20話 真実の愛に気づいた
次話でエピローグ(打ち切りエンド)予定。
・ヴァンパイアロード視点
読心術を、目の前の女神に使う。
多少の抵抗はあったが、ムノー様に教わった魔技により、読心術の圧力を上乗せし、通った。
やはりムノー様の読み通り。
女神にとってこの世界は、第一王子クラウン・アストライオスを、悪役令嬢エリアが復讐するのを見届ける、ただそのために作った世界。
ゆえに。
クラウン・アストライオスの死が不可逆的になった場合、女神にとってこの世界に価値はない。
ゆえに。
世界を女神自らが滅ぼし、新たな世界を作り、繰り返すのだ。
第一王子クラウン・アストライオスを、悪役令嬢エリアが復讐するのを見届ける、ただそのために、新たに同じ世界を作るのだ。
『おそらく女神は、エリアの生まれ変わりなのだろう。復讐心と、エリアに復讐してほしいという異世界のゲームプレイヤーの願いが合わさり作られた新興の神といったところか』
ムノー様のこの読みは、答え合わせ出来ない。
目の前の女神は、女神になる前の記憶を失っている。
『この世界にやってきて、女神によって世界を何度も滅ぼされたのを俺は見た。10回程度なら見逃すつもりだったが、5675回も滅ぼしているから、さすがにこの世界の住人が気の毒に思った。だから……』
ムノー様は、女神を引き出すために、クラウン・アストライオス暗殺を、遠回しにエリアに知らせた。
あの口の軽い竜の親子なら、エリアに計画を漏らすだろう。
女神はエリア越しに世界を監視しているだろうから、反応があるだろう、と。
「現れたな女神。ムノー様の敵。この世界の支配者」
「おやおや、そこの小娘に使ったのと同じ魔法を、あなたにも使ったはずですが」
女神が顕現するのには、膨大な力が必要。
階級の低い神なので、顕現1回にも500年ほど力を貯蓄しなければならない。
そうホイホイ現れることが出来るほどの力は無い。
ムノー様の観察結果だ。
つまり、女神が今現れた理由は、もうこの世界を見限り、今から滅ぼすということだ。
「まぁいいでしょう。さようなら吸血鬼の小むす……」
女神が強めの魔法を使おうと手をこちらにかざした時、その両腕が落ちた。
「ギャアアア〜!!」
「神様のくせに、腕が切れたくらいで喚くなっての」
「ムノー様!」
オーガロードの牙で作られたナイフを持ち、面倒くさそうに女神に対峙する、黒い髪の男性。
我らがムノー様だ。
『お前たちで荷が重い相手は、俺が対応しよう』と以前におっしゃったムノー様、くっ、私が弱いばかりに、足を引っ張ってしまった……!!
「きっ、貴様どこから!」
「それに答える必要はないな。今までの精算の時間だ、女神」
「ほざけェェーーー!!」
氷の手を生やし、ムノー様に掴みかかる女神。
助けに入ろうとしたが、必要ないと合図を受け取る。
「ギョェエエエエ〜!!」
女神の両足が切断される。
何という早業。
「女神、あんたにとってはこの世界は、復讐の舞台としての価値しかないのだろうな。だが、ここに暮らしている住人にも心はあるんだ。生きたい、死にたくない、未来もずっと繁栄したい、ってな。それを問答無用で踏みにじるのは違うだろ?」
以前初めてお会いした時、読心術を持つ私に、ムノー様は見せてくれた。
この世界が氷に飲み込まれて壊れていく様を。
過去にムノー様が見た、滅ぼされた光景だとのこと。
別世界の私も、私の故郷も、大切な家族や仲間も氷に飲み込まれて死んだ。
何度も何度も。
『この連鎖を止めるためにはどうすればいいのですか?』
『女神を止めるしか方法はないな』
かくして、私は女神を殺す決意を固めた。
ムノー様は、慈悲深い方だった。
最後まで協力しようと約束してくださった。
女神が滅びの氷魔法を使える条件は3つ。
滅ぼす世界に顕現していること。
十分な魔力があること。
1つ5分かかる6つの舞いを経て、10分の詠唱が必要であること。
『舞いや詠唱は省略可能だ。ただし世界を滅ぼすほどの威力は出ないだろう、もっとも……』
いったん世界を滅ぼすのを諦めて、私たちを殺すことを第一目標に変更した場合には、滅びの氷魔法を使ってくるだろう。
女神がムノー様を睨んだ。
そして簡単な詠唱を唱えた。
いよいよ来る。
国1つを簡単に飲み込むほどの、氷魔法を圧縮した塊、それをムノー様にぶつけた。
さすがのムノー様もこれは……
ひょい、パクっ。
ムノー様は圧縮された魔法をさらに圧縮し、飲み込んだ。
って、ぇぇぇえ!!?
「な、何なんですかあなたは!??」
「自己紹介がまだだったか? 俺はムノー。
永遠の命を持つ、通りすがりの一般人だ」
ポロッ。
ムノー様の恐ろしく速い斬撃で、女神の首が切り落とされた。
◇ ◇ ◇ ◇
・女神視点
目の前の男、ムノーの事は知りません。
少なくとも作り直した世界に存在しなかったはずです。
他の異世界からごく稀に、来訪者が現れることがあると、神々の会で聞きますが、その類のようです。
頭だけになりましたが、問題ありません。
氷の体を生やして動けます。
「遺言を考えな。3分間待ってやる」
この男が油断している隙をみて、殺す……!
「お?」
ぎゅっ。
頭だけになった私を、誰かが抱きしめます。
「エリア……見つけた、本物だな……」
まだギリギリ死んでいなかった第一王子クラウン・アストライオスが、頭だけの私を抱きしめているようです。
「ごめんな、君を……もっと、信じる……べきだった……イエスマンだらけの中で、耳の痛い忠告を……してくれるのは……君だけ……だっ、た」
出血多量で、意識を失いかけているクラウン。
あぁ……私は、王子様に復讐したかったわけじゃなく、認めてもらいたかったのですね。
……クラウンは息を引き取りました。
私もそろそろ、ムノーに殺されるでしょうか。
「時間だ、遺言は?」
「クラウンと同じ墓に入れてください」
「面倒だからやーだね」
最後に見たのは、私の体がバラバラになって、塵になっていく光景でした。




