第110話 来ちゃった♪ なこと、マンガの如し
――翌日。
今日は花嫁行列の第三弾だ。
越後長尾家から長尾綾殿が嫁いでくる。
俺は躑躅ヶ崎館にある造成中の高台から西の街道を見ていた。
まだ花嫁行列は見えない。
俺の側で板垣さんがつぶやく。
「見えませんな……」
「何もないと良いけど……」
俺も心配だ。
なぜ俺と板垣さんが心配しているのか?
長尾家からの花嫁行列に北信濃の国人衆から反発があったからだ。
当初、村上義清殿や真田幸隆殿ら北信濃の国人衆たちに介添え役をお願いした。
『長尾家からの花嫁行列に北信濃の国人衆が介添え役として同行すれば、和平の象徴となり民も安心する』
――と、打診したのだが、ことごとく断られてしまった。
『ついこの間侵略していた長尾家の嫁入りに手を貸すなど、さすがに無理です』
『武田家のお心遣いはありがたいが、さすがに家臣たちを抑えるので精一杯です』
『ご冗談を……』
『ふざけるな!』
『クソ食らえ!』
こんな調子で片っ端から断られた。
君たち誰のために武田家と長尾家が婚姻すると思ってるの?
北信濃と越後の国境を安定させるためでしょうに!
温厚な俺と板垣さんだが、さすがにイラッとした。
しかし、小山田虎満が俺と板垣さんをなだめた。
『まあ、しょうがないでしょう。北信濃では多くの者が命を落しました。海野家など族滅しましたからな。越後人など隙あらば、ぶち殺してやると思っておりましょうぞ』
長尾家の越後兵は北信濃の国人や領民を容赦なく殺した。
海野氏は最悪のケースで一族が全滅してしまったのだ。
まあ、長尾家が大暴れした分だけ、助けに入った我が武田家は正義の味方になり北信濃の国人衆の支持を得た。
それでも、北信濃の国人衆が持つ長尾家への反感は大きい。
武田家は花嫁行列の通過許可を取り付けるのが精一杯だった。
ちなみに海野氏の所領は、隣の村上義清殿と海野氏の分家筋である真田幸隆殿に治めてもらっている。
「ハル君~、どう? 花嫁行列は見えてきた?」
奥様の香である。
昨日、側室入りした諏訪姫こと希を引き連れて登場だ。
嫁同士が中が良い様子を見て、俺はホッとする。
「いや、まだ見えない」
「迎えは誰が行ったの?」
「馬場信春と横田高松」
「工兵と機械化足軽ね?」
「そう」
北信濃の国人衆が花嫁行列に加わることを拒否した。
かといって越後兵が花嫁行列を行えば、武力衝突必至だ。
そこで武田家が越後へ迎えに行き隊列を組んで甲斐へ花嫁を運ぶ段取りになった。
問題は誰を行かせるか。
飯富虎昌は香を担当するのでNG。
板垣さんは外交全般を見ているので、祝いの使者への対応などで忙しい。
小山田虎満と甘利虎泰も同じく。
そこで、街道整備で北信濃に出張っていた馬場信春と新たに組織した機械化足軽部隊を率いる横田高松に担当させることにした。
馬場信春は街道整備を担当したので、北信濃の国人衆や領民に顔が利く。
横田高松は一芸『乱戦達者』持ち、機械化足軽部隊がいれば万一の時にも後れは取るまい。
機械化足軽部隊は百人の小規模部隊だが、全員トラックに乗って移動する。
戦場を大きく迂回して敵の側面や後背を襲う。
北信濃は冬場に街道を整備したので、自動車なら素早く移動可能だ。
朝イチで越後との国境で花嫁をピックアップすれば、昼には甲府に到着する。
だが、太陽が頭上に来ても西の街道に花嫁行列の姿は見えない。
「あっ! 来たよ!」
香が西の街道を指さした。
武田家の旗指物をなびかせたトラックが列をなして進んでいる。
「凄い!」
諏訪姫こと希が、初めて見る車列に手を叩いて喜ぶ。
俺は花嫁を乗せた車列を見て胸をなで下ろす。
「ふう、良かった。北信濃を無事に通過できたか……」
「御屋形様……ご油断召さりますな……」
「何……?」
板垣さんが眉根を寄せて、車列の中から一台のトラックを指さした。
ひるがえるのは武田家の旗と――。
「ウソだろ!?」
「九曜巴紋の馬印。長尾為景殿ですな」
予定にない長尾為景の登場に俺はあんぐりと口を開けた。
板垣さんが額に手をあてて天を仰ぐ。
「ああ……、高梨政頼殿もいますな……」
本当だ。
チェッカーフラッグに似た特徴のある石畳の旗印が揺れている。
高梨政頼殿は、北信濃でも長尾家に与する武闘派の国人で、居酒屋会談の時に、俺を切りつけたヤツだ。
カッカしやすく好戦的で、祝い事にもっとも適さない人物である。
よりにもよって、何で高梨政頼を連れてくるかな……。
思わず俺は叫んだ。
「あのオッサン! 何を考えてるんだ!」
真田幸隆の読み方は、『さなだ こうりゅう』が正しいとする説もありますが、本作では『さなだ ゆきたか』を採用しました。





