姉妹
マナーハウスに戻るとさすがに深夜近くになっていた、エドたちも食事を諦めて酒神ディオ様への儀式だけで就寝したようだ。
偽フローラ・エミーはまだ寝るわけにはいかない、マナーハウスの本館の明かりが消えたのを確認して本物フローラの元を訪れた。
「随分遅かったのね、大丈夫なの」
「隣領のフィーゴ子爵っていうのに先日から絡まれている、魔獣騒動の先兵ね」
「父上は昔から嫌っていたわ、絶対に近づくなって言われていた」
「正解ね、あれも相当な変態だわ」
「まあ、そっちの事は概ね予想どおり、今の向こうの戦力なら私たちで対応可能だと思う、やっぱり魔猿熊ヤーグルの方が危険だわ、早く何とかしないとまた被害者が出かねない」
「生物兵器というのは本当なの」
「おそらく・・・相当頭が良いわね、岩人のアオギリさんたちの話からも独自に灰色熊を殺したのは間違いなさそうだし、相当ヤバイわね」
「公爵が森に悪魔を放ったのね・・・そしてお父様を殺した!」
「皇太子はいい仕事をいてくれている、彼のチームの実力は本物だわ」
「ふーん、そうなんだ」
少しふくれた様に横を向いて唇を尖らせた。
「なによ、何か引っかかる言い方ね」
「別にぃ・・・最近やけに皇太子を持ち上げるじゃない、なんか狙いがあるのかと思って」
「嘘は言っていないわ、あれ・・・ひょっとしてフローラ、貴方・・・妬いているの?」
「はあぁ!?なんでそうなるのよ、冗談はやめてよ!」
一瞬で感情が沸騰する、それは嘘ではないがその拒絶感は薄らいでいる。
皇太子エドとのやり取りは事細かに報告していた、感覚の違いで自分の言葉がどこまで伝わっているかは分からない。
エミーはエドに肩入れしているのは確かだ、あいつは良い奴だ。
自分のフィルターを通さずに早く本物同士で会わせる必要がある、幾ら上手く演技しても偽物は本物にはなれない、中間に不純物がいつまでも居るべきではない、がフローラの体調はまだ全快には遠い。
「ごめん、変な意味じゃない・・・でも、分かってあげて、皇太子は貴方の事を真剣に考えている、彼だけにでも打ち明けた方がいいと思う」
「うん、考えてみるけど、でも・・・皇太子が良い奴なら余計にどんどん流されてしまいそうで怖いの、ただの領民のなら素直に受け入れられたけど皇太子と一緒になるということは国母になるということなのよ、私が国母?絶対無理よ」
「贅沢できるかもよ」
「なんの魅力も感じないわ」
「そうだろうな、その価値観も皇太子が貴方を好きな理由のひとつだと思う」
「そんな大した女じゃない、ただお父様とお母さまの領地を守って静かに暮らしていければいいの、そんな荷物を背負いたくない」
領内の命や暮らしを軽く考える薄情さがあればバロネスの仕事も楽だったろう、しかし情や責任感が厚ければその荷物も重くなる、まして国母ともなればその荷物は計り知れないものとなるだろう。
良い人であろうすればより重い荷物を背負うことになる、背負いすぎれば潰れてしまう、全てを駄目にする、それは無責任で最悪な行為だ。
「それも含めてエドに打ち明けるべきよ、いつまでも逃げられないわ」
「だって・・・」
両手で顔を覆った、不安がフローラに覆いかぶさり圧し潰そうとする。
エミーはベッドの端に腰掛けるとフローラの手を取って首筋に当てる。
「私は焦りやプレッシャーを感じることは出来ない、でも辛さや悲しさは感じる、そんな時はいつもこうするの、首に当てた指から自分の心音を聞いてみる、自分がここにあることを感じられる」
フローラの指に早くなっている自分の鼓動が伝わる。
「ゆっくり呼吸をして、辛さが和らぐなんで言わない、でも視界を狭く曇らせないで、見える筈のものまで見えなくなる」
「貴方にとって何が最善の選択なのか目を逸らさないで、私も考えるから」
「貴方が姉妹なら良かったのに」
「姉妹?兄弟でしょ」
「ううん、お姉ちゃんがいい、ああ、どうしよう、依存しちゃってる・・・」
「皇太子じゃなくても貴方を愛し、貴方が愛せる人が必ず現れる、その人と歩む人生が貴方の幸せになると思う」
「エミーにはそんな人がいるの?」
「私?恋愛と違うけど大事な人はいる、いつか真面な自分になれたら”ありがとう”を伝えに行きたい、それが望み」
「お父さんね、どんな人なの」
「大きくて髭もじゃで厳しい人、でも優しい、自分のためには怒らない、私のために真剣に叱って正してくれた人、あの人が居なければ今頃私は単なる人殺しか男娼にしかなっていない」
双子のような二人は互いに頭を預け合い手を握る。
「恋愛は?誰かを好きになった事はないの?」
「ないわ、今こうして普通に話しているのは、貴方という人格を演技しているから、それを取り払ったエミリアンという人間は無機質で冷たく性別も分からない薄気味悪い人間、近寄りたいと思う人は少ない」
「本当にこの優しさは演技なの?きっと私はこんな風には誰かを支えるなんて出来ない」
「そんなことない、戸惑うのは貴方が人の為にと尽くしてばかりいたから、支えてもらうことに免疫がないのだと思う、今は甘えていい」
「お姉ちゃんになら許されるよね」
「いいよ、姉妹だね」
「分かった、皇太子に打ち明けよう」
「もちろん私も一緒にいる、大丈夫、エドならきっと分かってくれる」
「お姉ちゃんか・・・ところでエミーは何歳なの?」
「あ・・・うん、まあ、そうね」
「ええ?まさか年下じゃないよね!?」
「たぶん・・・」
「!?」
「今日は遅いから私もここで寝ちゃうね、お休みフローラ」
「まっ、まさか妹なの・・・」
疲れて眠るエミーの隣でフローラは暫く眠れなかった。




