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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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夜空の星

突然現れた巨大なスターズを目にして、ピップはつぶやいた。

「これは…」

「見たことがないだろう。こいつは<ムーンファルコ>という自律式スターズだ。帝国が大戦末期に開発したスターズだから、知るものはほとんどいない」

「見たことはない……いや、でも、すこし似ている気がする。ギャランシティで見た<オルガレイズ>に」

とピップは思わず口に出した。

「へえ、おまえ、<オルガレイズ>を見たことがあるのか。あれを持っているとは、やっぱりギャラン=ドゥは侮れねえな」

「あれを知っているのか?」

「ああ。<ムーンファルコ>も<オルガレイズ>も、いわば帝国の秘密兵器だ。連合国の自律式スターズに対抗すべく、大戦末期に帝国が急遽、開発したものらしい。俺は<別れの日>に、このムーンファルコを前線基地へ輸送していて助かったんだ。そのまま頂戴して、この廃墟の地下に隠していたのさ」

「じゃあ、ここに強力な自律式スターズがいるという前情報も、まるっきり嘘じゃなかったんだな」

「そういうことだ。人を騙すためには、そのほとんどは真実で構成すべきだからな。で、どうだ。こいつを見た感想は。スターエンジニアとして、こいつのメンテナンスもやってみたいと思わないか」


(思う)


とピップは思わずにいられなかった。

ギャランシティの<オルガレイズ>のときもそうだったが、優れたスターズや未知のスターズを見たときに、それに触りたいし調べたいと思うのはスターエンジニアであるピップのサガだった。

ピップの中には、戦争をとことん嫌悪しながら、戦争が生んださまざまなスターズをもっと触ってみたいという、矛盾した感情が共存している。


「あなたは、大破壊後にこの<ムーンファルコ>を使ったことは?」

「今のところは、ない。できれば、今後も使わずに済ませたいねえ。いっておくが、こいつは見かけだけじゃねえ。破壊力、装甲、機動力、演算能力、そのどれもが桁違いの化け物さ。こいつを使えば、並みのシティなら一機でも制圧できちまうだろう」

ワイルドは<ムーンファルコ>を見上げながらいった。

「だが、俺たちは金が必要なだけで、殺しをしたいわけじゃない。それに、息子たちには殺しをさせる気もない。ただし」

ワイルドはタバコを足元に落とし、踏みつけた。

「必要とあれば、殺しもする。そしてそれは、俺がすると決めている」

ワイルドはおろしていた銃をゆっくりと持ち上げ、ピップに向けた。

ピップはワイルドの目を見た。光の少ない目だった。

おそらくそれは、過去すでに一線を超えた人間だけがもつ目なのだろう。ギャランも、サイモンも、そういう目をしていた。

「これでわかったろう、俺たちにはお前が必要だ。俺はマザースターを売った大金で、かあちゃんを探す。お前のじいさんであるアダム博士も一緒に探してやる。悪い話じゃねえだろ」

「俺があんたらの味方になったとして、このあとはどうする予定なんだ」

「まず、俺とお前だけでシティに戻る。ほかの連中は、みんな強力な自律式スターズにやられてしまったのだと報告をしにな。おまえは隙を見て、弟を連れ出せ。あとはタイミングをみて、ティアを連れたザーズとブーラに合流する。そして、ホープシティにマザースターとティアの交換を要求する。計画のあらましはこうだ。何か問題は?」

「もし、俺が断った場合は?」

「今ここで引き金を引くことになるだけだ。そうしたくないから、全部話したんだがね」

「俺が引き受けるふりをして、裏切って逃亡する可能性もある」

「お前はそれをしないさ。なんていうのか…まだ、汚れたことのねえツラだからな。それに、お前はティア=ハートを見捨てねえだろう。俺たちから乱暴などされないように守らないといけない、と考えているはずだ」

「……」

「さて、話はここまでだ」

ワイルドは銃を両手で構えた。

「決断しろ。仲間になるか、ここで死ぬか、だ」


ピップは思わず、星空を見上げた。

満天の星空は、いつ見ても、残酷なまでに美しい。

幼い頃、父の背におぶさりながら見た星空も、祖父アダムと一緒に家から眺めた星空も、砂漠の廃墟の上で見上げる星空も、同じように美しい。


(もし、アダムじいちゃんが生きているなら、同じ星を見ているだろうか)


ピップはこれまでもそう思って、自分をふるい立たせてきた。祖父アダムを探すことは、ピップにとって、今生きる最大の理由であるといっていい。


しかし、<白い穴>が世界にもたらした被害はあまりにも大きく、行方不明となった一個人の生死の確認はもはや不可能である。

死んでいるとわかればあきらめはつくだろう。

しかし、生きているという希望がある以上、祖父を探し続ける以外の選択肢は、今のピップにはない。


だから、ピップには妻を探しているというワイルドたちの気持ちがよくわかる。

愛している人が生きているかもしれないなら、その人が今もどこかで孤独を感じているかもしれないなら、そして自分が相手を思うように、相手も自分を思っているかもしれないなら、どんなに可能性が低くても、探さずにはいられないのだ。


ピップは目の前で自分に銃を向けているこのワイルドという男のことを、心のどこかで信頼し始めている自分に気がついていた。

「仲間になれ」と言われて、どこかうれしい気持ちにさえなった。

ワイルドなら、ラムダが自律式スターズであることを正直に言えば、受け入れてくれるかもしれない。


(アダムじいちゃん)


ピップは祖父を思う。

ワイルドは妻を探すためならなんでもする、と言っていた。

ピップも、今もしアダムに会えるなら、なんだってするだろう。


(だが、それにも条件がある)


ピップは奥歯を噛み締めると、ゆっくりと口を開いた。

「……ワイルドさん。色々と正直に話してくれてありがとう」

「ああ」

「俺も、あんたと似たようなもんだ。じいちゃんと再び会うことだけを目的にずっと生きてきた。そのためなら、なんでもしてやるって思うこともある」

「だろうな」

「でも、だからこそ、あなたの提案は受けられない」

「断れば、今ここで死ぬのに、か?」

ワイルドは銃の引き金に指をかけた。

夜空に星がまたたいている。ピップの目には光が見える。ピップは首を振る。

「理由は、二つあるんだ」

「なんだ。せっかくだ、いってみろ」

「まず一つは、しょうもないことだけど、あんたらに仲間になって、ティアさんに嫌われたくない」

ワイルドは笑った。

「なるほど、わからんでもない。で、もう一つは?」

「あなたの提案を受けてしまったら、もし、この先、じいちゃんに……」

光が大きくなってゆく。ピップはそれを信じることに決めていた。


「じいちゃんに会えたときに、胸を張れなくなっちまうんだッ!!」


そう叫ぶと、ピップは屋上の縁から飛び降りた。

「なッ…バカな!」

この屋上は地面から十メートル以上の高さがあり、下は硬い床である。

(自殺行為だ)

とワイルドは思った。

だが、そのとき、ワイルドは不意に背後から強い光で照らされるような感覚を覚えた。

(なんだ、流れ星? いや、これは)

それは光ではなく光をまとった何かだった。

その何かはワイルドの頭上を凄まじい速さで通り抜けていった。


落下しながら、ピップは光に向かって、全力で叫んだ。

「ラムダーーーーーッ!! ここだー! 拾ってくれえ!!」


「はい、ピップ」


ピップがまさに地面に衝突する寸前だった。


猛スピードで飛んできた光、すなわちラムダはその勢いのままピップをすくい上げ、再び上昇した。

ラムダはピップを抱えたまま屋上を見下ろすほどの高さまで上がると、にっこりと笑っていった。

「ピップ、お待たせしました」

「よく、よく来てくれた。本当にありがとう、ラムダ」

「はい、どういたしまして」

ラムダはこんな状況でも相変わらずの笑顔で笑っている。

ピップも思わず苦笑した。

眼下の廃墟屋上では、ワイルドが信じられないといった表情で見上げているのが見えた。


そのときである。

ワイルドの背後に浮かぶ<ムーンファルコ>が突然動き出し、ビーム砲をラムダとピップに向かって発射した。

「うわっ!」

ピップは思わず声を上げたが、ラムダはピップを抱えたまま空中で旋回してそのビームをかわした。ビームは夜空に吸い込まれるように消えていった。

「どうした、<ムーンファルコ>!? まだ何も指示をしていないのに」

ワイルドは慌てて操作盤を確認した。操作盤には「緊急事態」の赤い文字が表示されている。

「どういうことだ…」

ワイルドはつぶやいたあと、ハッと我に返り、自分のスターズに向かって走った。


(あいつ、ラムダを狙ったのか?)

ピップの目には<ムーンファルコ>が勝手に動き出したように見えたが、いぶかしんでいる場合ではない。

「ラムダ、このままじゃ狙い撃ちされる、地面に降ろしてくれ。あそこに見えるモルゴンのそばに」

「承知しました」

ラムダはモルゴンの横にピップをおろした。

「ラムダ、モルゴンが攻撃されないように引き付けてくれ」

「はい、ピップ」

ラムダはそういうと、シュパッと音を立てて空へ飛んだ。

すると、またしても<ムーンファルコ>の攻撃がラムダを狙って放たれるのをピップは見た。

(やっぱりあいつ、ラムダを狙っている。急がないと)

ピップは地面に転がっているモルゴンの状態を急いでチェックした。


二本の腕は破壊されており、外殻にはへこみや弾痕がある。スターバッテリーは無理やり外されている。だが、重要な機関部分に致命的な損傷はなさそうだった。

ピップはモルゴンに搭載してある予備バッテリーを取り付け、モルゴンが稼働できるかをチェックした。

稼働、可能。

破損箇所はあるものの、予想したように機関部への損傷は皆無だった。


ピップはモルゴンからラムダに通信を送った。

「ラムダ、モルゴンは動けそうだ。お前、あのスターズを知っているか?」

「はい。ドルグ帝国製、VO952248。通称<ムーンファルコ>と呼ばれる自律式スターズです」

(やっぱり、ドルグの自律式スターズか。もしかすると…いや、それについて考えるのはあとだ)

ピップは唇を噛んだ。

「ラムダ、お前は<ムーンファルコ>と戦ってくれるか。あと、あの廃墟には捕まっている人たちがいる。中の人たちを巻き込まないように、なるべく離れたところで戦ってほしい。屋上にあったもう一つのスターズは俺が引きつける。ラムダは<ムーンファルコ>を倒すことに集中してくれ」

「承知しました、ピップ」

ラムダは快く返事をすると、ムーンファルコに向かって飛んでいった。


ラムダが離れるとモルゴンのアラートが鳴ったため、ピップは慌ててモルゴンを旋回させた。モルゴンのすぐ近くの地面にビームが着弾する。

発射された方向を見ると、ワイルドのスターズが目視できるまで接近してきていた。

「ピップ、てめえ、なんだ、あれは!? おまえの自律式スターズか!」

ワイルドが通信を送ってきたので、ピップも通信をオンにして返した。

「そうだ。あんたと同じさ。とっておきってやつだ」

「どこにあんなのを隠し持っていた!」

「隠し持っていないよ、ウィークシティから呼んだのさ」

「どうやってだ!!」

「あんたらはさ、ここからシティへ向けての直通回線にだけ、パスワードのロックをかけていたな。でも、<モバディオ>の通信機能そのものは生きていた。そうでないと、シティからこっちに向かっての通信ができなくなって、何か起きたんじゃないかって疑われちまうもんな」

「……まさか」

「そう、実は俺も細工をしておいたんだ。シティに一番近い<モバディオ>に、自分のスターズに直通通信できるような回路を加えておいたんだ。俺は回路をそっちに切り替えて、自分のスターズに連絡をとることができたんだよ」

「……てめえはッ!!」

「あんたの言う通りだ。準備はしておくもんだな、ワイルドさん」

「クソッタレめ、生かしておいたのも、モルゴンを残しておいたのも失敗だった。もういい、お前にはここで死んでもらう!!」

そこで通信はブツッと切れた。

ワイルドの怒声を聞いて、ピップはあらためて腹をくくった。


(戦うしかない!)

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