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新・ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
第4節-結
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41/53

その41「おしまいの街②ハートウォーミング・ヒートヒートヒート」

 こころちゃん。

 フルネームは「ハートウォーミング・ヒートヒートヒート」。

 俺が人生で五番目に見たアンドロイドだ。こころちゃんと呼ばれていたから、どこかかわいらしいアンドロイドを想像していた。だが実際の彼女は、いや性別があるのかすらわからない、燻銀の動く骨格標本という見た目であった。

「ハジメマシテ。ハートウォーミング・ヒートヒートヒート、デス」

 先ほど聞いた彼女の仕事。

 それは自殺の扶助だった。


「生きている人を把握するというのは、死んでいく人を把握する必要があるということですよね」

 渚は言った。

「この街ができた当初から、自殺する人が後をたちませんでした。最初はそれをなくす努力をしていたのですが、まあ、このご時世です。止められなかったんですね。それで……局で管理することになりました。多数決で。届け出があれば私たちはそれを受理し……薬を渡します。悪用がないよう、その薬を使うところまで私たちが立ち会います。自殺扶助……まあもう少し堅苦しい、言い訳するみたいな正式名称なんですけど……自殺扶助が、まあ実情ですよね」

「はじめはねえ、私たちみたいな人間の職員が担当していたんだけどねぇ……」


 この時ばかりは絶句した。

 何も言うことができなかった。言う筋合いすらないと思った。

 死んでいく人間の気持ちは、理解できる。しかしそれを背負わされた人の痛みは、お世辞にも人間らしいとは言えないアンドロイドが、最終的な担当になったことからも容易に想像がつく。

 俺たちが滞在することになった『星の海』。そこは紛れもなく、おしまいの街だった。今まさに死んでいっている街だった。



「みなさんがこの街に住まれるのか、それはわかりませんが、もう夜ですし宿泊できる場所は必要ですよね」

 そういう渚の案内で、俺たちは浮島の一角に来た。小さな船が何艘か複合した居住空間だった。

「女性の部屋と男性の船で別れられますよ〜。……それとも一緒の方が?」

「いや、別でいい」

「ではご自由に使ってくださいね〜」

「なあ……」

「はい?」

「……いや、やっぱりなんでもないです。気にしないで」

 俺と櫻宮薫子は別々の船を選んだ。渚はまた明日来ると言って去った。

 クオンは、俺の方についてきた。

「こっちでいいのか?」

 俺が尋ねる。

「ねえ、さっき渚さんに聞こうとしていたことって……この船が、なんで空いているのかってこと」

「……そうだよ。……聞けるわけがない」

 俺は、布団の敷かれていないベッドに腰掛けた。比較的狭い空間だ。ベッドもこれひとつだけか。机などはあるが、どう探しても元々の居住者の面影は感じることができなかった。

「何もないな」

「多分、処分しちゃったんだと思うな。そこまでが仕事なんだと思う。確かに……私ならやりたくない……」

 ベッドに、クオンも腰をおろした。

「聞かなかったけど、いいよね。私もベッドで寝たい」

「……この船にいた人は、きっとここで一人で寝てたんだよな」

「だと思う。……だから私、二人で寝たい」

「やっぱりさ……死にたくなるもんなのかな。俺は……俺が死のうとした理由は、少し違っていた気がする……けど、でも、やっぱり残された人は……つらいん、だよな……」

「……つらかった」

 クオンがしぼるように言う。

「うん……つらかった……つらかったよ……大切な人がいなくなって……どうして私じゃなかったのって……ずっと思ってた……。トキワくんのことや……他の患者さんのこと……助けている間だけは、忘れていられたんだ。助けてたんじゃなくて……ずっと助けられてた……」

「俺、謝りたいんだよ。俺が残してしまった人に……もしまだ生きていてくれてるならだけど……謝りたいんだ……クオンが俺を助けてくれたから、やっとそう思えるようになった。きっとさ、救われてない人は……他人のことは考えられないんだ。そう言う風に人を救ってきたクオンは……やっぱり俺はすごいと思う……」

「照れるな……ありがと。もっと言ってよ。そしたらもっと照れちゃうから」

 クオンが噛みしめるように笑った。俺も、不思議と笑える気持ちになった。

 入り口の鉄の扉を、誰かが叩いた。

「フトン ト シーツ デス。ワスレテイタ ト 渚ガ」

 扉を開けたのは、ハートウォーミング・ヒートヒートヒートだった。

「あ、ああ……ありがとう……忘れてたのか……」

 そしてこの扉、鍵が閉まらないのか。

「オジャマシマシタ?」

 なぜ疑問形なんだ。

「いや、助かったよ」

「ソレハ良カッタ! ヨロコバレル仕事、イイデスネ。普段は喜ばれないしねえ……タイヘンデス」

 なんか今一瞬すげえ流暢にしゃべってなかった?

「ソレデハ ヨイ夜ヲ。グッドナイト!」

 去った。

「あの人がこころちゃんて呼ばれてた理由、なんとなくわかった気がする」

 クオンがしみじみと言った。おかしくなって、俺はまた笑った。

「何にせよ布団は助かる……木の板の上で寝るところだった」

「ふかふかだよ! これ」

 クオンがはしゃいだ。

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