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目的も無くただ階段を降りるのは苦痛だった。
そういえば、また目的を失なってしまった。
あとは、この翼で飛べるようにでも気が紛れそうなものだが、相変わらず動いてくれそうな気配がない。
空を飛ぶって楽しいだろうか。感情起伏が今ひとつとぼしい天使にも楽しいと思えるだろうか。
あとどれくらい私はここに居続けるだろうか……。
そういえば、気になっている事が一つだけあった。
登っていく列の天使は相変わらず大行列を作っているが、下っていく天使の数は明らかに少なかった。私は神様の所に行って確信に変わるまで、てっきり羽を使って自由に飛び去っていったのだと思っていたが、私が見た限り、羽を使って飛び去る天使はいなかった。
とすると、天使はどこに行ってしまったのか。
一緒のタイミングで降りていく天使に、ずっと注目してようやく判明した。
……天使はどこかへいなくなったのではない。消えたのだ、その場で。
その光景を目の当たりにして多少の動揺はあったが、理由はなんとなく想像出来た。
神様に会いに行って、生き返らせてもらう事をお願いした天使達は、神様に直接生き返らせられないと拒否され絶望し、やがてどうにもならないと悟り……消えるのだ。
その後の天使の行く末はよく分からないが、神様は生き返らせる事が出来ない代わりに、こうして天使にここに留まることが無いように誘導しているのかもしれない。
それが正しいことなのかは分からないけど。
ただ、霧のように細かい粒子となって、天使が消えゆく様は、美しい、と思った。
中間地点を知らせる看板を通り過ぎた。
身体の震えが止まらない。私もいつか感情という感情の全てを失い、ここから消えてしまう時が来るのだろうか。
消えるのは怖い。例え、今何か失うものがないにしても……。
何とか消えずに下まで降りることができた。
私の陰鬱とした気分とは裏腹に、天国ではあり得ないほど珍しく騒々しい光景がそこにはあった。
羽を広げ必死に逃げ出す天使、バタバタと二足で逃げ惑う天使、はたまた騒動の中心へ向かっていく天使。
こんなにも皆それぞれの意志が混濁する様は天国ではなかなか見られない。少しだけ楽しいと思う自分がいた。
だが、逃げ出す天使を見る限り、あまり愉快な出来事が起きているようには思えなかった。