転生少女の華麗なる日々とその結末
番外編。これでラスト。
気が付いたら、そこにいた。
今まで日本にいたはずの、あたし。
今まで下町で母と暮らしていた、あたし。
母が亡くなって呆然としている中、辺境伯の使者を名乗る人間に馬車で連れて行かれた。
その招かれたお城を見たときに、2つの意識が重なった。
訳が分からないと思う一方で、その風景は知っていた。
大好きな乙女ゲームの最初のシーン。
「ここはゲームの中なの・・・?」
そう考えて、腑に落ちた。
今までの境遇、国の名前、隠された辺境伯の一人娘・・・
そして何よりも自分の名前。
何故今まで気付かなかったのだろう。
あたしは主人公でヒロイン。ミレイ・テネシーだ。
=======================
城に着いてから、あたしの生活は一変した。
その日のご飯も困るような生活から、何不自由ない衣食住と教育。
お金も余るほど与えられた。
ここでは贅沢がしたいだけ出来る。
勉強に貴族のマナー講習なんてとても面倒だったけど、1年後に控えるイベントのために努力した。
そうだ。来年になれば、王子様たちと会えるのだ。
夢にまで見た殿下たちとの学園生活。
もはや夢ではなく、現実。
それに勉強は前世にくらべると簡単だった。
もう15歳になるのに、今さら四則演算とか拍子抜けだ。
そうなるとマナーがネックだったんだけど、日々上達するのが自分でも分かる。
魔法だって、簡単にできた。
今まで使ったことなんてなかったし、自分に魔力があるなんて知らなかった。
だけど、あたしは「ミレイ」なんだから・・・って考えたらそこからは早かった。
攻撃魔法には適性が無くて、回復魔法しか使えないけど、これもゲーム通り。
本当に順調だ。
今世の父も優しいし、とてもいい世界だと思う。
=======================
学園への入学まであと半月。
そんなときに父に呼び出された。
普段は気軽に部屋に来るのに、改まって話がしたいらしい。
何だろう?
「父様、何か御用ですか?」
この一年ですっかり板についた貴族令嬢としての振る舞い。
侍女長のお墨付きももらっている。
思い返せば、今世の母からも所々でマナーを習っていた気がする。
懐かしい気もするが、もう惨めな貧乏暮らしは嫌だ。
「ミレイ。大事な話がある。」
「大事な話・・・ですか?」
「ああ・・・今のこの国の現状は知っているかい?」
「・・・現状ですか?」
うーん、よく分からない。
ゲームでは、治安は良いって話はあったけど、詳しい話は無かった。
この国の国王は優柔不断だから、フォード殿下がそれを支えたいなんて話は出てきたけど・・・。
少なくとも、悪い状況ではないと思う。
「・・・特段、悪いところは無いと思うんですが・・・。」
「ああ、そうだ。・・・今はな。」
「今は・・・と言いますと、不安なことがあるのですか?」
「・・・時に王子のご兄弟についてどう思う?」
「殿下たちですか?兄君のハーパー殿下はあまり存じ上げませんが、色々聞く限りフォード殿下はとても頼りになる方だと思います。」
ゲームだと、攻略対象のフォード殿下は、正規ルートということもあって設定も充実している。
逆に、既に学園を卒業しているハーパー殿下についての情報は少ない。
一応、そのハーパー殿下が国を継ぐことが示唆されていたが、彼は絵すら用意されていなかったはずだ。
この辺境伯領でも、気になってフォード殿下始め攻略対象者の評判を聞いてみたりもしたが、概ねゲーム通りだった。
「おお!お前もそう思うか。・・・実はそのフォード殿下の周囲に良からぬ噂があってな。」
「良からぬ噂・・・ですか?」
「ああ、何やら兄君であるハーパー殿下や、フォード殿下の婚約者を始めとした周囲が、フォード殿下を軽んじているという話があるのだ。全く、嘆かわしいことだ。」
「まあ!フォード殿下に対してそのようなことを!?」
それは許せない!
それにしても、やっぱり悪役令嬢っているんだ。
ゲームでも、フォード殿下婚約者のリースはとても口うるさいキャラだったと記憶している。
「・・・実は、私はお前こそがフォード殿下の隣に相応しいと考えている。」
「・・・それは危険な考えですわ。」
口では言うが、頼まれずともそのつもりである。
ゲームはかなりやり込んでいたから、どう動けば正解かなんて当然覚えている。
「・・・それで先ほどのこの国の現状と繋がるのだがな。現王やハーパー殿下は優柔不断なお方だ。・・・私はフォード殿下こそこの国の王に相応しいと考えているのだ。」
「・・・なるほど。」
「それに、お前も実家がこんな辺境ではなく、王都の方がいいだろう。」
「・・・・・・。」
ゲームでは、フォード殿下が王になるなんて言う話は全く出てこなかった。
それを破るのは・・・。
でも、あたしには前世の知識があるし、フォード殿下の周囲には優秀な大貴族の子息がいたはずだ。
王妃になって内政チートもできるかもしれないし。
それに、確かにフォード殿下が王になってあたしが王妃になれば、実家は帝国に隣接する領地から、もっと都会の方に移れるかもしれない。
兄君のハーパー殿下は知らないが、王はゲームでも優柔不断と言われていたし、子もそうである可能性が高い。
あたしの知識と、フォード殿下たちがいれば大丈夫かもしれない。
「・・・それに今回は帝国も力を貸す約束をしてくれた。」
「帝国ですか?・・・確かに助けは多い方がいいですが・・・。」
帝国なんて、ゲームでは名前くらいしか出なかったけど、味方になってくれる分には頼もしいはず。
「分かりましたわ。あたしもフォード殿下をお慕いしています。・・・必ず未来の王妃になることを約束致します。」
「ああ!お前には美貌も知識も魔法もある。成功すると信じているよ。」
「お任せください!」
ゲーム通りなら、フォード殿下と結婚するのは容易いはず。
殿下が王になるかは正直分からないけど、あたしには前世の知識もあるし、この国を発展させられると思うから絶対にその方がいい。
・・・もしこれで悪役令嬢も転生者だったら難しいけど・・・、それでも1年とはいえ贅沢をさせてくれた父様に報いるためにも頑張ろう。
=======================
学園に入学して1か月。
既にフォード殿下たちと仲良くなって、一緒に行動している。
やっぱりイケメンに囲まれるのは至福。
一人クレイグ様とは一度話しただけであまり関わりはないけど、あの人は一番難易度が高かったから、ゆっくりやろう。
難易度が高い分、高スペックで、顔面偏差値も殿下並みに高いし。
・・・そういえば、クレイグ様のこと、前世ではクー君て呼んでたな。
ツンとデレの落差が激しくて、そのギャップが素晴らしかった気がする。
ちなみに転生者らしき人はあたしの他にいなかった。
これで安心して行動できる。
=======================
「・・・あ?」
クー君が放つ怒気にあたしはとても驚いた。
学園に入学して半年。
ちょっと失敗した。
ゲーム通りのイベントのはずなのに、クー君の態度がまるで違った。
おかしいな。
確かクー君はあまり家族仲や婚約者との仲が良くないはずなのに。
彼の婚約者のアリアと抱き合っているし・・・。
せっかくのイケメンが、あたし以外に好意を向ける・・・。
何か、腹が立つ・・・。
=======================
入学してもう2年。
最近は殿下からあたしと婚約をしたいと言われ、気分は最高である。
王位のことを話すと、渋ってはいるけど、満更ではないみたい。
やっぱり父である現王や兄君は少し頼りないらしく、自分が王位に立つことで国がもっと良くなるって考えていた。
やっぱりフォード殿下は格好いいし頼りになる!
あたしの力も期待されているし、頑張らないと。
だけど、また失敗した。
実家に呼び出されたクー君と学園でばったり会って、2人っきりで話すイベント。
・・・そのはずがきっぱり拒絶されてしまった。
どこで間違ったんだろう。
まさか、既にクー君がアリアに手を出しかけたって・・・。
別にクー君やアリアは転生者ってわけでもないから、何があったんだろう?
・・・・・・悔しいけど、クー君は諦めよう。
前向きに考えれば、もう殿下の愛はあたしのものだし、他の優秀なイケメンたちもあたしのものだ。
前世では考えられなったこと。
逆ハー最高!
さすが主人公!
・・・でもあのイケメンを諦めるのはやっぱり惜しい・・・。
はぁ・・・・・・。
=======================
入学して2年半。
卒業は半年後。
あたしは今とても幸せだ。
殿下は既に現婚約者リースとの婚約破棄とあたしの婚約に動いてくれてるし、生徒会のみんなはあたしのことを考えて動いてくれる。
それに殿下が王位を継ぐのを前向きになってきたみたいで、最近は前世の商品とか、農業、工業の知識を伝えている。
内政チートも余裕なはず!
・・・でも気がかりはある。
結局、クー君は落とせなかったし、ゲームではあったリースの嫌がらせも全くない。
クー君は半分諦めているけど、あたしたちが国王夫妻になれば力を貸してくれるはずだ。
リースも、会う度に口うるさく文句を言うけど、実害はない。
ゲームだと、普通に嫌がらせがあったんだけど・・・。
きちんと追い落とすためには、卒業式の場で嫌がらせの証拠――彼女の腕輪――を突き付ける必要がある。
これは自作自演も考えている。
少し挑発気味に何かを言っても、ぐちぐち言われるだけで埒が明かない。
最近よく会う帝国の諜報員は、腕が優秀みたいだし、盗んできてもらうのも考えようかな。
殿下には言えないけど、あたしのために働いてくれているだから使ってあげないと。
=======================
・・・そして卒業式当日。
あたしは全てを失った。
嫌がらせの自作自演。
殿下の王位獲得への唆し。
帝国との繋がり。
父である辺境伯の王国裏切り。
・・・おそらく、死罪相当。
冷静になって罪を顧みれば、そのくらいはあたしでも分かる。
父は既に死罪が決定したと聞いた。
帝国とも、今回の件でかなり関係が悪化したと聞いた。
・・・それが一部あたしのせいであるとも聞いた。
「どこで間違ったんだろう・・・。」
思えばクー君を落とせなかったのが、失敗の大きな要因だ。
卒業式だって、あたしたちの暴発を待ってたみたいだし、帝国との繋がりはクー君の父――騎士団長によって発覚したみたいだし・・・。
「フォード殿下・・・。」
殿下たちにも申し訳ないことをした。
あたしが余計なことを言わなければ、ゲーム通り公爵家を名乗っていれたはずなのに・・・。
殿下たちの刑は分からないが、まともに出世は望めない。
ゲーム通りだと踊って、調子に乗って、気が付いたら牢の中。
もう、どうでもいいな・・・。
でも・・・。
「死ぬ前にもう一度会いたいな・・・。」
「会わせてやろうか?」
「えっ?」
独り言に返事が返ってきた。
この声は・・・?
「条件次第で、貴様とフォードの命だけは助けてやる。」
「ハーパー殿下!?」
ハーパー殿下がなぜこんなところに・・・?
「貴様やフォードの部屋を調べていてな。今までにない発想の技術について書かれた紙が出てきた。帝国の
ものではないようだし、フォードにそんな能はない。・・・貴様が考えたのか?」
「・・・はい。」
確かに、将来内政チートをすると張り切って、少しまとめていた。
「その貴様の頭の中にある技術を全て出せ。詳細にだ。・・・そうすれば、貴様とフォードだけは、片田舎に監視付きで生かしておいてやる。・・・自由など無いし、その名前も名乗ることも許さんがな。」
「ほ、他のみんなは・・・。」
「残念ながら死罪だ。テネシー辺境伯家は取り潰し。辺境伯は死罪。貴様の取り巻き達も死罪だ。」
「そ、そんな・・・。」
「自分の犯した罪の重さを自覚するがいい。」
「あっ・・・あっ・・・・・・。」
改めて、絶望した。
涙が出てくる。
「ハーパー殿下はとてもお怒りだ。」
するとそれまで後ろに控えていた黒い騎士・・・確かクー君の兄、ワイル様が発言した。
「お前は報告にある通り、頭がいい。どこで学んだか知らんが、知識や技術もあるようだ。・・・なぜそれを国を乱すのに使う?・・・フォード殿下を惑わさなくとも、お前ならいくらでもやりようがあったはずだろう。だからハーパー殿下は怒っているし、」
「そこまでだワイル。」
「はっ、出過ぎた真似をしました。」
「・・・まぁ、聞いたとおりだ。本来は死罪。それでも貴様の頭の中欲しさに生かしておくのだから、今後は精々国に貢献してくれ。」
「・・・・はぃ・・・。」
こうして、あたしは命だけは助かった。
その後人里離れた土地で、監視を受けながら、フォード殿下と暮らしている。
殿下は畑仕事、あたしは前世の知識の書き起こし。
結果だけみれば、殿下と2人きりと言える。
でも、今が幸せというと、そんなことはない。
あたしのせいで多くの人が罪に問われたし、未だにその意識に苛まれている。
きっと死ぬまで悩まされるだろう。
・・・これが、あたしの結末である。
ハーパー殿下激おこ。普段は優しいです。
そして逆ハー少女が生かされた裏には、どこぞの人材マニア三男坊の影が・・・
読んで頂いてありがとうございます。
ご指摘受けて多少手直し。
誤字とか、侯爵=辺境伯>伯爵とか。
適当で申し訳ない。