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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
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最終話:そして、僕たちは

長い間お付き合いくださり、ありがとうございました。

その後、バレンタインデーで森小路センパイに呼び出された僕は……

 イヤだよ、その後のことはゼッタイに言わないから!

 って、振られたわけじゃないからね! ここで晒したくないだけなんだから。本当なんだから!


 そして程なくして訪れた卒業式。

 森小路センパイ、守口センパイ、土居センパイの3人が、胸元に花飾りを付けて卒業証書を受け取って学園を去っていく。

 まあ、森小路センパイは内部進学だから割と近くにいるんだけれど、それでも高校生活はこれでおしまい。

 そんな訳で僕と滝井も加わって、例の部室で最後の部活動。


「写真撮るわよ。チーズ」


「うわーっ。掛け声が「チーズ」って、昭和みたい」


「いやいや、平成でも言っていたわよ」


「平成だって古いでしょ」


 なんて、ワイワイ言いながら撮った写真はもはや宝物。

 ずっと大事にしていようと、そのとき僕は心に誓ったのだった。

 


   *  



 なんてことも、あったなぁ。

 と、スマホに収められている写真を眺めていると、横からうっとうしい存在がぬっと顔を突き出す。


「オッ、卒業式の時か? 懐かしいな」


 2年生に進級しても、典弘と滝井の腐れ縁は絶賛継続中。

 そもそも三条学園にはクラス替え制度が無く、好むと好まざるとに関係なく、一度繋がった縁は卒業まで繰り越しとなる。

 それはさておき。


「自分のスマホで見りゃいいだろう。みんなで撮った写真なんだから、滝井だって持っているだろう」


 ウザ絡みをして来そうな雰囲気に答えると「連れないヤツだなぁ」と愚痴られる。

 しかも大仰に両手を広げて朗々と、である。


「オレとオマエの仲だろう? 中学以来の長い付き合いなのに、彼女ができた途端に写真のシェアもしてくれないんだ、寂しいね。ああっ、ヤダヤダ!」


 首を左右に振って二言目には「典弘は変わった」と論うのだが、おいおいおいおいちょっと待て。

 他人のことをさんざん煽り倒しているけれど、交友関係で変化が生じたのは典弘だけじゃない。


「変わったのは滝井のほうだろうが!」


 そう言うと、滝井の愚痴を典弘はキッパリと遮断。

 瑞稀との仲を煽っておきながら、この男ときたら裏でちゃっかり守口を墜としていたのだ。


「リア充に言われたくはない」 


 大学進学を機に守口は一人暮らしを許され、この春から大学近くにマンションを借りて生活を始めた。

 お察しの通り、滝井はこれ幸いとマンションに足げく通って半同棲のような状態。訪問の名目はT大現役合格の才媛に勉強を教えてもらうだが、果たしてそれだけで済んでいるのやら。


「そうは言っても、本当に一番スゴかったのは土居センパイだけどな」


 部活ではキング・オブ・モブを地で行っていた土居だが、整ったルックスと温厚な性格から女生徒の人気は高く、卒業式の第二ボタン争奪戦は凄まじいものだった。


「あの光景を見るまでは、第ニボタンを奪い合うなんて、マンガやアニメの中だけの出来事だと思っていた」


 滝井の感想に「同意」と頷く。


「今にして思えば、あのセンパイがた3人は、アクが強いというか個性の塊だったよな」


「うーん……」


 納得できるような、できないような。


「女優に生徒会長、モブの皮を被ったイケメンだぞ?」


「何だよ。その最後の括りは」


 と言いつつも、強く否定する気にはならない。


「確かに。あのセンパイたちだからこそ部活を続けられた気はするな」


 元々興味すらなかった芝居の世界だ。部活動とはいえ、どっぷりハマるとは1年前は想像すらつかなかった。


「で。典弘は森小路センパイと、どこまでいったんだ?」


 さっきまでの話の流れをぶった斬るように、滝井がずけずけと尋ねる。


「オマエ。脈絡って言葉を知らないのかよ」


「オレの広辞苑には無い!」


「威張るな!」


「それはさておき」


「置くな!」


「今ならクラブのセンパイ。卒業したからOGか? まあ、頑張ればての届く存在だな。その、頑張りはやったのか?」


 茶化しながらも慮った問いかけ。

 だが、敢えて答えない。


「そんな濃ゆいセンパイが在籍したクラブってのは残したいな」


 誰かさんのおかげでどっぷり芝居にハマってしまったってのもあるし……


「ミイラ取りがミイラに捕まってしまうんだもんな。本末転倒もいいところだよな」


「ガイダンスの当日に言うか?」


「いや、オレが部長になっても……」


「森小路センパイ直々の指名だ。モンクあるのか?」


 それを言われると、返す言葉が無くなる。


「しょうがない。行ってくる」


「頑張れよ。部長!」


 滝井に背中をどんと押されて、ステージの壇上に上がると、やはりというか新入生はお喋りに夢中。

ああ、自分たちもそうだったなと思い出しながら、瑞稀に教わった通り、大きく息を吸って腹の底から声を張る。


「新入生の諸君、初めまして演劇部です!」



   *  



 カツン……

 アスファルトに杖の音が響く。


「いけない。袋を用意しておかなきゃ」


 小さく顔を顰めると、瑞稀はカバンの中をガサゴソと漁った。

 今日の現場は雑音がご法度。服装には気を遣ったが、杖は歩きかたとクッションで対応するしかない。

 防音用のゴム脚は家を出る前に入れておいた筈。事態を予想して対策を考えてくれた典弘には感謝だ。

 お目当てのブツを詰めた巾着袋が見えたとき、新着のメッセージがアリだとスマホが震えた。


「誰から?」


 お節介にも付き添いをしてくれた丸太町に「プライベートです」と簡潔に答えるが、無言のジト目で返される。


「だから、後輩からの単なるメッセージですって!」


「ムキになるところが、ますますアヤシイのだけれど?」


「もう!」


 プくリと頬を膨らませて拗ねると、肩をポンと叩かれて「うん、緊張は取れたわね」と指摘される。


「ブランクが有るのは承知してるけど、過度の緊張はいい仕事ができないわよ」


 さすがはベテラン。

 張り詰めすぎた緊張を解きほぐすために、瑞稀をからかったようだ。


「丸太町先生」


 付き添ってくれただけでも感謝なのに、絶妙なフォローまで。

 ありがとうございます。と気遣いに深々と頭を下げようとしたら「ちゃんと避妊しなさいよ」と余計なお節介。


「浩子ちゃんみたいな真似はヤメテください!」


 親ほどの年長者に対して本気で怒鳴る。間違いない、この2人のDNAは絶対にねじ曲がっている。


「そうね。おふざけはこのくらいにして」


 言った途端、顔つきが変わる。


「アナタの希望通り、吹き替えのオーディションにはねじ込んであげた。ただし、ルックスの加点が期待できるアニメと違って、海外ドラマの吹き替えだから完全な実力勝負よ。本名での再デビューだし、声の世界で〝蒲生みずき〟の名前は何の役にも立たないから、そのつもりでいなさい」


 踊れない・動けない瑞稀には、アイドル声優としての道が閉ざれているから、ハンデが大きいわよと忠告する。


「分かっています」


 完全アゥエーなことは元より承知。

 だが、声の仕事なら、脚がダメでも勝負できる可能性がある。

 もちろん、今のご時世。アニメの吹替はアイドル性が問われていることは知っているが、それでも映画や海外ドラマの役は別枠の世界。

 ならば賭けてみたい。

 ケガをして初めて持った欲である。絶対に勝ち取ると心に決めている。


「ホラ、見てごらんなさい」


 対面に止めてある車を丸太町が指差す。


「アレ、丹波橋さんよ。自分が大物俳優で目立つことを絶対に失念してるわ」


 周りから指差されていることにも気づかず、ひたすら瑞稀のことをハラハラと見守っている。よほど心配なんでしょうね。と、過保護ぶりをコロコロ笑う。

 もっとも自分も同じだということに、これっぽっちも気づいていないところは鈍感加減は五十歩百歩だ。大事な社長業を放り出して所属タレントでもない新人に付き合うなど酔狂を通り越している。


「けど、瑞稀ならきっと勝ち取れるはず。合格したら東亜芸能が以降のマネジメントを約束するから、思い切り頑張って来なさい」


 拳を立ててエールを贈るに

「ハイ!」と力一杯返事をする。


「アナタのイイ人も応援しているんでしょう?」


 丸太町の問いかけに瑞稀は黙ってスマホの画面を見せる。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


 背中を押してくれたことに一礼して、瑞稀は一歩前に歩を進めた。

 開いたスマホのディスプレーには、照れながら「頑張れ」と拳を立てている、愛しの後輩の姿が映っていた。




今まで読んでくださり、ありがとうございました。


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