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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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廃墟調査

この廃墟は、スターズや物資などの保管倉庫だと思われた。主屋はコンクリートの三階建ての建物となり、そこに格納庫と倉庫がつながっている。軍事施設としては小規模と言えるだろう。

施設の調査に向かった五人、すなわちワイルド隊長、ティア、ザーズ、ブーラ、そしてピップは格納庫から調査することにした。理由は外部に続くシャッターが開いていたためである。


五人は格納庫に入った。

格納庫はスターズ十機ほど入れる程度の広さだった。シャッターが閉まっていなかったせいで、床には砂が散乱している。照明はつかないが、窓から外光が入るため、調査には問題はなさそうだった。

「先ほど破壊した自律式スターズ…<シルガラ>もここにいたのかな」

ティアがピップにたずねた。

「その可能性が高そうですね。砂があまり積もっていない部分がありますから、ここにいたのかも」

「もし、ここが無人の施設だったとすると、シルガラたちはエネルギーの補充をどうしていたのだろう?」

「格納庫内にスターバッテリーのストックがありますね。エネルギーが不足したら、自分自身でバッテリーを交換するようにプログラミングされていたのかもしれません」

「なるほど。では、あの<シルガラ>たちは、<別れの日>から二年半もの間、スターズが近づくたびに飛び出して攻撃を仕掛け、拠点に戻ったら自分たちエネルギーを補充していたことになるね。ここが本当に無人施設なら、だけど。わたしはなんだかそれは怪しい気がするんだ」

「たしかに不自然さは感じます。でも、自律式スターズの性質上、それが可能であるとも思います」

「ふーん」

ティアは釈然としない様子で格納庫を調べている。

(ブーラさんが<シルガラ>を爆破しなければ、いつプログラムされたのか、ログを調べることもできたかもしれないのに)

とピップは口に出さずに思った。


ティアとピップが会話をしていると、ワイルドが加わってきた。

「ティア殿は無人施設ではないのではないかと疑っているようですね」

「ええ、まあ」

「ただ、この廃墟は周辺シティから完全に離れていて、シティ間の動線上にはありません。つまり、完全に孤立している場所です。現に我々ウィークシティとしても、ここに廃墟があることは誰も知らなかったのです。たまたま近くを通った人が自律式スターズに襲撃され、シティに報告が上がったのです。よって、作戦本部としても、この施設は無人の廃墟である可能性が高いと考えています。事前の説明の通りではありますが」

「はい」

「よって、警戒すべきは、先ほどのシルガラ以外にも自律式スターズが潜んでいる場合でしょうな。この廃墟を守る、自律式スターズが」

「そうですね」とティアが答えた。


(最後に受けた命令を守り、拠点の襲撃者を撃退すべく、ただ待ち続けていた自律式スターズ、か)


ピップは思わず「自律式スターズ」という存在について考えてしまう。

思い浮かぶのはやはりラムダのことであった。

もし、ラムダが、指示権を持つ誰かに戦い続ける命令を受けたら、その身が滅びるまで戦い続けるだろう。自律式スターズとはそういうものだ。

では、たとえば、ピップがいないときにラムダが捕まり、プログラムを改造されてしまえば、どうなるか。

ラムダの戦闘能力は、おそらく並のシティひとつ分に匹敵する。シティを滅ぼしてはそこにあるスターバッテリーを奪い、また次の獲物を探すような怪物になってしまうかもしれない。


(早くこの任務を終わらせて、ラムダのところに帰らなければ)

とピップは強く思うのだった。


調査の結果、格納庫にはありふれた備品が残っていたのみであった。

とくに急いで回収すべきものもないため、ワイルドは主屋である建物の調査に入ることを隊員に告げた。


ワイルドは格納庫から廃墟の主屋に続くドアを開けた。

ドアの先は廊下だった。外の光が入ってきていた格納庫と異なり、中は暗闇である。

ワイルドは携帯照明を天井に向けて放り投げて、貼り付けた。周囲が照らし出される。

「慎重に進むぞ」

ワイルドの号令の元、各員は廊下を進んだ。

先頭にワイルド隊長、二番目にザーズ、三番目にティア、四番目にピップ、最後尾にブーラという並びである。

廊下を進み、ワイルドは突き当たりにある部屋のドアを慎重に開けた。

そして、先ほどと同じように携帯照明を天井に投げて貼り付けた。


その部屋はおそらく会議室であると思われる広い部屋であった。

かつてはここでミーティングなどが行われたのだろう。机や椅子が部屋の隅に寄せられていた。


五人がその部屋に入ると、唐突に後ろのドアが閉まった。

同時に、ザーズが先頭を進んでいたワイルドの頭を、手に持っていた警棒で強打した。

「ぐわっ」

といいながら、ワイルドは床に倒れ込んだ。

ピップは何が起きたのか理解できないでいると、急に後ろから首を絞められた。

ほんの少し顔をずらしたときに見えた自分の首を絞めている相手は、ブーラであった。

「お前たち、何を!」

ティアは銃を抜こうと動いた。


しかし、ザーズの蹴りが素早くティアの手と銃をはじいた。銃は部屋の端へと転がった。

「抵抗するなよ、おねえちゃん。大人しく捕まれば、痛い目を見なくて済むぜ」

ザーズは警棒をティアに向けた。

ピップは手を差し込んで、首がきつくしめられるのをなんとか防いだが、ブーラの力は強く、まったく身動きが取れない。


(ティアさんを助けないと……でも動けない!)


ピップは少しずつブーラの腕が首に食い込んでくるのを感じた。頸動脈が圧迫され、頭がボーッとしてくるような感覚がある。ワイルドは床に倒れて動かない。

ティアはザーズから目を逸らさず、

「ピップくん、もうちょっと耐えてくれ。すぐ助ける」

といった。

そして、身構えた。このままザーズと素手で戦う気のようだ。


(む、無茶だ!)


とピップは思った。

ザーズの身長は百八十センチ以上はある上に、警棒を持っている。ティアの身長は百六十センチ程度だろう。

そして、痩せ型とはいえザーズは軍人の男性である。

体格の差、筋肉量の差、リーチの差は圧倒的だ。

「チッ、恨むなよ。警告はしたぜ」

ザーズは警棒を構えながら、ジリジリとティアに近づいた。

ティアは勢いよく前に出てパンチを出そうとした。

ザーズはそれに合わせて警棒を力強く振り抜く。


(ああ、当たる!)


とピップには思われた刹那、ティアは瞬時に体を落として、地面を這うかのように進み、ザーズの前足にタックルを仕掛けた。レスリングのような動きだった。

ティアはザーズの片足を掴むと、振り上げた。

ザーズはあわや倒れそうになるところをなんとか踏みとどまった。ティアはすばやく警棒が振れないように距離をつめて、ザーズの眼球に指を刺そうとした。

ザーズは慌てて顔面を手でかばった。


だが、これはフェイントだった。

ティアは無防備な状態のザーズの股間を思い切り蹴り上げた。

「えぐっ」

ザーズは股間を抑えて思わず前のめりになる。

「ちょうどいい高さ」

そういいながら、ティアの足は美しい弧を描いた。

小さな打撃音が部屋に響く。

前のめりになったザーズの顎をかすめるように、ティアの上段回し蹴りが決まったのだ。

ザーズは脳を揺らされ、糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちて、倒れた。


ティアはザーズが動かないことを確認すると、ピップの首を絞めているブーラの方に向かった。

「く、くるナ!」

ブーラは慌てて、ピップをティアの方に放り出した。ティアはそれをサッとかわすと、ブーラの目を突く動きを見せた。ブーラが顔をガードしようとしたとき、ガラ空きだったブーラの股間をティアは思い切り蹴り上げた。

ブーラは「ぷうう」といいながら、悶絶して倒れこんだ。


あっという間の出来事だった。

ティアは二人の男を昏倒させてしまった。


「ピップくん、大丈夫か」

ティアは地面に手をついてむせるピップに駆け寄った。ピップは気を失う寸前だったが、必死で呼吸をしてなんとか返事をした。

「よかった。さて、この二人を拘束しないと」

ピップが顔を上げると、頭を強打されたワイルド隊長が立ち上がるところだった。

「あ、良かった、隊長も…」とピップがいって、ティアが後ろを振り向いた瞬間だった。

隊長は取り出した何かをすばやくティアに押し当てた。

「あっ!」

とティアは目を見開いて声を上げると、体を痙攣させ、倒れ込んでしまった。


酸欠状態のピップは、とっさに何が起きたか判断できなかった。

が、数瞬遅れて、ワイルドはティアにスタンガンのようなものを押し当てたことを理解した。自分の体にも同じものが押し当てられたからだ。

「うがッ!!」

ピップは強い電気ショックを受けて体が痙攣するのを感じ、倒れこんだ。


ワイルドは抑揚のない声でいった。

「ブーラ、お前はこの坊やを抑えていろ。ザーズは完全に飛んじまってるか。ったく、とんでもねえ女だ」

「う、うう、玉がいてエ」

「潰れちゃいねえだろ。早くしろ」

「うう、了解」

とうめきながら、ブーラはピップに体ごとのしかかった。

「さて」

ワイルドはスタンガンを置くと、注射器のようなものを取り出し、倒れたティアを押さえつけながら、首元に押し当てた。ティアは動かない体で抵抗しようとしたが、少しすると気を失ってしまったようだった。


ティアの失神を確認したワイルドはゆっくりとピップに近づいてきた。

「さあ、坊や。お休みの時間だ」

ワイルドはティアにしたのと同じように、ピップの首元に器具を押し当てた。

尖った針が刺さり、鋭い痛みが走る。何かを注入されたようだった。

ピップは意識を保とうとしたが、徐々に強烈な眠気と共に、視界に白いもやがかかったようになってゆくのを感じた。

そして、いつしかピップの意識は失われた。

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