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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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戦略

激しい怒りを覚えながらも、ワイルドは戦況を分析していた。

激情と計算を両立させられのは、苛烈な職業軍人として生き抜いてきたワイルドに染みついた習慣といえるだろう。


ワイルドはピップと一対一の状況である。周囲にほかのスターズの気配はない。ザーズとブーラにも戦闘に参加するよう通信を送っているが、息子たちがスターズに乗り込むまであと数分かかるだろう。


<ムーンファルコ>はピップが呼び出した光る小さなスターズと戦いを始めたようだ。

その二機はどういうわけか、廃墟から徐々に離れていっている。


ムーンファルコが動き出した原因は不明だが、未識別の高速移動するスターズが現れたことで、なんらかの防衛プログラムが働いたのだろう、とワイルドはみていた。

自律式スターズが命令していない行動をとることは大戦中にもあったし、AIというのはときに指令者が意図しない動作をとるものなのだ、という程度にワイルドは考えている。


ピップが呼んだ光るスターズについては、夜ということもありはっきりとは言えないが、人間の子どものような外観をしていたように見えた。

人間のような、それも子どものように小さい戦闘用のスターズなどワイルドは見たことはなかったが、そのスターズについて深く考える気はなかった。

どんなスターズであれ、ムーンファルコであれば難なく倒すであろうと確信していたからだ。


(それぐらい強い。<ムーンファルコ>は。あれはまさに化け物だ)


元帝国軍のパイロットであるワイルドは、大戦当時、自分の基地に配属されてきたムーンファルコの性能に大きな衝撃を受けたものだった。

あくまでシミュレーション上でのことだが、帝国軍の上位機に乗った精鋭パイロットの小隊でさえ完敗するほどの強さをムーンファルコは示していた。


ムーンファルコの特徴は、まず圧倒的な火力と命中性能。円形の四つの砲門は自在に動き、全方位を敵機に囲まれたとしても、全く問題にしない。

装甲は、並の攻撃ではまったくダメージが与えられないほどに頑丈で硬い。あの巨体ながら動きも機敏で、人間では耐えられないような加速度で、縦横になめらかに動く。

そして、複雑な状況を高速で処理し判断する計算能力の高さ。搬送を担当したエンジニアによれば、スーパーコンピューター並の計算能力が搭載されているらしく、単独で拠点の制圧や防衛すら可能であるという。


(連合国も高性能な自律式スターズを開発しているときく。これからの戦争は、人間ではなく機械がするのだな)


と当時のワイルドは感じて、時代の変革を目の当たりにして寂しいような、どこかホッとしたような、複雑な気持ちになったものだ。


そのムーンファルコが戦う以上、あの小さいスターズが破壊されるのは時間の問題だろう。

だから、ワイルドがやるべきことはシンプルであった。


(俺がモルゴンを倒す。それで終わりだ)


ワイルドは、ザーズやブーラ、<ムーンファルコ>を待つ気はなかった。


(このガキは、俺をたばかりやがった。俺がこの手でやらなきゃ、気が済まねえ)


ワイルドは操縦桿を握りしめると、自機<クライブン>を加速させて、モルゴンとの距離を不意につめて挑発を仕掛けた。

しかし、モルゴンは発砲してくることもなく後退した。


(クソガキめ、俺を煽っておきながら戦わない気か?)


そうくるだろうとは、ワイルドも予測している。

モルゴンは腕部が損壊しており、機装が少ない状態である。主砲の攻撃力は侮れないが、連発性能は低い。

万全の状態であるワイルドの機体とまともに戦えるわけがない。


(さて、今、注意することは二つあるな)

とワイルドは考えている。


一つ目は、ピップがあの小さいスターズ以外にも自律式スターズを所持しており、ほかにも増援を呼んでいることだ。もしピップ側に追加の増援が現れればワイルドは窮地に陥るが、この可能性は低いと考えていた。

なぜなら、もし、ピップがあのスターズ以外にも自律式スターズを所持しているほどの戦力を有しているなら、ウィークシティに立ち寄り、おめおめと捕まる理由がない。よって、伏兵の存在はほぼ除外していいだろう。


二つ目は、ここでピップを逃亡させてしまい、取り逃すことだ。ワイルドが警戒しなければならないのはこちらであった。

この広い砂漠地帯で索敵範囲外に逃げられてしまうことだけはあってはならない。もしそうなれば、ピップはいずれウィークシティに連絡をとり、ウィークシティからティアの本拠地であるホープシティにも状況が伝えられてしまうだろう。ワイルドのティア誘拐計画は瓦解してしまう。


だからワイルドは、ピップとの距離を絶対に空けるわけにはいかなかった。

ピップが後退すれば、その分だけワイルドは追い、攻撃を仕掛けた。


ワイルドの乗機は、<クライブン>。

大戦の中期、ドルグ帝国が量産した小型機である。

棒状の胴体に、蛇腹状の被膜で覆われた四本の足と二本の腕が接続されており、腕も足も短いため、どこかひょうきんな外観をしている。

主砲は小さく、総合的にも火力は高くはない。ただ、動きは俊敏であり、空中戦は不得手だが、地上戦においては帝国の主力であった。

世界的な量産機であるモルゴンとは、総合的な性能面において同格であるといっていい。


(腕の違いを見せてやるぞ、小僧)


ワイルドはクライブンをジグザグに走行させながら、モルゴンの周囲を回り、腕部よりビーム砲を数発、発射した。

動きに単調な規則性があるように見せかけて、モルゴンが主砲で反撃してくる隙をついて、一気に接近するつもりだった。


しかし、あいも変わらずモルゴンは逃走することに注力しており、一向に反撃をしてくる気配がない。

ならばとワイルドは地面を蹴りながら一直線にモルゴンに向かったが、モルゴンは宙高く飛び上がり、ジェットを噴射させて離れていく。


そして、クライブンの射程外まで離れると、モルゴンはようやっと主砲を発射してくる。

当たる可能性の低い距離であるが、クライブンがかわしている間に、モルゴンは主砲を発射した反作用を利用して、また遠くに離れてゆく。


ワイルドの誤算は、ピップが想像以上に逃げるのが上手いことだった。


どういうわけか、ピップはクライブンの速度や機装の射程を知り尽くしている。

特に、クライブンが空中においては複雑な動きが苦手であり、空中にある間は機装を使用しづらい機体であることをうまく利用されていた。


単純な最高速の勝負であればクライブンはモルゴンを上回るが、無闇に飛び上がれば、モルゴンの主砲を受けてしまう懸念があるため、ワイルドは高く飛ぶわけにいかなかった。

必然、クライブンは地上を蹴りながら進むことになり、空中を思い切り移動できるモルゴンに距離を取られてしまうのだった。


このような状況が続いたため、ワイルドは次第に苛立ってきた。

すでにもといた廃墟からはかなりの距離まできてしまっている。


(クソッ、こうも逃げ続ける相手をクライブン一機で追うのは、厳しいか。ブーラとザーズはまだか? <ムーンファルコ>はまだあのスターズを倒していないのか?)


ワイルドは専用のコンピューターを起動して、ムーンファルコの現在の状態をチェックした。

ムーンファルコとワイルドの距離は、機体同士の通信だけでは接続不可能なほどに開いてしまっているが、廃墟施設の基地機能を中継とすることで、ムーンファルコと通信を行うことを可能にしていたのだ。


すると、ワイルドはモニター画面に信じられないものを見た。

そこには全身にダメージを負ったムーンファルコの状態が表示された。


(バカな、あのムーンファルコが、ダメージを負っている!?)


むろん、戦闘前にはダメージなど一つもなかった。

そして、ワイルドがモニターを見ている間にも、ムーンファルコのダメージ箇所が増えてゆく。その相手はあの小さなスターズとしか考えられない。


(あの子どものようなスターズに、それほどの性能があるとは…。)


そこまで考えて、ワイルドは愕然とした。


(まさか、見誤っていたのは俺の方なのか!?)


ワイルド側にザーズとブーラがいることは、当然、ピップも理解している。時間が経てばこの二人もワイルドに加勢するわけで、ピップが窮地に陥ることは明らかである。それにもかかわらず、ピップは逃げ続けることを選択している。


(その理由として考えられるのは)

とワイルドは歯噛みをする。


(ピップは、あの小さいスターズが<ムーンファルコ>に勝てる、とふんでいるのだ。そして、あのスターズがムーンファルコを倒したのち、自分のほうに加勢すれば、ワイルドたち三人など楽に倒せる、と考えている…)


「くそ、あのさかしいクソガキめ! 理由のないことはしないってわけか!」

ワイルドは腹いせに機体内部の壁を叩きながら叫んだ。

「ちくしょうめ、ウィークシティからここへ、この短時間で到達することができるようなスターズが、並のスターズであるわけがなかった!」

ワイルドはピップを牽制するためにビーム砲を乱射すると、機体を急旋回させた。そして、ブーラとザーズに通信を出した


「ブーラ、ザーズ、作戦変更だ。ピップのモルゴンは後回しでいい。<ムーンファルコ>と戦っているスターズがいる。三人でそっちを集中して叩くぞ!」

ブーラから通信が返ってくる。

「え、父ちゃん、どういうこト? それじゃ、ピップが逃げちゃうヨ!?」

「構うな、そう思わせるのがあのガキの作戦だ。このままではムーンファルコがやられるぞ」

ザーズからも通信が返ってくる。

「ど、どういうことだよ、父ちゃん。あのムーンファルコがやられるって、そんなまさか」

「そのまさか、だ。お前たち、心しろよ。あの小さいスターズは、ムーンファルコ以上の化け物かもしれないってことだ!!」


ワイルドは<クライブン>を宙空高く浮き上がらせると、ジェットを最大限に吹かせて、ムーンファルコと小さいスターズが戦っている地点へと向かった。

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