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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
一章 ギャランシティ
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未知の巨大スターズ

ギャランシティ、第三格納庫。

ギャランシティの中でも最も大きな格納庫である。主に大型の重機スターズなどが格納されている。

<メタルギャラン>やピップの<モルゴン>のような、戦闘用の有人スターズが格納されている第一格納庫がシティの中心近くにあるのに対して、この第三格納庫は少し離れた場所にあった。


サイモンは第三格納庫内にある、セキュリティーロックのかかった大型扉を開けた。ピップもそのあとに続いた。そこはシティの幹部クラスでなければ入れない場所であり、ピップはこれまで入ったことがなかった。


その中には、巨大なスターズが一機、運ばれてきていた。

そのかたわらにギャラン=ドゥが立ち、周囲にいるメカニックに何か指示を出している。

それはピップが見たこともないスターズだった。

黒いボディ部分はかなり重厚であり、頑丈であろうことを伺わせた。そのボディに太い六本の足が接続している。どこか蜘蛛を思わせる外観であった。

ボディに装着された大小の砲塔は、このスターズが戦闘用スターズであることを主張している。また、地面に埋まっていたのだろう、土を被っており、メカニックたちがそれを除去している。傷や汚れはあるものの、今にも動き出しそうな不気味さがあった。

(ひょっとして、サイモンさんが採掘してきたというのはこれかな?)

ピップが興味深く見ていると、ミラーが走ってきてギャランとサイモンに挨拶をしている。ミラーもピップも、お互いに目を合わせなかった。

「さて、そろったわね」

ギャラン=ドゥがピップとミラーに聞いた。

「あんたたち、このスターズに見覚えは?」

「ありません」ミラーが答えた。

「ないです」ピップが答えた。

「ふむ、スターエンジニアである、あなたたちも知らないスターズというわけね」

ギャランはどこかうれしそうにつぶやき、サイモンを見た。

サイモンはミラーとピップに説明を始めた。

「このスターズは、東方の採掘地で発見され、先日ぼくが採掘したものだ。シティには今日搬入されてきたばかりとなる。ただ、ギャランさんも、私も、他の誰もが見たことのないスターズでね。スターエンジニアである君たちならどうかと思ったが、やはりわからない。となると、完全に未知のスターズなわけだ」

「少し、近くで見てもいいですか」ピップは尋ねた。

「もちろん。見解を言ってくれ」サイモンは手でうながした。

ピップはスターズの周囲を回った。ミラーも慌ててスターズのチェックを開始する。

「どこにも企業の刻印や製造番号が見当たらないようです。となると、量産機ではなく、特注機の可能性が高そうです。各パーツも、見たところ高性能なものばかりで構成されています。おそらくですが、これは大戦の後期に開発されたものではないでしょうか」

ピップが言った。ミラーも負けじと説明を始める。

「えー、そうですね。この主砲の口径を見るに、凄まじい強火力を要している模様です。ボディの材質はログタイトとメタフルトンでしょうか、相当な耐久力がありそうです。軍事基地や重要施設の破壊を担うような、特別なスターズのようですね。いや、よくこれほどのスターズを採掘したものです。さすがはサイモンさん…」

「ピップ。なぜ、きみはこれが大戦後期のものだと?」

サイモンはミラーのおべんちゃらを無視して、ピップに尋ねた。

「これはおそらく、自律式スターズかと思われます。自律式スターズが本格的に投入されたのは、大戦最後の五年ほどだと聞いています。また、これだけの規模の自律式スターズをそうかんたんに開発できたとは思えません。よって、大戦後期、それも末期の機体である可能性を考えています」

「なるほど。興味深い話だ」サイモンは答えた。

各々の話を聞きながら、ギャランはスターズに近づき、手をついた。

「今、確実に言えるのはね、この子、超イカついってことよ。間違いなく、相当強力な軍事用スターズだわ。私のパイロットとしての勘が、ビリビリと警報を出している。こいつとは戦うべきじゃないってね」

ギャランは邪悪な微笑みを浮かべた。

「先に結論をいうわ。あなたたち二人に、これを動かせる状態にしてほしい」

一瞬、間が空いて、先に反応したのはミラーだった。

「こ、光栄です、ギャラン様! すぐに取りかかります!」ミラーは胸に手を当てながら叫んだ。

「そう。で、ピップ。あんたは浮かない顔ねえ」

「えっ」

「嫌なのかしら? あなた、スターズのメンテはいつも嬉々としてやるのに」

「い、いえ、ただ……。これを起動可能な状態にしたとして、どういう用途をされるのかな、と気になりまして……」

そこまでいって、ピップはハッとした。

一介の兵卒にすぎない立場のピップが、シティのトップであるギャラン=ドゥに対してするべき質問ではなかった気がしたからだ。

場に一瞬、沈黙が訪れた。

「ピップ、貴様、無礼だぞ! ギャラン様に失礼な問いかけを……」

ミラーが声を上げようとしたが、サイモンはそれを手で制した。

ギャラン=ドゥはおもむろにピップに近づき、その肩を力強く掴んだ。ピップは懲罰を覚悟した。

「ねえ、ピップ。あなた、私のシティに来るまでの、<別れの日>から二年あまり、けっこう大変な目にあったと言ってたわね?」

ギャランは予想に反して、やさしい口調でピップに話しかけた。

「は、はい」

「そうでしょうね。世の中には、アタシのように優しく賢い人間も少しはいるわ。でも、クズみたいなバカはもっとたくさん存在する。あなたはこの二年間、そういう連中に、危険な思いや不快な思いをさせられてきたのよね」

ギャランがそういうと、なんとなくミラーは顔をそむけた。

「……」

ピップはなにも言えなかった。この二年は、良いこともあったが、思い出したくないような苦しみの方がずっと多かった。

極限状態で、理性を無くした人がどう振る舞うか。その原始的な暴力に対して、逃げるしかできないことがピップには何度もあった。

「そんなバカどもは、言葉で言っても絶対に理解しない。連中は、善良な人々が大切に築き上げてきたものを、深い考えもなしに壊すことができるんだから」

ギャランは続けた。

「私はね、そういうバカどもから身を守るためにまず必要なのは、そいつらを上回る力だと思っている。そして、そんな連中に怯えることなく、人々が暮らして行ける社会を作り上げることができるのは、優れた強き支配者だけであると考えている」

「……」

「ピップ。私はこの世界の王になるつもりよ。でも、王というのはシンボル。そのかたわらには、実務を行う優秀な補佐が必要なの。アタシにとってはサイモンがそう。そして、あなたもその一人になると思っている」

「……えっ」

ピップは驚きの目で、この支配者を見た。

ギャランの目は本気だった。ミラーも驚きながら、この会話を見ていた。ギャランに仕えて二年になるが、ギャランがそんな言葉を誰かにかけているのをはじめて見たからだ。

サイモンが口を開いた。

「ピップ、きみは、おじいさんであるアダム博士を探していると言っていたね。そのために各地を旅してきたと。だが、これから先も、闇雲にアダム博士を探すつもりかい? それよりも、ギャランさんと私と共に巨大なシティを築き、そのネットワークを活かして人探しをした方がおじいさんが見つかる可能性はずっと高いのではないかな」

「その通りよ、ピップ。あなたが私に力を貸してくれるなら、私もあなたの目的に喜んで協力するわ」

ピップは下を向いて、言った。

「戦争を、するんですか? このスターズで……」

「戦争ッ……!」

「ピップ、戦争なんてもうこりごりだわ。だって、何十年もアホみたいな戦争を続けたせいで、私たちの星はこんな有様になっちゃったのだもの。多くのシティのトップもそう思っている。でも、残念だけど、そうでない連中もいるのよ。私の立場になると色々と耳に入るの。例えば、<ディジェノ>なんて聞いたことがないかしら?」

「<ディジェノ>……。いえ、知らないです」

「一言で言えば、くそみたいな悪党どもよ。こういう手合いとは会話なんて無理。対抗するには、絶対に力が必要なのよ」

サイモンがピップの肩に手を置いた。

「まあ、一晩考えてみてくれ。ちなみに、ギャランさんと僕が君にこのスターズのことを頼もうと思ったのにはもう一つ理由があってね。僕たちは、これが<アダムシリーズ>なのではないかと思っているんだ」

「<アダムシリーズ>……?」

「おっと、これも知らないか。まあ、僕たちも詳しくは知らないのだけど。大戦末期、こんな噂が流れたんだよ」


〜天才アダム博士が戦争を終結させるために、強力な数体の自律式スターズを作り出し、連合国に提供した。それは帝国の最強部隊を壊滅させ、連合国不利の戦況を一変させた。その数体の自律式スターズを指して、<アダムシリーズ>と呼ぶ〜


「私もサイモンも連合国のパイロットだったからわかるのだけど、劣勢だった戦況が、ある日突然攻勢に移っていったのはマジよ。ただ、実際に<アダムシリーズ>を見たという人には会ったことはないし、都市伝説だと思っていたけれどね。これを見るまでは」

ギャランは巨大な自律式スターズを指で叩いた。ピップは動揺した。

「このスターズを……じいちゃ……アダム博士が作ったと……?」

「そうだ。触ってみたくないかい? もし、これが、君のおじいさんが作り出した究極のスターズ、<アダムシリーズ>だとしたら」

ピップは唾を飲んだ。

(じいちゃんの作った、自律式スターズ、<アダムシリーズ>……)

「話は以上だ。非番のところすまなかった。明日にでもまた、気持ちを聞かせてくれればいい」

ピップは肩を叩かれた。

「ありがとうございます。また、明日、お話をさせてください」

そして、頭を下げると、ピップは一人、第三格納庫をあとにして、シティをあてもなく歩いた。


まだ時刻は昼過ぎであり、このまま真っ直ぐ家に帰る気にもなれなかった。モヤモヤとした気分が晴れないのをピップは感じたが、その正体が掴めない。

(そういえば、「気分が落ち着かない時は、ひとまず掃除をしなさい」というのがアダムじいちゃんの教えだった)

ピップは当初の目的通り、第一格納庫に行き、自分のモルゴンの整備をすることに決めた。


第一格納庫の奥で、モルゴンは静かにたたずんでいた。ギャランシティで働くきっかけになった、大切なスターズである。

ピップはまず、先日の遠征でモルゴンについた砂やよごれを丁寧に洗い落とした。

それから、スターズの中も掃除し、備品を補充した。

主要な関節部に機械油を差し、各動作を確認し、いくつかのプログラムの修正を行った。そして、最後に新しいスターバッテリーを装填し、予備のスターバッテリーも格納した。

すっかりキレイになったモルゴンは、笑っているようにも見えた。「機械にも感情があるんだ」とアダムはよく言っていたものだ。ピップは「じいちゃん、それはさすがにないよ」と否定したが、そういうこともあるのかもしれない、とピップも思うようになったのはこのモルゴンと出会ってからだった。

(こないだは良い動きをしてくれたよ、相棒。おかげで命拾いをした)

全ての整備が終わると、ピップはモルゴンをねぎらうように、そのボディをポンと叩いた。

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