おまけ1:導師様の休日
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ダメだ。全く眠れない。せっかくリョウ君には、わたしの分のWatercolors Happy New Year Live 5025のチケットを最速先行抽選で用意してもらったのに、それに、にゃらんで、念願だったカブトヤマスターホテルでの宿泊予約も済んでいるのに、今回も、今回も肝心の日本への移動の手段がない。くそ! ライブに行きたい。いや、行かなければならない。何を言っているのだ。行けるはずがないだろう。いやそれでも行くのだ。一体どうやって? どうやって行くのだ? いや、あっただろう。前にやった手段が!
「もはや議論の余地なし!」
わたしはベッドからガバっと起き上がると、それが夢であったことに気がついた。
時計を確認した。時刻は現在午前10時を少し過ぎた辺りか。
何? 午前10時だと? ものすごい寝坊をした。
なぜ侍従長はわたしを起こしてくれなかったのだ? まさか? 死んだ?
その時、やっと気づいた。すでに侍従長はいないことに。
そうなのだ、今日はわたしが「偉大なる国家殉死」を遂行し、わが祖国に帰ってきて以来、初めての休日だった。そういうわけで、侍従長は、本日は趣味である歴代導師様の聖地巡礼に行っており不在なのである。それにしても、昨夜は休み前ということもあって、秘密の部屋で徹夜し過ぎた。実は、最近秘密の部屋にも最高級のオーディオシステムを導入したのだ。そのオーディオから奏でられるWatercolorsの楽曲は、もはやこれ以上ない程の幸福感をわたしに与えくれる。それと、来年早々に開かれるWatercolorsのライブについて、先ほどの夢で見た通り、チケットと宿泊先の手配は無事終了したのだが、今回も日本に行くための移動手段が見つからない。まあ、なんとかなるだろうと気軽に考えていたが、しかしながら、もうそうは言っていられないタイミングになってきてしまった。それで、昨夜はWatercolorsの楽曲を聴きながら、何かいい方法がないのか、ずっと考えていたのだが、残念ながら、見つからなかった。かといって、さすがに二度目の「偉大なる国家殉死」を敢行するわけにはいかない。うむ。ならばいっそのこと侍従長に、このことを相談した方がいいかもしれないな。もしかしたら、侍従長ならば、何かいい解決策を考えてくれるかもしれない。
わたしはスマートフォンの画面を確認した。
画面を確認すると、
9:57 ハニー早く起きてくださーい♡
と表示されている。
それにしても、今日もものすごいLimeの数だ。
全てマリーからのLimeである。
なぜマリーがわたしの個人のLimeのアドレスを知っているのか。
それは、わたしが「偉大なる国家殉死」を完遂し、空軍基地に降り立った時だった。IF-35A機から降りて、しばらく国民達に向かって大きく手を振っていると、マリーが後ろからわたしの方までやってきて、むんずとわたしの肩を掴んだのだ。
わたしは後ろを振り向くと、
マリーは、わたしに向かって
「ハニー。連絡先交換してください。」
と、わたしにスマートフォンを向けてそう言ってきたのだ。
「えっ? なんで?」
わたしは意味がわからず、彼女にそのまま聞き返した。
「何当たり前のこと聞いてるんですか? ハニーの連絡先がわからなかったら、連絡のしようがないじゃないですか。」
と、少し不機嫌そうに、わたしにそう言ったのだ。
「ふむ。確かにそう言われれば、その通りだな。」
と、その時に彼女と連絡先の交換をしたのだ。
だが、よく考えれば、なぜマリーと連絡先の交換をしたのかよくわからない。あの時は、その場の雰囲気というか、マリーが、さも当たり前のように言ってくるので、いきおいで交換したに過ぎなかった。
それからマリーは、朝から晩まで毎日大量にわたしにLimeを送ってくるようになった。彼女には、何度かやめるようにLimeを通して説得を試みたのだが、もう、ハニーそんなに照れないでいいですよ。ハニーは忙しいので、見てくれるだけで私はOKですから、とか言って、わたしの説得に全く応じてくれなかった。ならば、彼女のLimeをブロックしようかとも考えたが、さすがにそれはかわいそう過ぎる。それに、彼女にはわたしの「偉大なる国家殉死」の時に大変世話になった。しばらく放っておいたら、そのうち飽きてきて、フェードアウトしていくだろうと思っていたのだが、一向に収まる気配がない。
そして、今に至るのである。
ちなみにわたしがマリー士官のことをマリーと呼んでいるのは、彼女からの要望だ。彼女がそう望むのならば、わたしが彼女のことをマリー士官と呼ぼうが、マリーと呼ぼうが、特に問題はない。それに文字数の節約にもなる。
そして、結局敗北したのはわたしの方だった。彼女の方から、いつ休みが取れるんですか? というしつこいLimeに根負けし、ついうっかり今日の休みのことを教えてしまったのだ。そして、今日のわたしの個人的な予定についてくることになったのだ。
マリーは、朝から予定を開けてくれ、と必死に頼んできたが、わたしにはわたしの予定がある。わたしは、今からその予定をこなすのである。
今日は休みと言っても、わたしにはまだやることがあるのだ。
実は、わたしは、現在個人的に伝説の初代導師についての研究をしている。
初代導師が5000年以上前に世界を救ったという伝説の能力、もし、それがどのようなものだったのか明らかになれば、この導師国の更なる繁栄に、何か役立てることができるかもしれないと思ったのだ。ちなみに、わたしがM基地で使用した雷属性の能力は、もちろん伝説の能力などではない。あれしきの能力ごときで、世界を制圧できるはずがない。
だが、初代導師について調べていると、色々と不可解な点が多い。実は、初代導師について研究することは、わが国では禁止されている。「決して導師を疑うことなかれ」この言葉が、導師国の教えには入っているのだ。だが、唯一導師自身と、その導師自身が認めた者のみは、初代導師の研究が許可されている。
そして、数年前にわが国で出土したという5000年以上前の文献。その内容について、国内では現在調査中と発表しているが、実は初代導師にとって、かなり不都合な内容となっていたため、発表することができなかったのだ。結局、研究自体が中止となり、全ての資料が導師預かりとなった。
初代導師が転生者だったということは間違いないのだが、伝説の能力者というのが、どうも初代導師とは別人物のようなのである。果たして本当に5000年以上前に世界を滅亡の危機から救ったのが、本当に初代導師であったのか? 正直言って、かなり疑わしい。そして、初代導師が、本当に導師国の教えを広めたとされる初代導師その者だったのか? それに、ここ導師国の5000年以上に渡る異常な繁栄についても、色々と説明がつかない点が多い。わたしは、初代導師についての研究を続けながらも、本当にこの研究をこのまま続けてよいものなのか、現在思案中なのである。
執務室でしばらく研究をしていると、侍従より、
「お客様がお見えになりました。」
との報告を受けた。
ふー。気づけば、もうそんな時間か。
来客用の応接室まで行くと、マリーが待っていた。
マリーはわたしを確認すると、
「あっ! ハニー♡」
と、すごくうれしそうな表情になったが、
わたしの前後左右にいるDCSPの存在を確認すると、すごくがっかりした表情に変わった。まあ、マリーの気持ちもわからないではないが、わたしにとっても導師となって初めての休日だ。休日だからといって、さすがに助手席にマリーを乗せて、わたしが導師専用リムジンを運転して目的地に行くわけにはいかない。セキュリティに関しては、徐々に緩和していくつもりだが、それについては、段階を踏んでいく必要があるだろう。それに、わたしがいくら能力者だからといって、歩いている時に、大量にミサイルでも撃ち込まれれば、ただでは済まないだろう。それに、何か不測の事態が起こった場合、マリーを守らなければならない。
導師専用車には、いつもの後部座席にはわたしが座り、いつも侍従長が座っている、わたしの隣の席にはマリーが座った。前は運転手とDCSPが左右に座っている。それに、前後にもDCSPの護衛車がわたし達の導師専用車をガードした。
マリーは明らかに不満顔で、頬を膨らませている。
彼女の方を見ると、今日の彼女はピンクのワンピース姿であった。彼女が空軍のパイロットスーツ以外の姿を見るのは初めてのことだったので、少し新鮮に感じた。
ちなみに、彼女のLimeには、彼女の私服写真も大量に送られてきているようだったが、基本的にマリーのLimeは、上から下にスーッと既読スルーにしているので、Limeの中をよく確認したことがない。
「マリーよ。今日はかわいらしい服を着ているではないか。なかなかよく似合っているぞ。」
と、素直に感想を言うと、
「本当ですか? この服、今日のデートのために、この前ママと一緒に買いに行ったんです。」
マリーは、こちらを向いて笑顔でそう答えた。
「そうか。うむ。ピンクがよく似合っているぞ。いっそのことパイロットスーツもピンク色にすればいいのではないか?」
と、少し冗談を言ってみた。
「はい! そうします。」
と、彼女は元気よくそう答えた。
まさか本気にしたわけではないだろうが、とにかく彼女の機嫌が少しよくなってホッとした。ちなみに、今日のわたしの服装は、ピシッとしたダークスーツで決めてある。
やがて車は、今日の休日の目的地である導狂ドームに着いた。
実は、以前わたしが舞導館にて大騒動を巻き起こした原因となった、導師国のあのAcrylicsなのだが、その後、導師国で一番の人気アイドルグループとなり、今回彼女達から、彼女達にとって初となる導狂ドーム公演に招待されたのだ。さすがに、公務で行くのは、彼女達に失礼だと思い、休日の日程を今日に合わせたのである。
ドームまで着くと、早速彼女達の楽屋にあいさつに伺った。
彼女達はわたしの存在に気づくと、
「あっ! 導師様だ。」
と言って、すぐにわたし達の方に近づいてきた。
「うむ。しかし、すごいじゃないか。導狂ドームで公演とは。」
(Watercolorsでさえ、ドーム公演はしたことがないというのに。)
「いえ、これも全て導師様のおかげです。」
Acrylicsのメンバーの一人がそう答える。
「何を言っているのだ? これは全て君たちの努力の結果だ。」
言葉の通りだ。わたしにお世辞を言う必要もあるまい。
「いえ、でも導師様との舞導館での出来事がきっかけで、多くの人達に私達のことを知ってもらうことができたので、やっぱり導師様のおかです。」
舞導館での例の曲を作った彼女が、私に笑顔でそう答えた。
「うむ。実はあの件に関しては、君たちにも大変迷惑をかけたと反省しているのだ。君達にそう言ってもらえるのならば、こちらとしてもありがたい。」
わたしは、あの日のことを自分の中では黒歴史として、記憶の奥底に封印しているのだ。できれば、触れられたくない過去である。
「導師様。私達、導師様のおかげでリニアモーターカーに乗れました。」
彼女が、元気よくわたしの言葉にそう返答した。
お願いだから、そのことだけは言わないでほしい。
そしてしばらくの間、彼女達と話をしていたが、彼女達には、これから大切なライブが待っている。それにいろいろと準備が必要であろう。そろそろ退出とするか。
そういえば、少し気になったことがあったので、彼女達に聞いてみた。
「そういえば、なぜ君達はわたしのことをカスと呼ばないのだ?」
すると、彼女達は、
「導師様は、あの日、私達に導師様のことをカスと呼ぶことをお認め下さいました。でも、私達が導師様のことをそう呼ぶには、まだまだ実力が足りていません。私達、導師様のことを再びそう呼べる日が来るように、一生懸命がんばります。なので、しばらくは導師様のことは導師様と呼ばせて頂きます。」
と、真剣な顔で私の質問に答えた。
「そうか。」
結局、これでわたしの事をカスと呼ぶ者は一人もいなくなったというわけか。
まあ、そちらの方がよいだろう。
本作の初代導師研究は、当初構想していた作品です。なんかすごい感じになり、もっと軽い感じのもの転換できないかなと飛躍した作品が本作となります。5000年前の大厄災の真実については、改めて発表できればと思います。




