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第79話

 怒涛の展開!……になりそうです。

 オレを待っていたのは意外にも若い男だった。


 元の世界なら大学生になりたてくらい、と言えば一番近いんじゃないかな。淡い金髪に空の青さを持つ瞳、背は高からず低からず、剣を持つより本を手にする方が似合っている、文官タイプの人間だった。


 両方の身長を足して更に2倍にしたくらいの距離でオレとその男は向かい合った。


「どちら様かな?」

 オレは少なくとも会った事がない。親しく挨拶されるような付き合いなどさらさらない。だのに、相手のこの態度。胡散臭いとしか言いようがないな。


 オレの問い掛けに、相手は困ったように笑った。


「あ~っと、多分初対面だと思うよ、キミとボクはね。でもさ、きっと分かり合えると思うんだよね~。ボクの直感がそう言ってるからさ」


「直感、ねぇ」


「そう! どう生きるか何をするべきか、人生において二者択一の選択を迫られるのって、結構あるよね? そんな時こそ直感は最高の決め手になるんだ!」


「あんたにとってはそうなんだろうな」


「そうなんだよ! 思った通りだ、キミはボクの事分かるんだね! うれしいよ、何せボクの周りはわからずやの年寄りが多くってさ、やること為す事すべてに文句をつけてくるんだ。まったく嫌になってくるよ。キミはそんな連中と縁を切りたいとは思わないかい?」


 第一印象は好青年。でも、瞳の奥にあるほの暗い闇がオレは気になった。にこやかな笑顔の奥で何を考えているのか分からない、そんな落ち着かない気配。


(キュルル~~)

 オーリィもいい印象を持てなかったようだ。警戒感が一段と跳ね上がる。


「ところであんたはだれだ?」

「ああいっけない。おしゃべりに夢中で自己紹介もしてなかったね。ボクはタケル・マティス、ガルマン帝国で魔道具を作成してるんだ。一応筆頭チーフをまかされてるよ」


 こいつか、あの杖を造ったのは。


「光の大神官サマ、だったっけ、あの男が使ってた杖を造ったのはボクなんだよ。どう、驚いた?」


「……」


「あれ、あんまり驚いてないねぇ。てことは、だ。キミもあの場に居たって事かな? ん?」


「あの場、とは?」


「隠さなくってもいいじゃないか。王を僭称(せんしょう)したあいつが暴走した場面だよ。正直、あの杖が壊されるとは思わなくってさ。あれ、結構時間かかったんだよ、造るのに」


「……」


「どうやって壊したのか聞きたくってね、こうして待っていたんだよ。ねえ、何やったのさキミ?」


「知らないな」


「知らないって、キミ以外に誰がいるのさ。あの杖を壊すのは普通の魔法じゃダメなことくらい、分かってるんだからね。多分、古代魔法だと見当はついてるんだ」


「分かってるならいいじゃないか、それで」


「冗談じゃない。古代魔法を操れるくらいの魔力を持ってる奴があそこにいたってのかい、キミ以外に? それこそ嘘だろう」


「魔力ならオレ以外にもいるだろうが」


「リッチロードの事かい? でもあの場にはいなかっただろ? それとも……本当は居た、のか?」

「あんたの情報は中途半端だよ。それじゃ正確な判断は難しいな」


 こいつは危険人物だ。

 オレの中で赤信号が点滅する。


 あの広間の様子をこいつは知っている。でも、誰が魔法を発動したのかまでは分かっていない。じいさんが居たことも知らないなら、『陰伏(ハイド)』を見破れない何か、もしくは誰かがあの広間に居たことを表している。その状態で古代魔法を知っているとは……やはり、そうなんだろう。


「それで、あんたがここに居た理由はなくなったな。悪いが通らせてもらうよ。今日中にベイレスト共和国まで行きたいんだ」


 停めていた足をゆっくりと動かして近づく。果たして通すか、どうか。

 案の定、引き留めに来た。


「いや、待った待った。古代魔法のことを知りたかったのは事実だけど、本命は別でね。


 キミ、ガルマン帝国に来ないかい? キミくらいの能力があるんなら、帝国はもろ手を挙げて迎える準備が出来てるよ。今、キミにいろんなところから勧誘が来てるだろ? 鬱陶しくないかい? 


 帝国に来たらそういう煩わしいところとはすっぱり縁を切れるからさ、楽になると思うよ~」


「それは本気で言ってるのか? オレには信じられんな」


 口調は友好的だが、瞳がそれを裏切っていた。気になっていたほの暗い闇が大きくなり、嫉妬とねたみ、憤懣が見え隠れしている。

 オレに向けて、ではないが、いつ向けてきてもおかしくない危うさがあった。


「へ~ぇ。キミ、意外と鋭いね。ボクの口調に騙されないなんて、滅多にいないんだけどな」

「オレの生まれは良くないからな、あんたと違って」


「……それはどういう意味かな、『英雄』さん」


「そのまんまだよ、ガルマン帝国魔術師部隊の元局長殿の末裔だろ、あんた?」

「!……キミ、どこでその情報を知ったんだい?」

「さてね」


 杖を『鑑定』した時からずっと引っ掛かっていた違和感がこれだった。獣人国で話を取りまとめ、再度『(ぬえ)の里』を訪れて話しているうちに気づいたんだ。『合成(シンセサス)』を推し進めた当時の魔術師部隊の局長がマティスという名前だったことに。



 『ワシらが逃げ出してからの事は良く判らん。だが、副局長のランドゥールが

 マティス局長を嫌っておったからのう、没落してもおかしくはないじゃろ。


 もっとも、マティス家は昔から帝国を支える侯爵の位を持っとるから、

 ランドゥールの一存ではどうにもできんかった可能性も否定できんがな』


 『そう言えばマティス局長、あの拓本を引き写していたっけねぇ。相当

 難しいらしくって、何回か癇癪起こして局長室で暴れていたのを覚えて

 るよ。あの写した紙、どうなったのかねぇ』



 ふたりが教えてくれた情報が耳に蘇る。


 そこから先はオレの推測だが、皇帝崩御の際の騒動に紛れて長老とおばば様に連れられた人たちが逃げ出し、マティス局長はその責任を取らされた。


 蟄居か、辺境への鞍替えか分からないが、ある期間は冷遇されていたんだろう。それが帝国の状況変化と共にまた中央へと返り咲いた。そんなところかな。


「キミ、案外食わせ者だったんだね。そんなカビの生えた昔の事をよく覚えていたもんだ」

「そうだな、オレもそう思うよ」


 長老やおばば様にとっては昨日のことのように思い出せる出来事も、年月と共に擦り切れていくのは避けられない。でも、その中に含まれる情報には時として見逃しちゃいけないものがあるのも事実だ。


「あんたは写しを解読したんだな、ご苦労なことだ。スキルでもあったのか?」

「……」


 古代文字の解読は相当な難物だ。オレの場合はINT(知性)がぶち抜けているから分かるだけで、普通なら読む事すら出来ないはずだ。

 ガル爺さんだって読み切れていなかったんだから。


「ボクが解読したって? どこからそんな妄想を」

「あの杖を造ったのはあんただと自分で言ったじゃないか。忘れたか?」


「……」


「あんたが古代魔法をどう使おうと自由さ。けれど、オレに絡んでくるのなら振り払わせてもらう。そこまでお人よしじゃない」


「…………」


 さて、ここまで来たらどう出るか。


 こいつの雰囲気が変わって来てるのがおっそろしいな。周りの6個の人影が何やら陣を造っているのも気にかかる。オレの自由を奪おうってんなら、全力で反抗してやる。


 そこから沈黙が続いた。草原を吹き抜ける風の音が響く。

 やがて、目の前の男から漏れた言葉は。


「そっか。仲間にできるんなら好都合と思ったけど、キミは想像以上に頭の回る奴だったんだな。あっちから召喚されてきたんだからうまく丸め込めると思ったんだけど、当てが外れたよ。


  キミはボクの邪魔にしかならない」


「あんたの世界は狭いんだな。味方か敵か、それしかないのか? いい生まれなのに?」


「うるっさい! 何にも知らないで偉そうなことを! ボクが余分な知識を持っていたためにどれだけいじめられて疎まれたか知らないくせにっ!」

「と、いう事は。あんた、転生者か?」


「!! 何故、分かった!?」

「名前だな。それ、元の世界のあんたのか?」


「……そうさ。ボクは若くして死んだ。気づいたらこの世界に居た。

 前よりずっと劣った文明で、古臭い価値観で動く人間ばかりで。


 蔵書室がボクの息抜きだったんだ。そしたら、その中から出てきた薄い紙が古代魔法で……ボクには読めたんだ! けど、魔力が足りなくて、だから、だから」


 言いながら右手を上げる。オレを囲んで伏せていた人間が一斉に立ち上がった。


 彼らの前にある魔法陣、それは自分の魔力を目の前の青年に集めるものだった。


「キミはいろいろ知ってるようだけど、これは知らないだろう? 蔵書の中にはもう一つ古代魔法があったんだ。『虚空(ヴォイド)』の下位魔法がボクは使えるんだよ! 

今からキミに使ってやる! そしてボクの世界から消えてなくなれ!

   『空間転送(トランスファー)』!!」


 歪んだ笑みを浮かべて青年が叫ぶ。その前に浮かんだ魔法陣が『空間転送(トランスファー)』だろう。魔法の対象物を、その周りの空間ごと固定して任意の場所に放り出す仕様のようだ。


 って、悠長なこと言ってられないな! 今回その終着点は……空の上、だってぇ!?

 こいつ、オレを宇宙空間に追放する気かっ!?


 魔法が発動して、オレの周りをがっちり固定する。くっ、このぉっ!


「アッハハハハハ! 『英雄』さんもざまぁないな! そのままじっとしてろよ、快適な空の旅へ出発だぁぁっ!」


 狂気の混じった馬鹿笑いを聞きながらオレは発動する魔法に巻き込まれた。遠くなる意識を何とか繋ぎ止めようと必死に足掻くも、だんだんぼやけてくる。


「キュイキュイキュイキュリリリリ~~~!!」


 オーリィのけたたましい啼き声を聴きながら、オレは何もわからなくなった。





 いつも読んでくださって、ありがとうございます。


『再会と別離』編はこれで終わりです。

次からは書き溜めていた閑話をいくつか。

その間に新しい展開のプロットを書き上げます!……多分。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 覚醒前には散々死にそうな目にあってた癖に、警戒心を引き上げた相手に対して何の防護策も取らずに先制攻撃食らうとかアホの極み過ぎる(呆れ) 強くなり過ぎて慢心でもしてたか?この前のイキり勇…
[気になる点] いや、突然奇襲されたわけでもなく待ち伏せされてるのわかっててさ、その相手が黒幕なのに警戒してなさすぎですよね? 負ける要素ないし警戒も充分に出来てて初手攻撃食らうのは違和感と冷める。…
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