒に練習する大事な仲間なんだもん。やっぱり寂しいよ。
それから数日後、いつものように広場で集合してたときのこと。行くときは、わたしもハルトも寂しくて、ちょっとしょんぼりしながら広場に向かったんだけどね。
でも、顔を合わせるなり、アレクのほうから「これからもこうやって集まろう」って言ってくれてね。もう、すっごく嬉しくなっちゃった。
だって、アレクも、この集まりを大事に思っててくれたのかなって。そう思ったら、3人で照れながら目が合っちゃってね。思わず、みんなで吹き出しちゃった。
だからね、これからもアレクとハルトとは3人仲間だし、洗礼式に向けて頑張っていくつもり。
わたしもハルトも、行きに落ち込んでたのが嘘みたいに、帰りはやる気に満ちてたんだよ。やっぱり仲間っていいよね。
⊹ ⊹ ⊹
それから、季節が夏から秋に移って、だいぶ涼しくなった頃。ついに、わたしとハルトも、神殿教室を辞めることになった。
アレクが辞めたあとにも、次の月にはカイとコニーが辞めていったんだよね。2人はお金の計算ができればいいんだって。それで、わたしたちが教室に入ったときのメンバーは、誰もいなくなっちゃったんだ。
だから今は、わたしたちが一番年上になったんだけど、なんだかあっという間だったなぁ。
それぞれのお別れ会のときには、折り鶴を渡したんだけど、すごく喜んでくれたんだよ。でも、今までみんなに渡してたから、驚きは少なくなってたけどね。
それと実はね、この3人には、これからも会える機会があるんだよ。アレクには毎月会えるし、カイやコニーも、市場のお店でお手伝いをしてるからね。買い物に行ったときに、会えることもあると思うんだよね。
もちろん、教室で毎週会ってたのに比べると、やっぱり寂しくなるけどね。でも、また会えると思うと楽しみだし、ちょっとは平気だったんだよ。
でも、いざ自分が辞めるってなったら、寂しさが違うもんなんだね。毎週通ってたから、行かないほうが変な感じがするくらい。
お父さんは、まだ通っててもいいよって言ってたんだけどね。先にハルトから辞めるって聞いたら、すごく寂しいなって思っちゃったんだよね。
もちろん、教室ではほかの子たちとも仲良くしてるけど、やっぱりハルトは特別だもん。小さい頃から一緒だし、魔力のことだって、最初から疑わずに一緒に楽しんでやってくれたしね。
そして、ソーニャ先生に報告した日の帰り道。なんとなく、ソワソワしながら歩いていると、ハルトから嬉しい提案があった。
「レティちゃんも、今月で辞めるんだよね?」
「うん、そうするつもり」
「じゃあさ、折り鶴をお互いに作って交換しない?」
「わぁ、それいいね!」
「でしょ。作れるのが僕たちだけだから、作り合いっこすればいいと思って」
たしかに。自分で自分の分を作るのも変だし、交換なら楽しいもんね。さすがハルトだね!
「うん、そのほうが楽しそう! ハルトは何色にするの?」
「僕は紫色かなぁ」
「紫色かぁ。お花あるかな?」
「どうだろう? 作るときに、アメリさんのお店に行って決めてもいいよね。レティちゃんは何色がいいの?」
「わたしはピンク色かな!」
「ピンク色ならありそう。それじゃあ僕は、一番は紫色で、なかったら別の色にしようかな」
「それがいいね。いつ作る?」
「僕はいつでもいいけど、早く作りたい気もするし……明日はどう?」
「いいよ、明日ね!」
そうして次の日。朝からハルトと一緒に、アメリさんのお店に向かった。
秋に入って涼しくなってきたから、上着を羽織ってるんだけどね。すごく可愛くて、お気に入りなの。少し前に、お父さんに買ってもらったんだけどね。
なんと、わたしって思ったより成長してたみたいで、前に着てたのがきつくなってたんだよね。靴も少し大きめのを買ってもらったし、ちゃんと成長してるって感じがするよね。
これも、広場で走ったり、腕立て伏せをしたりしてる成果なのかな? だって、前よりごはんを食べる量も増えてきたもん。
ハルトには追いついてないけど、まだまだ背も伸びるはずだよね。冒険者になるためにも、もっと体力をつけないとね。
しばらく歩いていると、角にあるアメリさんのお花屋さんに着いた。挨拶しながら扉を開けると、アメリさんが気づいて声をかけてくれた。
「あら、レティちゃん、ハルトくん。おはよう。またお花が必要になったの?」
「そうなんです。今回は、僕たちが教室を辞めることになって。それでせっかくだから、お互いに作り合おうってことになったんです」
「もうそんなに経つのね。最初に来たのが、ついこの間みたいなのに」
「そうですよね。僕たちなんて、お客さんでもなくて、突然来ただけだったのに……本当にありがとうございます」
「ありがとうございます!」
わたしもちゃんとお礼を伝えた。アメリさんのおかげで、教室のみんなに素敵な折り鶴を渡せたんだからね。
「ふふっ、いいのよ。それで、今回は何色にするの?」
「紫色とピンク色にしたいんですけど、ありますか?」
「そうねぇ。ピンク色はあるけど、紫色はないわね。売り物ならあるんだけど、売れ残りがなかったから」
「そうなんですね。そしたら、水色ってありますか?」
「それならあるわよ。ちょっと待っててね」
そう言ってアメリさんは、奥の棚の上に置いてある中から、ピンク色と水色のお花を抜き出して、それぞれを束にしてくれた。
紫色のお花って、売り物ならあるんだよね。どれどれ。あっ、可愛いお花! 色も綺麗だし、これ使いたいなぁ。……そうだ! ハルトにはいつも助けてもらってるんだから、これで作っちゃおう!
お花は、あとでこっそり買いに来ればいいよね。魔道具の設計料もあるんだもん。そうしよう!
あっでも、どうやってお金を手もとに持ってくるのか分からないから、家に帰ったらお父さんに聞いてみなきゃ。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます! また買いに来ますね」
「いいのよ。いつかお金を稼ぐようになったら、買いに来てね」
「もちろんです!」
最後は、2人で声が被っちゃった。わたしは、あとで来るつもりだけどね。ふふん。
そうして、わたしが水色の束、ハルトがピンク色の束を持ってお店を出た。
「一緒に作ると楽しみが減っちゃうから、それぞれで作らない?」
「うん、僕はそれでもいいよ」
「じゃあ、できたらお互いの家に持って行くっていうのはどう?」
「いいよ。できたら持って行くね」
そうして、わたしの家の前でお別れした。あのお花が売れちゃう前に、急いでお父さんに聞かないと。そう思って、すぐに作業場に向かった。
「お父さん、ちょっといい?」
「うん? どうしたんだい?」
「あのね、今月でハルトも教室を辞めるでしょ。それでね――」
お互いに折り鶴を作って、交換することになったこと。アメリさんのお店に行ったけど、売れ残りの中に、ハルトの好きな色のお花がなかったこと。でも売り物ならあるから、それを買いたいっていうのを説明した。
「お花を買うのに、あの設計料を使いたいんだけどね。どうやってお金にするの?」
「なるほどね。お金はギルドで引き出すんだけど、お花はすぐ買いに行きたいんだよね? それなら、お父さんが貸しておくから、それで払うといいよ」
そう言って、銅貨を3枚持ってきてくれた。
「念のため、少し多く渡しておくからね。これで買えると思うよ」
「お父さん、ありがとう! さっそく行ってくるね!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
お父さんが後ろから声をかけてくれたけど、急いでたから振り返らずに「わかったー!」って言って、そのまま歩いて行った。あのお花が売り切れたら大変だもんね。
お店に着くと、急いだおかげか、あのお花はまだ売れていなかった。よかったぁ。
「あら、レティちゃん。ほかの色も必要だったの?」
「えっと、実はあそこの紫色のお花を買いたくて」
「まぁ、わざわざ買いに来てくれたのね。ありがとう。もしかして、このお花も紙を染めるのに使うの?」
「そうなんです。1枚分なんですけど……」
「それなら、これくらいかしら」
アメリさんが、何本か抜いて持ってきてくれた。今までは売れ残りをもらってたから、お金を払うのは初めてでドキドキする。銅貨3枚で足りるかな……?
「染める用なら、少し萎れてるのでも使えるから、おまけに付けておくわね」
「わぁ、ありがとうございます!」
「お代は銅貨1枚ね」
よかったぁ。かばんから銅貨を1枚出して、アメリさんに渡すと、代わりにお花を持たせてくれた。
「はい、たしかに。買いに来てくれてありがとうね」
「こちらこそ、おまけも付けてもらっちゃって、ありがとうございます。そういえば、アメリさんは好きな色ってありますか?」
「ふふっ、いきなりね。わたしはオレンジ色が好きなの」
「もしよかったらなんですけど、いつも友だちに作ってるプレゼントを、アメリさんにも渡せたらなって思って」
「まぁ、ありがとう。……ということは、オレンジ色のお花が必要ってことね? たしか売れ残りの中にあったと思うから、ちょっと待ってね」
そうして、奥からオレンジ色の花を束にしながら持ってきてくれた。
「ありがとうございます! ちょっとしたものなんですけど、できたら持って来ますね」
「ふふっ、楽しみに待ってるわ」
アメリさんと約束して、お店を出た。手には、紫色の花束とオレンジ色の花束を持って。
家に帰ったら、紙を染めては干して、を繰り返す。何度もやってるから、もうすっかり慣れちゃった。次の日には、水色、紫色、オレンジ色の、薄く色付いた紙ができあがった。念のために、もう1日置いてから折ったんだけどね。
紙もなかなか綺麗に染まったと思うし、折り鶴も丁寧に折ったから、我ながらいい出来だと思う。
紫色はハルトに、オレンジ色はアメリさんに。そして水色は、お父さんにあげようかなって。お花は余ってたものだったけど、お父さんのために折ったんだからいいよね。
お父さんは作業場にいるから、あとで渡すとして、先にアメリさんに渡してこようかな? そう思って、アメリさんのお店に行くと、嬉しそうに受け取ってくれた。
「まぁ! なんて綺麗な紙細工なの。今まで、こんな素敵なものを作ってたのね。私にまでくれるなんて、本当にありがとう」
「こちらこそ、何度もお花を分けてくれて、ありがとうございました。ハルトも同じ気持ちだと思うので、2人からのお礼ということで」
「ありがとうね。ハルトくんにもお礼を伝えてね」
「はい!」
その後、家に帰ってお父さんにも渡したんだけど、すごく喜んでくれて、自分の部屋に飾りに行ってたんだよ。今までだって、わたしが家で作ってたから、折り鶴は見たことがあったのにね。こんなに喜んでくれるんなら、もっと早く作ってあげればよかったなって思っちゃった。
そうして、お昼ごはんを食べ終わったあとにハルトがやってきた。ピンク色の折り鶴を持ってね。
「はい、これ。レティちゃんに」
「ありがとう! わたしも持ってくるね」
「うん」
ハルトに見えないように、両手で隠しながら持ってきて、そっとハルトの手に置いた。
「あっ!」
「へへっ、びっくりした?」
「うん、だって紫色だよ!? どうしたの?」
「いつもハルトには助けてもらってるからね。紫色のお花を使ってみたんだよ」
「えっ、売れ残りにはなかったよね?」
「ふふん。わたしには、魔道具の設計料があるからね。どーんと使っちゃった。っていっても、アメリさんがおまけを付けてくれたから、お得に買えたんだけどね」
「それでも、買ってまで作ってくれるなんて。……本当にありがとう。大切にするね」
「どういたしまして。わたしも大切にするね。ありがとう」
ちょっと照れくさかったけど、想像してたよりも驚いて喜んでくれたから、やっぱり紫色にしてよかったな。それに、わたしも嬉しくなったもんね。
⊹ ⊹ ⊹
そうして、今月最後の風の日。わたしたちの神殿教室での日々は、終わりを迎えた。
神殿教室に入ったことで、アレクという大事な仲間もできたし、ハルト以外の同世代の子にも出会えたんだよね。
文字だって書けるようになったし、絵本も読めるようになった。計算もできるようになったし、お金だって自分で払えるようになったんだよ。すごく成長したよね。
それから、いろんな思い出も神殿教室に入ったからできたものだし、今まで本当に楽しかったなぁ。
これからは、洗礼式に向かって魔力量を増やさないといけないし、体力もつけていかなきゃ。……うん、泣いてる場合じゃない!
――でも、やっぱり寂しいなぁ。




