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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
一章 ギャランシティ
19/41

どうしよう

ラムダがスターズであると聞き、ピップは驚愕した。

だが同時に、

(じいちゃんなら可能かもしれない)

とも思うのであった。


アダム博士の会社、アダムカンパニーは、主に医療用のスターズを製作している世界的な大企業であった。

その商品群の中には、人間や動物に近い動作をするものもあったし、医療メーカーである以上は人間の構造についても十分な研究がされているはずである。

アダムカンパニーの技術を駆使すれば、外見上は限りなく人間に近いスターズの作成も十分可能だろうと思えた。

ただ、それはあくまでも外見上のことだけである。

ラムダは外見でなく、人間のように笑い、話し、見て、歩く。

ラムダのこの小さなボディに、人間のような機構を充足させ、違和感なく実現させている技術と仕組みは、スターエンジニアであるピップでさえ想像もできないほどに高度なものであった。


(一体どんな技術を使っているんだ? この子は何ができるんだ? し、知りたい)

スターエンジニアとしての好奇心がむくむくと頭をもたげてきたが、ピップは興奮してくる気持ちをなんとか抑えながら、ラムダに聞いた。

「ラムダ、きみがスターズであると聞いて、いくつか合点がいったよ。きみには、俺の部屋くらいのドアならロックを解除する機能があるんだね?」

「はい」

ラムダは屈託のない笑顔で答えた。

「ああ、やっぱり。じゃあ、どうやって俺がここに住んでいることを調べたの? 誰かに聞いたのかな?」

「いいえ、ぼくはピップのことを知っている方にはお会いできませんでした。ただ、このシティの住人に関することなら市長さんが詳しいと道行く方にお聞きしました。だから、ぼくは市庁舎の市長さんの部屋を訪ねました」

「えっ」

「ただ、残念ながら市長さんは不在でした。ですが、その際、市長さんのデスクのパソコンが閲覧可能だったため、住民データを調べて、ピップの名前を検索したところ、ピップと同性同名の人がいることを確認し、この部屋の住所もそこで知りました」

ラムダはほがらかに、よどみなく答えた。

ピップは先ほどの興奮が一気に引き、体が冷たくなるのを感じた。

つまり、ラムダは、

(1)一部の幹部以外は入れない市庁舎、ギャランタワーの五階に入り

(2)ギャランとサイモン以外はまず入ることを許されない市長室に入り

(3)重要機密が満載であろうギャランのパソコンから、住民データを盗み見た

ことになる。

この時点でギャランシティの法においては重罪確定で、最悪、銃殺すらありうるレベルの犯罪だった。ピップの部屋に侵入したこととはわけが違う。

ピップは聞かなければよかったと後悔した。

「そ、そうか。でも、ギャランさんが不在でよかった……」

「いいえ、データを確認して戻る途中、市庁舎の五階ロビーでギャラン=ドゥ市長にお会いしました。また、サイモン参謀長もご一緒でした」

「え、嘘」

「はい。お二人にできたのは、ご挨拶だけですが。そのあとすぐ、ぼくは守衛の方に連れて行かれてしまったので」

「よく守衛が解放してくれたね。まさか、暴れたりはしていない、よね?」

「いいえ、ピップの所に行きたいといったら、ぼくを解放してくれました」

ピップは崩れ落ちた。ラムダは変わらず穏やかな笑みをたたえている。

ギャランはともかく、あのサイモンも見ていたのでは、いずれはラムダが市長室に侵入したことと、市長室のデータを盗み見たことも露見するだろう。

(どうしよう。どう言い訳をしよう。もしかしたら、もうすでにこの部屋に警備が向かっているのかもしれない……)

だが、そんなピップをよそに、ラムダは別方向を見ながら言った。

「ピップ、強いスターエネルギー反応です。二百度の方角。距離は三千mから五千m」

「えっ」

直後、ドオン、と爆発音が聞こえ、シティに警報が鳴り響いた。

「な、なんだ、なんだあ?」

ピップは窓を開けて外を見た。遠くで煙が上がっているようにも見えた。

そのとき、ピップに支給されている携帯電話が鳴った。

発信者はサイモンだったため、ピップは携帯電話を落としそうになった。

(もうだめだ、きっとラムダのことがバレたんだ……)

だが、警報が鳴っているような状況で電話に出ないわけにもいかない。ピップは震える手で通話ボタンを押した。

「はい……ピップです」

「ピップ、緊急事態だ。さっきの爆発音を聞いただろう。大至急、スターズに乗って第三格納庫へ。シティが攻撃を受けている。繰り返すが、大至急だ」

サイモンが普段はしないような早口で一気に話した。そしてピップが何かを言う前に、電話は切られた。

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