第78話
懐かしい人が出てきます。
最終的にこの騒ぎは将軍の部下の3人が庭に飛び込んできて終了となった。その頃にはルゥも変な興奮状態から自分を取り戻していて、顔を赤くして謝ってきた。きたんだが……
「結婚して、ていうのは取り消さないよ。アタシ諦めないからね!」
濃紺の瞳をキラキラさせながら宣言してきた。うわぁ、本気だよこの子。
とにかく少し落ち着いてからまた話そう、と、お茶を濁すくらいしかできなかったオレ、ヘタレだなぁと自分でも思うよ。
あの後、ブリックルダンジョンへ逃げ込み、ガル爺さんにぶっちゃけたら。
「ほうほう、お前さん、それでよく逃げられたもんじゃのう。あの家系の女性は一度こうと決めたら絶対に諦めんぞい。お前さんも覚悟するんじゃな」
爺さん、その口ぶりだと初代になんかやられたな?
何にしても冷却期間を置こうと、誰にも言わずにあの国を離れているんだが……。なんか、意識の端に引っ掛かるんだよな。誰かが俺の事見張ってる、みたいな。
敵意は感じない。いや、むしろ好意らしきものがちらちらしてる。
それに、この感じは前にもあったものだ。オレは立ち止まり、辺りを見まわした。
「なあ、そこら辺に居るんだろう? 俺に用事でもあるのか?」
し~ん、とした沈黙が痛いな。オレが馬鹿みたいだ。
「あれ、違うのか? ずっとつけて来てただろ、オレの後を。言いたいことがあるなら聞くだけは出来るんだが。なあ、聖獣殿?」
そう呼び掛けると、空気が震えた。驚きが伝わってくる。
やがて、おずおずと言った風に茂みから現れてきたのは。
「犬、いや、ウルフ、かな? 毛並みが乱れてるけど、どっか具合でも悪いのか?」
ところどころ毛がはげかけているのが痛々しい。思わず近寄って手をかざす。『ヒール』を発動させて全身にくまなく当ててやったら、つやつやの毛並みが戻ってきた。
うん、これで良いな。と思ったが。
「……お前、なんか変な枷がかかってるな。それ苦しくないか?」
頭の上から咽喉を一周するように黒い蔦がかかっている。その蔦が手足に絡みつき、自由を奪っているようにも見えた。今の『ヒール』で少し薄れたようだが、そのまがまがしい絡み方にオレの方が気分が悪くなってくる。
『…………』
「ん? なんて言ったんだ?」
『……したい、けど、むり……』
「外したいけど無理、てか? いやぁ、そうでもないぞ? ん~、ここをこうして、あそこをこうすれば……」
『…?……!』
「ほら、こうすればどうだ。えい、うっとうしいなこの蔦は。『破邪』!」
ゲイザーと同じかと『破邪』を掛けたら、蔦はボロボロになって消えていった。やっぱりな、あれって『呪縛』に近いものだったんだ。てことは闇魔法かな?
『……解けた…消えちゃった…』
「変なところにでも入っちまったのか? 楽になってよかったな」
『自由に……なった……』
「誰かに仕えてたのか? あんな縛りをかける相手なんて碌なもんじゃないぞ。止めとけやめとけ、せっかく自由になったんだ。走り回って来いよ」
『走り回る……うん…走ってくる』
そしてオレの顔を見上げ、
『注意して…アナタの事、狙ってる…この先で』
「ん、分かった。ありがとうな、教えてくれて」
『!…なぜお礼を、言うの?……』
「あんたの立場で教えるのは難しい事だろ? でも、言ってくれたんだから、ありがとう、だな」
『!……分かった…外してくれて、ありがとう…』
「これで貸し借り無しのチャラだ。また捕まらないようにしろよ、じゃあな」
『……また来てもいい?……』
「見つかるならいつでもいいぞ。そっちも気を付けてな」
『……ん……』
もう一度見上げ、そして……翼を広げて飛び去って行った。
「うは~っ、あいつ飛べたんだ。スゲェなぁ」
「キュイッ!」
「いてててっ。こら、急に現れてなにすんだ」
ぼーっと空を見上げていたら、肩に出てきたオーリィが耳にかみついた。
何やら怒っているのだが、オレにはその理由が良く判らない。そう言えば、サーラが傍に来た時も怒ってたなこいつ。
「何してるんだよ。聖獣が来るたびに怒ってたら気が減るぞ。オレはなぜかあいつらに好かれるらしいからな」
「キュイキュイ!」
「違うのか? う~ん、お前の言葉、オレにはわからないからな~、爺さんにコツでも聞いておくんだったか」
「キュルキュルル~」
「今のは分かったぞ。お手上げだって言ったんだろ? 鈍感で悪かったな!」
「キュッ!」
肩のアーミンと言い合いながら街道を進む。
優しい風に草原の草が揺れてなびき、陽射しが差し込んできらきらと輝く。旅をするには絶好だと思うんだが、さっきから誰とも行き会わない。
正確に言うと、ベイレスト共和国の方角から人が来ないんだ。どこかで街道の封鎖でもしているんだろうか。
そう考えていると、前方に砂埃が見えた。つむじ風と思ったら、その中にある人影に覚えがあった。
手をあげて合図すると、向こうからも手が上がる。徐々に砂埃が落ち着き、顔がはっきり見えるようになった。
「マイルズ、久しぶり!」
「おう、ケインじゃないか。元気そうだな!」
「そっちこそ。今日は新生エリシオ教国へ向かうのか?」
砂埃の主はかつて知り合ったマイルズだった。
「ああ、この間の建国騒ぎで酔っ払いがたくさん出ちまったんで、ちょっと早いが薬の材料を持ってきてほしいって依頼が入ったんだ。本当ならまだふた月はあとなんだがな」
凄い騒ぎだったんだろな、とマイルズは豪快に笑った。だが、その後に顔をしかめて、
「けど、この街道、ちと剣呑だぜ。この先の森にかかる手前で、なんかやってる連中がいる。どうも誰かを待ち伏せしてるみてぇだが……ケインも気をつけろよ。ありゃあ、どっかの工作員だ。顔つきが物騒でよ、俺ぁ、大きく回り道してきたんだ」
この人のLUK(幸運)は相変わらずいい仕事をしているようだ。危険を避ける能力、本当に高いからな、マイルズは。
「へえ、そうなのか。道理で誰とも行き会わないと思ってたんだ」
「封鎖してるわけじゃねぇけどな。あんな雰囲気の連中とやりあいたくないのは商人なら当然だな」
じゃあな、注意しろよ、と声を残し、マイルズは再び走り出していった。
「そいつら、オレを待ってるのかな」
「キュ!」
「さっきの聖獣が言ってたのもそれなんだろうな。まったくなんだってんだ、急に騒がしくなってきたなぁ」
「キュ~」
オーリィと言葉を交わしながら歩いていく。確かに前方で不穏な気配がする。『索敵』でも6個、いや、7個の敵性反応が出た。
6個は街道の両脇に散り、オレを取り囲むように位置取りしている。残る1個が道の真ん中に立っている、のか?
「ずいぶんとまた自己主張の激しい奴だな」
「キュルキュル」
「あんまりお近づきになりたくない雰囲気なんだが、さて。オーリィは隠れてた方がいいぞ。お前を見て変な方向に暴走しかねんからな」
「キュ~~」
もっともだと思ったのか、すぐさま顔を引っ込める。こういうところの判断は実に速いんだあいつは。
オーリィが見えなくなったのを確認して、オレはまた歩き始めた。
ったく、こんなに気持ちいい草原を歩いているってのに、心が弾まないのは紛れもなく前方の気配の所為だな。見ろ、魔獣だって恐れて近寄ってこないじゃないか。あんなにヤル気満々な奴、知らないぞ。
やがて、うっすらと右手に森の影が見えてきた。と同時に、6個の点がゆっくりと近づいてくる。
(『バリア』)
こっそりと障壁を張っておいた。こういう輩は何をしてくるか分からんからな。先回りに手を打っておいた方がよさそうだ。
そうこうするうちに、道の真ん中に立つ人影が視認できるようになった。近づいていくと、
「やあ、『英雄』さん。キミに会えて光栄だよ」
嫌味ともとれる笑顔を張り付けた男性が片手をあげていた。
読んでくださってありがとうございます。
何やら不穏な勢力が来ちゃいました。
さて、ケインの答えは……?




