元勇者と剣舞祭予選
早朝から始まった会談は退室許可が貰えたのですぐさま部屋を出る。当然ながら中でまだ会談は続くだろうがそれがこの後の剣舞祭の内容だろうがそうじゃない内容だろうが今は関係無い。そんな事より当然ながら優先するのはリースだがらだ。
借りている宿屋の部屋まで静かに、けど素早く進み、扉を開けた。だがそこにリースは居らず、隣のウルドの方かと思い、その部屋にノックした。「んー開いてるぞー。」と不用心な答えが帰って来たが気にせず入る。
そこにはウルドが小難しい顔で数字を勉強しており小さな黒板に石筆で問題の答えを書いている。まぁ外れていたが……。
「……リースは?」
「ん、リナとシュルと一緒に買い物行くって。祭りで露店が色々だからなぁ。」
「……お前は?」
「んー、シュルは商売したがってるからいつか商売出来るように勉強してんだ。」
中々良い旦那なのだろう。だけど問題の答えがかすりもしていないのは教えるべきなのか本気で悩む。
そのまま少しリースを待ってみたが残念な事に開会式の為に集まる時間になってしまった。元々領主から必ず来るように言われていたのでボイコットは出来ない。泣く泣くその場を後にした。
ファーブル辺境伯領地、その端にある無駄に広い広場、何時もなら兵士の訓練等に使われているその広場が綺麗に整備されており、真ん中に直径200mは有りそうな闘技場がある。そしてその代の中心に台座が3つ有り、そこに今回の参加者の中でも有名どころが集まっていた。
中でもわかりやすいウィリアムは中心の一番高い所で20本の剣を携えて立っていた。
そしてその周囲には魔法陣が刻まれた円柱が無数に立っており、その周りに更に観客用の椅子が設置されている。既に席は満席で近くの建物に登っている奴すらいた。
その様子を見ながら集められた無象3000人の中に俺はいる。椅子などなく、ただ固められた地面の上で立っていた。有名な奴なら台の上におり、その中でも特に前回の剣舞祭で好成績な奴が台座にいる。当然ながら俺は戦績など無いのでこの一番端っこにいるわけだ。
今現在は開会式の挨拶を無駄に豪勢な台の上で他の地方領主や帝都から来た奴らが喋っている。帝王は一言だけ「武勇を見せよ。」で終わったのに他の奴ら本当に長い。
そして長ったらしい挨拶や他国のお偉いさんの自己紹介等が終わると説明の為なのか受付嬢の1人が先程までお偉いさんが立っていた台を片付けて新しい台の上に立つ。
何気に俺の担当していた人とは違った。
「さぁ!!剣に、刃に、刃物に魅入られた者たちよ!3年に一度の剣舞祭が始まるぞー!」
「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」
叫び声の割合的に観客8.参加者2ぐらいの割合だ。中でも参加者の獣人の声がよく響く。
壇上の受付嬢(元気)はノリノリでマイク型の魔道具(初めて見た)を片手で持ち、それを剣に見立てながらの剣舞を行う。
「必要なのは刃があるか!獲物を使いこなせるか!技に自信があるか!それが満たせるなら誰でもウェルカム!さぁ、今年の剣舞祭も派手に殺りましょう!」
「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」
おい待て、今どう考えても戦いましょうじゃなくて殺りましょうだったぞ。
楽しそうに笑っている受付嬢(元気)はくるくるとマイクを回し、それを次に上がって来た別の受付嬢に渡す。今回は俺の担当の受付嬢だった。
「それではルールの説明です。」
剣舞祭は4日に渡って行われる。予選2日、本戦2日の構成だ。本戦は16人によるトーナメント方式で行われ、前回の好成績を残した者はシード枠として予選に参加せず本戦からの参加が決定している。なので現在台座にいる三人は予選の2日は戦わない。
対して闘技場やその周囲の地面にいる者達は予選の2日を勝ち抜かなければならない。参加者は凡そ3000人、初日はその中の凡そ20人が次の日の予選に進める。
武器は刃が有れば何でも良し。剣も槍も斧も鎖鎌でも刃が有れば良い。そしてスキルの使用も可能。但し魔法は禁止。
勝敗は相手が倒れるか戦闘範囲外に出るか禁止事項に触れるかのどれかだ。戦闘は150人ごとのグループに分け、30分以内に他の参加者を倒しきらなければならない。ルールの都合上、共闘も予選一日目には可能だ。この結果、前回本戦に出た者は狙われやすく毎回本戦には見た事がない剣士が一定数出てくる。
禁止事項は魔法の使用、範囲外に出たのに参加しようとするの二つだけである。
それ以外は基本的に何でも良し。
観客に攻撃が届かないように会場には特殊な魔法が掛けられており、余程な事が無いと観客が傷付くことは無い。
まぁ要約するとそんな感じのルール説明だった。
そして担当の受付嬢が説明が終わると周りの剣士がソワソワし出す。どうやら例年だとこれで開会式が終わり予選の為のグループ分けがされるのだろう。
俺は欠伸を噛み殺しながら壇上の受付嬢を見ていた。そしたらそこに領主が上がってくる。何故か猛烈に嫌な予感がした。
「この度新たな領土、そのファーブル領の辺境伯となったサージェ・フォン・ファーブルよ。」
絶対に見たことの無い微笑みで参加者や観客を見回す領主。そして胸に手を当てながらファーブル王族の闇(幾つか脚色している)を語りながらファーブルが帝国領になった事の素晴らしさを説いていく。
そして復興の大変さ等を語った領主は嘘っぱちの涙(他は何か騒いだりしている)を流すと同時に俺の足元にサキュバスがコソコソと近寄って来た。近くの参加者も気が付いているが気にはしていない。どうやら参加者と思われているのだろう。
そんなサキュバスと目が合った。震える身体を無理やり抑えながら何か銀粉の入ったザルを構えている。
そして、マイクでこんな言葉が聞こえた。
「そして本日、私の部下の最強をこの剣舞祭にて披露する事に決めました。それこそが彼、カサド・ホンジョウです。」
聞こえた声に反応し思わず壇上のの領主を見る。当然ながら領主はこちらを見ており釣られて参加者も此方を見ている。同時にサキュバスが下から銀粉を投げていた。目立つ。
「今回の剣舞祭をもって彼を魔金剛に推薦します。本戦最後にウィリアムに勝ち、黒獣との戦いも次の日に行う予定です。」
あからさまに雰囲気が変わった。周りの奴らが前回の本戦出場者よりもアイツ潰すみたいな流れが出来ている。
苦笑いが出たのは、しょうがないと思った。




