その12「水の底③櫻宮薫子の実験」
気がつくと俺は、真っ白い部屋の中に幼女たちと一緒に閉じ込められていた。この部屋の中には何もなかった。重そうな鉄の扉がぽつりとあるのみであり、あとは真っ白い壁があるのみであった。床の所々には排水溝があり、してみるにここは何らかの実験室であろうか。天井には埋め込み型の丸スピーカーと、回転式のカメラがあった。
俺は辺りを見回す。幼女たちがきょろきょろと周囲を見ている。数としては5人。不安そうな様子は見受けられない。
クオンはいない。聞きたいことが山ほどあるから、早いところ合流したいものである。
「あ、あーー。これで中に聞こえていますか? もしもし?」
天井から、例の女性小児科医の声が聞こえて来た。名前は確か、櫻宮?
幼女たちが無邪気に答えた。
「はあーーーい!」
「よしよし、元気な返事です」
小児科医が言った。
「今日は皆さんに、ちょっと子作りをしてもらいます」
頭おかしいんじゃないのかあいつ……。
「こづくり?」
「赤ちゃんをつくってもらいます」
「ねんどで?」
旧約聖書ならそうだった。
「まずは二人組になりましょうね」
「はぁーーーい」
幼女たちがめいめいに集まった。お団子頭の幼女が一人あぶれた。奇数だからそうなる。
「せんせーい、うさぎちゃんがあまってます!」
「ではあなたのペアに加えてください。3Pでいいです」
先生はさらりと最低なことを言った。
「ねんどはー?」「ちがうよ、きっとおりがみだよ!」「たえちゃんこのまえおりがみで『しゅーせきかいろ』つくったもんね!」
何だって? 集積回路? それは折り紙で作れるものだったか……?
「ええと……まず何からするんでしたっけ? ちょっと経験ないのでわからないんですけど、まあとりあえず、キ、キスをしてください」
何急にウブになっているんだ、お前はもう破廉恥の数え役満だぞ。幼女たちはもじもじして、恥ずかしそうに互いの視線をそらし始めた。
「き、きす」
「きす……」
「あああ! 幼女も恥ずかしがるんですね! 発見しました! 今度学会に提出しよ……」
何の学会だというのか。




