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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
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113:瑞稀の決意

 結果から言うと、一世一代な僕の告白は無残にも砕け散った。


「あ、あのっ! 森小路センパイは、クリスマスの予定って、ど、どうなっているんですか?」


「クリスマスは、家族と一緒に食事する。今年はお父さんが、ウキウキでお店を予約してた」


「その……キャンセルって?」


「ん? ゼッタイにムリだと思う」


 取り付く島もない森小路センパイの返答で、クリスマスに誘い出すという目論見は秒で潰えたのだった。



   *



 クリスマスの代わりといってはなんだが、典弘は瑞稀と一緒に初詣でに行く約束を取り付けることができた。

 典弘の努力が実って……ではなくて、年末年始は守口の都合が合わないからが理由とのこと。

 そして。それをもたらしたのは、予想もつかない意外な人物からだった。


 年の瀬も押し迫ったある日。

 典弘のスマホにかかってきた1本の電話。表示された番号に覚えはなく、誰かと訝りながら通話ボタンをタップすれば、電話の主はなんと瑞稀の母親。


『ウチの瑞稀がお世話になっています』


 そんなありきたりな挨拶から始まり『いつも瑞稀のわがままに付き合ってくれてありがとう』という定番の謝辞。


「いえいえ。僕のほうこそお世話になっています」


『そう? 超が付くくらい内気だし、呆れるようなコミュ障だから、相手をするのが大変でしょう』


「そんな。とんでもない」


 といういうような型通りの挨拶から、当たり障りのない『学校でのあの娘の様子はどうかしら?』という定番の質問への流れ。

 典弘もまた同様に「お芝居のこと、いろいろ教えていただいてます」と当たり障りのない返事をして、ここまでは良い意味で社交辞令ができていたと思う。時おり受話器の奥から『お母さん。なに勝手に喋っているの!』などと瑞稀の慌てる声が聞こえてくるが、これはもうご愛敬みたいなものだろう。

 なにせ次に放たれた爆弾に比べたら、この程度の戯言などジャブにもならない細やかなもの。今の今まで保護者目線の世間話だったのが、突如として『うちの瑞稀と初詣でデートしてくれるかな?』と母親の口から出たらそりゃ驚く。


「は、はあ!」 


『お、お、お母さんっ!』


 驚く典弘に狼狽える瑞稀。受話器の向こうで瑞稀の母親が『あら、驚いた?』と、してやったりと言わんばかりにクスクスと笑う。


『まあ、結果デートになっても良いわよ。ってこと』


「どういうことですか?」


 ますます意味が分からず理由を訊き返してみると、要は正月の初詣でに瑞稀に付き添って欲しいとのこと。

 森小路家では毎年家族で初詣でに行くのが恒例なのだそうだが、今年は両親の都合が悪くて参拝は瑞稀一人になってしまうのだとか。


『ほら、ウチの瑞稀ってば脚がアレでしょう。人出の多い正月の神社にひとりで行かせるのは、イロイロ危ないから親として看過できないのよ』


「あ、ああ。そういうことですか」


 なるほど、納得。

 瑞稀の脚の事情を鑑みれば人ごみの中に付き添い無しは不安しかない、なので付き添いの相手役として典弘に白羽の矢が立ったのだろう。


『ええ。そういう訳で瑞稀の付き添いをお願いできないかなと、千林クンにお電話をかけさせていただきました』


 予想に違わぬ成る程な理由に、瑞稀の母親が〝お願い〟をしてくるのも分からぬではない。

 だがここで素朴な疑問が頭をもたげる、なぜ瑞稀の母親は〝付き添いの相手に自分を指名してきた〟のだろう?


「ええと。僕、男ですよ?」


『そうね。声を聴いても女の子だとは思わないわ』


「ですよねー。ふつうに考えて、付き添いだったら同性の友人に頼みません?」


 至極まっとうな疑問に、瑞稀の母親はあろうことか秒で『ない、ない、ない』と即レス。


『瑞稀は筋金入りのコミュ障だから、そんなことを頼めるのは浩子ちゃんしかいないのよね』


 あまりのぶった斬りに後ろで瑞稀が『そんなことない!』と抗議をするが、これまた秒で『見栄を張らない』と瞬殺。

 聞けばその最後の頼みの綱の守口も「ゴメーン。都合が悪くなったの」とドタキャンで、付き添い相手がいなくなったとか。


『母親としては、その哀れな娘を何とかしてあげたくてね。こうして恥を忍んでお願いしている訳』


 文字面だけ見れば娘思いの良い母親に見えるが、言葉の端々にこの状況を面白がっている様子が見え隠れ。

 それが証拠に受話器越しから『なに勝手に話進めているの!』とか『お母さん、やめてー!』という瑞稀の悲痛な叫びか漏れてくる。


『ホラこの通り、娘も千林クンと一緒に行きたがっているみたいだし。どうかな?』


「あのっ。からかうのも程ほどにしてあげたほうが良いのでは……」


『あれれ。千林クンはウチの娘とのデートは嫌だと?』


「そんな。滅相もない」


 そんなやり取りの末なぜそうなるのかはまったくもって謎だが、典弘は瑞稀の母親公認というか依頼で正月にふたりして初詣でに出かけることになったのである。 



   *



 年が明けて1月4日。


「あけまして、おめでとうございます」


「こ、こちらこそ、ありがとうございます」


「いや。それって、新年の挨拶じゃないですよね」


「えっ。あっ……ホントだ」


 相変わらずの天然ぶりに典弘は思わず苦笑い。

 

「まあ、でも、普段通りがいちばんですよ」


 ヘタに話を広げずに、そっと左手を出してエスコート。朴念仁の典弘にしたら長足の進歩だろう。瑞稀も「ん」と返事をしながら差し出された手を握る。


「3が日を過ぎると参拝に来る人も、だいぶ落ち着いてきますね」


「人混みが多いと、わたしが心配なんだって」


 まあそうだろうなと得心。

 口にすれば誰もが知る全国区な社寺ではないにせよ、ココのお宮も地元ではチョットは名の痴れた存在。正月3が日ともなれば多くの参拝客が訪れて混雑するので、杖を突く瑞稀の安全に気を遣うのは当然の帰結だろう。


「3が日を過ぎれば混雑も落ち着くから、足元への不安も随分と減りますよね」


 目測だけど参拝者は3が日の半分程度。参道の両脇に連なっていた露店も半減、他人とぶつかる可能性もほぼ無くなったと言えよう。

 そんなことを考えていたら、瑞稀の両親の危惧は典弘の予想のさらに上。


「人が多いと、わたしが転びそうで怖いって。満員の電車で、通学もしているのに、なんでよー!」


 口を尖らせて不満を漏らすが、瑞稀の普段を見るにつけ「まあ、そうなるわな」と思ったのは内緒だ。


「それだけ大事に思われているのでは?」


 穏便なセリフで返したら「そうかなー」と満更でもない反応だったので、言葉のチョイスは間違っていなかったよう。

 スマートにとは言い難いが無難にエスコートすると、予定通りに初詣でを済ませて「体冷えてきたし、ちょっと温まりませんか?」と昼食を兼ねて神社近くの喫茶チェーンへ。


「で。初詣にこだわった森小路センパイは、神様になにをお願いしたのですか?」


 両手でカップを抱えてココアを飲む瑞稀に尋ねると、顔をしかめて「言わない」と黙秘権。


「ええっ。どうして?」


「言ったら、ご利益がなくなる」


「そんな話、聞いたことないですけど」


 首を傾げる典弘に「ないったら、ないの!」と頑なに否定。


「その話は、もういいから!」


 そう言って瑞稀がそっぽを向くが、不機嫌を装いつつも口元がムニムニしている。なにか言いたそうな雰囲気まる出しで、空気を読んだ典弘は「他には?」と促した。

 するとやはり、誰かにというか典弘に聞いて貰いたかったのだろう。瑞稀が少し照れ臭そうに「ええとね」と思いの丈を口にする。


「浩子ちゃんにお願いして演劇部を始めて、千林クンと滝井クンが入ってきてくれたでしょう。それからイロイロあって、ヒーローショーとか、人形劇とか、朗読劇とかやったよね?」


「そうですね」


「わたしの脚が悪いから、お芝居っていっても、どうしても動き回るよりは、声が主体になったでしょう?」


「そうですね」


「でね。やっていて思ったの。やっぱり「お芝居は楽しい」と。できたら、これからもずっとやっていきたいって思ったの」


「はい」


「文化祭のとき、わたしがケガをして舞台が危なくなったとき、千林クンが「朗読劇をしよう」って言ってくれたよね」


「苦肉の策ですけど……」


 謙遜でもなく、本当に苦し紛れのアイデア。だが瑞稀の口から出たのは「とんでもない!」だった。


「おかげで舞台が続けられた。アレ、丸太町さんも丹波橋さんも「よく思いついた」って言ってたよ。わたしも「スゴイ」と思ったよ。それでね、朗読劇をやって思ったの」


 瑞稀がまっすぐ典弘を見つめると、意を決したように宣言した。


「わたし、高校を卒業したら、本格的にお芝居をする。あ、大学は行くわよ、お母さんが「進学はしなさい」って条件出したし。でね、そのことを丸太町さんと丹波橋さんに相談して、決めたの」


 早口で一気にまくしたてると、瑞稀が典弘を見つめ「千林クンが指し示してくれた道だよ」と付け加え。


「声のお仕事で、お芝居に復帰するわ」



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