[02.森の中で(Part5)]
主人公が俺TEEEEEEEという設定は好きじゃない……書きにくいから。
だけど、この作品の主人公は白兵戦最強さん。
………アレ?
吸う息がしんどくなってきた。
小刻みに呼吸するたびに、喉に血の味のような感触がまとわりつく。いつもならこの程度の運動で、息が上がるはずもないのに呼吸が苦しい。どうやらこの体は、自分の使うアバターよりかなり身体能力が劣っていらしい。
―――当たり前といえば、当たり前。この世界では俺は初心者なんだし……。
相変わらずの熊さん(巨漢のこと)は元気いっぱいに斧を振り回している。そんな底知らずな彼のスタミナに嫌気が差しつつ、俺は冷静に相手を観察する。
今の所、敵が避けた攻撃は一度だけ。それ以外は全て鋼のような肉体に拒まれている。
それだけで勝機は見えた。だけど、決定打が圧倒的に足りない。
せめて、この剣がもう少し軽ければ……と内心思いつつ、俺は極力体力を使わないように相手の攻撃を避け続ける。
熊さんもさすがに躱し続けられることに苛立ってきたのか、攻撃が力尽くの単調なものになりつつあった。
だが、それでも圧倒的に不利なのは俺。当然だ―――あっちは決定打があり、こっちは全く攻撃が通じない。スタミナの分もあちらの方が上なので、このまま行けば間違いなく俺は潰れたトマトになってしまう。
(不味いな~)
と、そんなことを軽く脳裏に浮かべていたその時―――。
「セァアッ!!」
威勢の良い掛け声とともに、一筋の斬撃が刻まれた。
横からの不意打ち。が、やはり鋼鉄の体には刃は通らず、ただ金属音を響かせて盛大に退く一人の騎士。
熊の注意が、俺から騎士に移った瞬間だった。
「邪魔済んじゃねぇえええええええええ!!」
野獣のような咆哮に、俺と騎士が思わず立ちすくんだ。
大胆に振り上げられた戦斧。そしてそれが、おかしなことに淡く光輝く。
「―――なっ!?」
瞬間、俺はなんとも言えない悪寒が背筋を走る。
―――気づいたら駆けだしていた。
有無言わず、立ち竦んでる騎士に体当たりして、庇うように一緒に地面に転がる。
そして、俺たちの背後から戦斧が振り下ろされた。
―――【地割れ】
刹那―――地が爆ぜた。
漂う土煙。土の香りを感じつつ、俺は素早く立ち上がり、辺りを警戒する。
「………おいおいおい」
先ほどまで少女が突っ立ていたすぐ脇には、地面に直線を描くように地面が隆起していた。遥かに身の丈を超える岩壁に俺は冷や汗が隠せない。
喰らっていたら、間違いなくただでは済まない。
ふと視線を下に落すと、打ち所が悪かったのか騎士の人は気を失っていた。
と、そこで土煙から巨大な人影が現われる。
「……外れてたか。運のいいやつだ」
熊さんは口が悪いです。
さて、今の状況は気絶した足手まとい一人と、敵は相変わらず。
……―――あれ? 俺、何気にピンチじゃね?
相手との距離は三メートルあるかないか。
そんな距離で下がろうにも、気絶している騎士がいて下がれない。いや、見捨てれば下がれるけど、さすがにそれは目覚めが悪いというかなんというか……。
左横は土壁にふさがれ、逆に逃げようにも、目の前の敵が倒れている騎士を見逃すとは思えないし……詰まるところ前しか行けない。
「やばい………」
今更ながらことの重大さに気づいた。
とにかくこの状況を打開するには、前に駆けぬ抜けるしかない。
ちらりとあるものを一瞥してから、俺は目の前の敵を見定める。相手も、肩に背負った戦斧を構えて臨戦態勢の構え。
どちらが斬り込んでもいい状態だった。
退路はある意味塞がれ、逃げ場のない戦場。
「……おもしれぇじゃん」
剣を握る強さがおのずと増す中、そんな呟きが自然とこぼれた。
勝機は一瞬―――全てが不利の戦況で、楽しんでいる自分がいる。そのことに俺は高鳴る高揚が隠せない。
剣を持つ手を右から左に入れ変え、俺は目前の敵と対峙した。
「―――ッ」
先に駆けたのは俺。相手は完全に俺を待ちかまえている。
駆ける途中、蹴った足で器用に落ちていた細剣を空中に放り、それを空いた片手で受け取ると、二刀を携えて巨漢へと走り込んだ。
「死ねやッ!!」
二人の距離が届く距離まで縮まった所で、熊が先手に戦斧を俺に向けて無慈悲に振り下ろされた。
俺はそれを避けず、あえて真正面から―――受け止めた。
「う―――おぉおおおおッ!!」
迫りくる戦斧の側面に向けて打ち付けた剣。金属同士が打ち合う音が轟き、強烈に火花が散った。左腕を持って行かれるような感覚を一瞬味わうと同時、絶えきれなかった剣が半ばから砕け散る。
だが、そのおかげで斧の軌道はずれた。
俺は視野が狭まるのを感じた。まるで自分と相手以外がいないかのごとく、周りのことが一切目に入らない不思議な感覚。
「―――あぁあああああああッ!!」
胸の底から声を張り上げ、俺は全力で左足を踏み切る。
そのまま俺は、細剣を最大速で突きだした。それこそ、回避不可能な速度で―――
―――巨漢の左目を穿つ。
そして、左足を軸に回転しながら一瞬で引き戻した。
「がぁあああああああああああああ!!」
まるで獣の咆哮。左目を刺された大男は瞳を押さえ絶叫する。
「このクソガ―――ッ」
血走った目で、目を開いた瞬間。
―――俺の猛攻は終わらない。
言い終える前に俺は足を踏み込み、開かれた右目を刺し下す。
『―――――――――――――――――――――ッ』
今さっきのものとは比べものにならない絶叫が木霊する。
どんなに筋肉が硬かろうと、鍛えられない場所は弱い―――俺のその予想が見事に証明された瞬間だった。
「クソがッ、クソがッ、クソがぁああああああああ―――ぁ」
彼が言い終えることはなく、勝負はつく。
口から入り込んだ剣は、斜めの軌道を描いて頭を貫く。熊の頭からは、血濡れた剣が突きだしていた。
そのまま俺は、細剣を引いて血を払い、静かに目の前の敵に背を向けた。
「―――ぅ」
一瞬、意識が飛んでいた。気づいた時には、二人の勝負が始まっていた。
ぼやける視界でリリィが見た物は、強大な敵に立ち向かっていくただ一人の少年。
巨人が振り下ろすような巨大な戦斧に向けて、腰から引き抜いた剣に打ち据えた彼。
その一撃で剣は四散。ギリギリ躱しているという状態で、攻撃に打って出るのは不可能。
だが、彼は止まらなかった。
いつの間にか手に持っていたリリィの細剣を構えて踏みだし、扱い成れてる自分でも見惚れるようなフォームで前へと突き出す―――それは巨漢の左目をまんまと突き立てた。
それは刹那の一閃であり、また流れのように。
後退せず、左足を軸足にその場で回転することで剣を引き抜く少年。貫かれた敵は、竜の咆哮のような呻きを上げる。
―――それだけでは、終わらなかった。
再び踏み込んだ足。弓引くように構えた細剣を的確に、そして正確に―――怒り狂う敵の目に向けて二度目の刺し貫く。
何も考えられない一瞬だった。その動きがまるで芸術のように鮮麗され、荒々しい戦場において、一輪の華を咲かせるような光景。
それでも攻撃はやまない。
痛みに暴れ狂う相手の攻撃をかいくぐり、入り込んだ懐から一気に細剣を突き上げる。
まさに、刹那の瞬き。
それは敵の口から入り込み、頭を刺し貫ぬき、それがトドメとなった。
一瞬の静寂―――。
そして彼がゆっくりと刃を引き抜き、華麗に血を払う動作は、思わず背筋から冷気が這うような衝撃が駆け抜ける。
すごい、なんてものじゃない。
自分が知る《剣聖》の振るう剣さえ、殺気立つ荒々しさがある。
なのに、彼の振るう刃には全くといっていいほど荒さがなかった。
それはまるで一連の動作を見せられてるかのように、精練された動き。
「……すごい」
リリィは寒気にも近い湧き上がる興奮を、隠せずにはいられなかった。
最強っていいな、最強ってすごいな。そう思ったときもありました。
最強は書くのが難しい………。戦闘描写とか、ない頭捻って書いてるし……。
めげそうです。




