20. 時間を見るもの
わたしが計算組になった頃には、季節も夏に移っていて、暑いなって思う日がだんだん増えてきた。
計算を習い始めてから分かったんだけどね、前世の記憶があるおかげなのか、思ったより理解が早いみたいなんだよね。ソーニャ先生も、ちょっとびっくりしてるくらい。一緒に教室に入ったハルトとコニーも計算組になったんだけど、2人よりちょっと早く問題が解けるんだよ。
それでね、早く問題が解けたら、教室に置いてある絵本を少しずつ読んでるの。前にソーニャ先生が読んでくれた、神様のお話とかね。分からない単語は教えてもらえるから、勉強にもなるんだよ。
あ、お誕生日にもらった絵本も、お父さんに単語を教わりながら、ちゃんと読めるようになったんだよ。ふふん。
教室には、絵本が3冊だけ置いてあってね。神様のお話のほかには、男の子がおばあさんと旅をするお話と、お星様になった猫ちゃんのお話があるんだって。
神様のお話は、前から少しずつ読んでたから、もう読めるようになったんだよ。だから今は、お星様になった猫ちゃんのお話を読んでるんだ。
読み始めたばっかりだから、まだよく分からないんだけど、女の子と猫ちゃんが出てくるの。どんなお話なのか、これから楽しみ!
それと今日はね。ハルトとアレクの3人で、また秘密の練習会をしに広場に来てるんだ。
前に、ライトを長く出せるようにしようって話し合ってから、月に一度だけ集まることにしててね。月初めの神殿教室のときに、集まる日を決めてるんだよ。
わたしとハルトは近所で、神殿教室も一緒に通ってるから、魔法のこととかも話せるんだけど、アレクは1人で練習してるからね。やっぱり、一緒に進んでるって感じられるほうが楽しいもんね。
「2人とも、ライトは長く出せるようになってきた? わたしはまだまだって感じ。なんか途中で違うことを考えたり、何かに気を取られちゃうんだよね」
「うーん、僕もまだまだかな。最初よりは長く出せるようになったんだけど、集中するのがこんなに難しいと思わなかったよ」
「俺も。前よりは長く出せてると思うけど、比べられないからよく分からないな」
「あ、たしかに! どれくらい出せたかって、時間も分からないもんね」
これは盲点だったかも。この世界にも時計はあるみたいなんだけど、神殿とか広場とか、そういう公共の場所にしかないんだよね。あるのは知ってても、ほとんど見ることがないし、みんな鐘に合わせて生活してるもん。
前世の感じでいうと、1の鐘が朝の6時で、4の鐘が昼の0時くらいだと思うんだよね。それで、最後の7の鐘の頃には日が落ちてるから、夕方の6時くらいかなって。
だから、たぶん2時間おきに鐘が鳴ってるんじゃないかな。
1の鐘は1回、2の鐘は2回っていうふうに鳴るんだけど、その間に、別の鐘が1回鳴るんだよ。みんな “真ん中の鐘” って言ってる鐘の音なんだけどね。
この鐘があるから、1時間とかは分かるんだけど、逆に言うと、それより細かくは分からないんだよね。
「どれくらいの長さか、時間が分かればいいんだけどね」
「そうだね。分かりやすいし、目安にもなるもんね」
「……あ、そうだ! いいこと思いついた!」
「なになに?」
「うーん、作れるか分からないから、できたら教えることにする」
「気になるなぁ。ね、アレクも気になるよね?」
「あぁ。でも、レティなら何か面白いものができる気がする」
「たしかに。レティちゃんが作った折り鶴も、最初見たときはびっくりしたもんね」
「ん、だから期待してる」
「2人にそう言われたら、作るしかないね! お父さんとも相談してみるよ」
「うん。無理はしなくていいけど、楽しみにしてるね」
「よーし! それじゃあ、今日はどれくらいライトが出せるか、1人ずつやってみようよ」
「うん、そうしよう!」
アレクも頷いてるから、順番にライトを出してみる。全員が終わったところで分かったのは、アレクが一番長く出せたってことだった。
広場の時計の近くに行って、みんなで見てたんだけどね。わたしとハルトは同じくらいで、アレクよりは少し短いかなって感じ。やっぱり、集中力って大事なのかも。これは、練習あるのみだね。
そのあと解散して家に帰ってきたら、しばらくしてお昼ごはんの時間になった。ちょうどいいから、ごはんを食べたあとで、お父さんに相談してみる。
「今日ちょっと思いついたんだけどね。時間を計る道具ってある?……あ、魔道具じゃなくて」
「魔道具の時計じゃなくて?」
「うん。わたしが思いついたのはね、さらさらの砂が入ったものなんだけどね。えーっと、形がね――」
慌てて石板を持ってきて、形を書きながら説明する。
――そう、わたしが思いついたのは “砂時計” 。
魔道具じゃないから、作りやすいかなと思ったんだよね。それに、お小遣いで作れるくらいだったら、ハルトとアレクにもあげられるもんね。
「なるほど。この砂の量で、計れる時間が変わるってことなんだね。……となると、砂は手に入るからいいとして、この形状も作れそうだし、あとは真ん中の部分の細さを――」
またお父さんが自分の世界に入っちゃった。声をかけてみたんだけど、気づいてないみたい。あったか石を作ったときも、こんな感じだったもんね。
「お父さん!」
ちょっと大きめの声を出して呼びかけると、はっと気づいてわたしの顔を見てくれた。
「これ作れそう? もし作れそうなら、お仕事の合間に考えてもらってもいい?」
「もちろん。この砂が落ちる部分は調整が難しそうだけど、物自体は簡単に作れると思うよ。試作品ができたら、レティに見せるからね」
「わぁ、よかった。お父さん、ありがとう!」
「ふふっ。レティの頼みだからね。それに、ほかにも使い途があるかもしれないしね。それじゃあ、仕事をしてくるよ」
「うん。わたしは掃除してるね」
「ありがとう。頼むよ」
午後は掃除をして、またライトの練習をしてみた。ライトを出し続けることは難しくないんだけど、すぐ別のことに意識が向いちゃうのが問題なんだよね。何気に目に入ったものを見ちゃったり、ふと頭に浮かんだことを考えちゃったりね。
それで言うと、砂時計ってかなりいいかもしれない。砂がさらさら落ちるから、それを見てるだけで時間が経つし、集中できそうだもんね。早くできるといいなぁ。
⊹ ⊹ ⊹
それから数日後。お父さんは、お仕事がお休みだからって言って、朝から作業場に篭って砂時計を作ってるみたい。
と言っても、錬金術士だからいつも作業場にいるし、普段とあんまり変わらないんだけどね。
わたしはというと、朝から洗濯だ。今日の空には雲がなくて、すっきり晴れそうだからね。こんな日は、シーツを洗わなくっちゃ。
洗い場に行って、魔法でお水を出したら、石鹸を使ってじゃぶじゃぶ洗う。今は夏だから、お水で洗うのも気持ちいいんだけど、あったか石でちょっとだけ温める。なんとなくなんだけど、このほうが汚れが落ちる気がするからね。
洗い終わってシーツを干していると、作業場からお父さんが顔を出した。
「あ、レティ! ちょうどいいところに」
「うん?」
「ほらこれ。試作品第一号だよ」
「えっ、もうできたの!?」
「この前から少しずつ考えて、設計は終わってたからね。もともと今日は、実際に作ってみるだけだったんだよ。それに構造が簡単だから、作るのはそんなに難しくないしね」
「そうなんだ! 見た目はイメージ通りだから、テーブルに置いて、試してみなきゃね。ぱぱっとシーツを干しちゃうから、ちょっと待ってて」
「あぁ、それなら手伝うよ」
そう言って、お父さんがほとんど干してくれた。お父さんは大きいから、本当にぱぱっと干しちゃったんだよ。わたし1人だったら、もっと時間がかかってたね。
居間に移動して、さっそく砂時計の試作品第一号をテーブルに置いてみる。真ん中でくびれた透明の器には、下のほうに砂が入っている。
「それじゃあ、やってみるね。……えいっ!」
本当は掛け声なんて必要ないんだけど、気合が入ってたからか勝手に出ちゃったよ。そうして上下をひっくり返すと、上から下へ、砂がさらさら落ちていった。
「わぁ、思ってた通りだよ! お父さん、すごーい!」
「そうかい? それならよかった」
「これって、この砂が全部落ちたら、どれくらいの時間になるか分かる?」
「うーん、どうだろう。作業場に時計があるから、計ってみようか」
「え、作業場に時計があるの?」
「そうだよ。仕事で必要なときもあるからね」
それは知らなかったよ。……あ! だからいつも、4の鐘がなる頃に合わせて、お昼ごはんができ上がってたんだね。なるほど。
「そしたら、どれくらいの時間か計ってみたい!」
「うん、そうしよう。じゃあ、作業場から時計を持ってくるから、レティが見ててくれる? 僕は今から、お昼ごはんを作るからね」
「うん、任せて。ばっちり見るからね!」
お父さんが時計を持ってきてくれたから、さっそく砂時計をひっくり返す。砂が落ちるのを横目で見ながら、初めて見る時計も観察してみる。
時計には、短い針と長い針がついててね。秒針はないけど、盤に数字が彫ってあるから、前世の記憶にある時計と似てる気がする。
でも、彫ってある数字が1〜6だし、1が朝だから、前世の時計とは夜と昼がひっくり返ってる感じなのかな?
まぁ、前世の時計も、今ちょっと頭に浮かんだだけだから、違いはよく分からないんだけどね。だって、ここの時計も、じっくり見るのは初めてだしね。
そういえば、わたしが時間を計る道具について聞いたときに、お父さんが「魔道具の時計じゃなくて?」って言ってたから、この時計って魔道具なのかも。
ささっと裏を見てみたら魔石が付いてたから、やっぱり魔道具だね。
砂時計に視線を戻すと、さらさら落ちていく砂に目が釘づけになる。ただ落ちていくのを見てるだけなのに、不思議と集中してたから、あっという間に全部の砂が落ちていった。
「あ、終わった。えーっと、最初は長い針が2のところだったよね。それで今は3あたりだから、だいたい数字ひとつ分だね」
この世界にも “分” と “秒” があるのかは分からないけど、とりあえずは、目安の時間が分かればいいだけだもんね。そこそこの時間に感じたから、これで良さそうな気がする。
わたしがそう考えていると、お昼ごはんの用意が終わったのか、お父さんが戻ってきた。
「お、時間は分かったかい?」
「うん、だいたいだけどね。この数字ひとつ分くらいだったよ」
「そうか。その量だと、それくらいなんだね。だったら、量を半分にしたら――」
お父さんは、また何か考え始めたみたい。もしかして、違うことにも使えそうなのかな?
「ねぇねぇ、お父さん。これと同じものを、あと2つ作れる? ハルトともう1人の友達にあげたいんだけど、お小遣いで足りるかな」
「もちろんいいよ。これはね、そんなに材料費はかかってないから、お金はいらないよ。それに、ちょっと試したいこともあるからね。2つくらいなら、試作品として作るよ」
「わぁ、ありがとう。お父さん大好き!」
「ははっ。そう言われたら、いいとこ見せないとね。それじゃあ、お昼ごはんにしようか」
「うん!」
お父さんのおかげで、砂時計ができちゃった! これで、だいたいの時間は分かるよね。
砂の落ちた量で、ライトがどれくらい長く出せたかも分かるし、もっともっと長く出せるようになったら、砂時計をひっくり返せばいいもんね。さっそく、あとでやってみようっと。
この砂時計、ハルトとアレクにはいつ渡せるかなぁ。2人がどんな反応をするか、今からワクワクしちゃうね。




