最終話
「琉生様、花嫁さまのお支度整いました」
「そうか、ご苦労だったなフミ」
「いいえ、まさかこちらのお屋敷から花嫁さまが出立されるなんて、フミも嬉しゅうございました」
「そうだな・・父上母上は?」
「旦那様と奥様は花嫁さまをご覧になった後、一足先に会場へと向かわれましたわ」
季節は春。
早いもので私がこの屋敷へ来て一年になる。
庭の桜は満開に咲き、旅立ちと新しい生活を送るにはもってこいの季節だ。
「清子さん」
名を呼ばれ振り向くとそこには綺麗に支度された花嫁、凪様が椅子に腰掛けていた。
「凪様、そろそろ参りましょう」
私は凪様の手を取るとゆっくりと立ち上がり、そして静かに部屋から出た。琉生様は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに目元を細めた。
「お兄様、本日はこちらのお屋敷から嫁ぐ事を許してくださり感謝しますわ」
「いや、凪にとってこの屋敷が実家だと思ってくれたのなら嬉しい事だ」
琉生様の言葉に凪様は納得がいった顔をした。
「そうね、このお屋敷はとても居心地が良いもの。轟様と何かあればこちらに帰ってくる事にするわね」
「おい!相手は私の上司だぞ!」
琉生様と凪様の会話にホッコリしながらも時間が迫っている事に気付き二人を促した。
凪様の介添人はフミさんがする事になり、二人で車に乗り込んだ。
私と琉生様は後から行く事になっていて、並んで二人を見送った。
「寂しいですか?」
私の問いに一瞬考えこんだ琉生様は、でも直ぐに私の顔を覗き込むと
「もともと凪はこの家で暮らしていないし、皇居でも会えるからな。それよりも清子がいなくなる方が寂しいよ」
「あっ!まっまた琉生様はそんな事を・・」
最近の琉生様は甘い言葉をサラッと言ってくる。
私は熱くなった顔を両手で挟むと後ろを向くと、フワッと琉生様の香りが鼻をくすぐった。
後ろから抱きしめられたのだ。
「る、琉生様?」
「この着物は去年作った物か?とても良く似合っている」
「はい、あの日仕立てて下さった物です。季節的に着られなくて今日やっと袖を通す事が出来ました」
桜色の生地に色とりどりの花が散りばめられた着物。雰囲気が母に似て優しく温かい色。
しばらく二人で桜の花を眺めていると
「そう言えば近いうちに章子様が顔を出すように。と言っていたが・・」
「皇女様がですか!?」
あの時間の後、火ノ川家全員で両陛下と章子皇女殿下に謁見した。
天皇陛下は私の存在を知ってはいたが、すでに浦部から離れていた為に手を出す事が出来なかったと言われた。
私(浦部)の力を知りたがったが、これは知らない方が良いとして話さなかった。
実際に私の力を知っているのは琉生様とフミさん、章子様だけだ。
琉生様の部下三名は変化した私を見たが、力を使った所は見ていないのでカウントされない。
「もしかしたら姉妹になっていたかも知れぬ仲だが、これからは友人として仲良くしてくれ」
「ももも、勿体無いお言葉で御座います!!」
お母様が入内していたら・・の話をされた章子様に琉生様は不機嫌そうな顔をして私の肩を抱き寄せた。
そんな琉生様を見た章子様は高笑いし、
「嫉妬深い男は嫌われるぞ」
と言い放った。
「清子は嫉妬深い男は嫌いか?」
ちょうど章子様の言葉を思い出していた時にタイミング良く琉生様に聞かれた。
私は琉生様の方へ向きを変えると
「琉生様なら嬉しいです。妬いてもらえる立場になれた事がとても嬉しいですから」
私たちは静かに唇を合わせると、桜の花が風に舞い私たちの周りに落ちる。
「さあ行こうか」
「はい、琉生様」
琉生様に手を引かれ、車へと乗り込んだ。
轟様と凪様の結婚式は厳かに進み、お義父様はずっと泣いていた。
披露宴は轟様のお屋敷で開かれ、特攻の方や凪様の職場の人が大勢来ていた。
私は琉生様の許嫁という事で色々な方に紹介された。そう、私と琉生様は章子様の後見で婚約したのだ。
それにはお義父様お義母様も驚いて
「お前、絶対に清子さんを泣かせるなよ」
「あら、そうなったら領地に清子ちゃんを連れて行くから大丈夫よ!」
「その前に章子様が皇宮へ連れて行ってしまうわよ、きっと・・」
と琉生様に詰め寄っていた。
私の力は知られてはいけない力。
使ってもいけない力。
ならば今まで通り、無力な女でいた方が気が楽だ。
でも・・
「本当に良かったのですか?」
「何が?」
「旦那様のように力もあって身分もある。爵位も高いとあれば隣に並びたい令嬢がいると思って・・」
散々言われてきた言葉が思い出される。
「清子には特別な力があるだろう?それだけで良い。あとは私が何とかするし、隣にいるのは清子以外考えたくもないな」
清子は嫌か?
と言われてしまえば嬉しいに決まっている。
「お兄様!清子さん!写真を撮りましょう!」
義妹の凪様が叫んでいる。
「行こうか」
「はい!」
差し出された手に自分の手を重ねる。
ずっと欲しかったこの温もりだけは絶対に手放せない。
この先何が起こっても・・絶対に。
完
何とか完結まで行けました。
思っていた話と違ったかも知れませんが、読んで頂けた事に感謝いたします!!




