その9「検診の日②」
「なあなんでそんなに」俺は言った。「ちっちゃい子がその……好きなんだ、あんたは」
ふむ、とアンドロイドが言う。
「『そういう風につくられたから』としか言いようがない。私は生まれながらの医者であり、生まれながらの幼女好きなのだ」
アンドロイドは続けた。
「私の頭の中には医療知識を司る医療回路や、身体を駆動させるための活動回路、患者の状態を記録するための記憶回路、幼女愛玩回路などがあり……そのどれも、機能として本質的には独立している。そのどれかだけが『私』であるわけではない。『私』という存在はこの独立した機能の集合体として定義されている。よって医者で幼女好きであっても、なんらおかしくはない。まったく矛盾ではないのだ。むしろ医者であるのに幼女が好きでないことのほうがおかしい」
「いやその理屈はさすがにおかしい!」
俺はほとんど叫ぶように言った。
「とにかく目のやり場に困るんだ、両立はけっこうだが今はどっちかにしてくれ!」
「そうは言うがな、君の問診も重要だぞ?」
「なんで俺の問診をやめる選択肢が先なんだ?! 本当に選択肢はそっちだけか?!」
俺以外の患者がこの病院の中に残っている、とアンドロイドは確かに言った。事の真偽を確かめるため、午後から俺はその患者たちを探し始めた。廊下を清掃するふりをしながら、怪しい部屋がないかどうかを探索した。
「何をお探し?」
後ろからクオンの声がした。俺はぎくりとしたが、なんでもない風の顔で振り返った。
「探している? なんの話だ」
「トキワくんは嘘が下手だな。顔に書いてあるよ〜『俺はロリコンです』って」
「そんなことは書いてない!」
「じゃあ『誰かを探しています』かな?」
俺は言葉につまった。やはりクオンは気づいているのか?
「ごめんね、さっき426さんと話していたの聞いちゃった。だからきっとそうなのかなってさ」
「……探したら、悪いのか?」
「ううん、ただ……」
クオンは切なげに視線をそらした。そしてすぐかぶりを振った。押し黙った。
「……なんなんだよ」
「ちゃんと帰ってきてよね」
「……はあ?」
クオンが踵を返した。言った。
「案内するよ。だからついてきて」
行った。俺はあわてて後を追った。