エリンスフィール
「陛下、アルス殿下からお手紙です」
「アルスからか……。
内容は?」
あのアルスからの手紙だ。
どうせ、またいつもと変わらぬ報告書だろう。
そう思い、読み上げさせた。
「…………えっ?」
戸惑いの声が部屋に響く。
私が顔を上げると、その者は続きを読み上げた。
「ア、アルス殿下が、婚約者を決めた、と……」
「そうか。
……何だと!?
そうか!
今すぐその相手を調べろ!」
「い、いえ、それがその……。
アルス殿下のお相手は、あのフィーリン商会の会頭を務めあげる、エリス・フォーリア公爵令嬢です!」
「なに!?」
大騒ぎだった。
あのフィーリン商会の会頭、エリス・フォーリア公爵令嬢に関しては勿論、フィーリン商会をこの国に展開させるにあたって調べさせた。
だが、そこで出た情報は名前と爵位、家族構成、そしてエールの王子の婚約者であるという情報のみだった。
その他のことについては全くといっていいほど情報が出なかったのだ。
アルスは、よりによってあの者を選んだか……。
だが、少なくともその選択は間違ってはいない。
「アルスの帰国予定日は?」
「5日後です」
「そうか、分かった。
では、エリス嬢をここへ連れてくるように伝えてくれ」
「はっ、承知致しました」
情報は少ないが、アルスが婚約者としたことにより、この目で見極めることが出来る。
あのアルスが決めたのだ。
問題はないと思うが、この目で見ておきたかった。
「エリス・フォーリア……。
あの者を王家へと引き込めればいいが……」
「ガイナス、今はアルスが婚約者を決めたことを喜びましょう」
「……そうだな」
私を支えてきてくれた妻が、アルスの婚約に嬉しそうに微笑む。
そんな妃の穏やかな表情に私も微笑んだ。
「でも、そうですね……。
アルスの選んだ子がどういう子なのか気になるのも事実です。
ですから、アルスがその子を連れてきたら一度城に呼んでみましょうか?」
「あぁ、そうだな。
その時は私も同席しよう」
「あら、そんなに気になりますか?」
妃は相も変わらず微笑んではいるが、先程とは異なり悪寒がはしるような笑みだった。
……私は、何かやっただろうか?
「う、うむ……。
それは、だな……」
「……ガイナス?
エリスさんを害するようなことは、私たちが許しませんよ?」
そういえば、妃はフィーリン商会のケーキをいたく気に入っていた気がする。
まさか、先の悪寒はそれが原因か?
いや、まさか……な。
しかも、【たち】ということは他にもいるということか。
「分かっている。
アルスの婚約者となる者を害するような真似はしないさ」
「ならば良いのですが……」
悪寒が消えたな。
疑いが晴れたのだろうか?
「もし、あなたがエリスさんを害するようであれば……。
私も動かさせていただきます」
「……う、うむ。
心しておこう……」
……エリス・フォーリア公爵令嬢を守る必要があるな。
こちらからも護衛を付けるか。
彼女になにかあれば妃が怒り狂うかもしれぬからな……。




