小鬼の群れ迎撃部隊
ファーブル辺境領元王城。そのそこそこ偉大な感じの城の前の広場には五百名もの冒険者と千の兵士がいた。
冒険者はそれぞれが自慢の武具を見せびらかすように着込み、パーティーの仲間や知り合いなどと談話している。
兵士は統一された武具を着込み、歩兵五百、弓兵3百、重装歩兵百五十、騎兵五十が今回の兵士の全容だ。だが当然彼等が全ての兵士ではない。
彼等は少しでも小鬼の群れを抑える為に犠牲を覚悟で妖精の森へと行き、その規模と勢力、個々の強さを知るための贄だ。
だが兵士達には悲観は無い。護るべき民や領土、仕えた領主の為に死んでも構わないと思い込んでいる。
当然だが普通どれほど鍛えても絶望的な戦力差で心が折れない者が居ない軍は存在しない。
だが彼等が仕える領主は嫉妬の魔王。得意とするは近接戦よりも絡め手だ。当然、兵士達には着任早々暗示も掛けており、更には冒険者の中に魔純塊ランクが二人おり、それが更に彼等の悲壮感を消していた。
高らかに道連れにしてやると息巻く兵士を怪訝な顔で見る冒険者がいるのもしょうがない。
そして、執務室。
そこに彼女は座っていた。見るもの全てが羨むような美しい顔立ち、肌は淡く焼けており、耳は長く尖っている。
彼女の名は嫉妬の魔王、サージェ。
女性の嫉妬を集めそうな美貌だが胸だけは例外で英語の最初を表している。
そんな彼女は向かいに立つ執事をモノクルを外しながら睨みつける。
「……今、何て?」
「……兵士一同及び冒険者達から今回の小鬼どもは一万程度と風潮が広がっております。何者かの策略かと……。」
聞こえた内容にこめかみを抑えながら深い溜息を吐き出すサージェ。モノクルを机の上に置くと目線で下がれと命じる。
それだけで執事は一礼したのちに部屋を後にした。
「……全く、何処の誰かしら?私の配下に知恵を貸しただけでなく、小鬼の群れを少なく吹聴したのは……。」
「他の魔王の手先でしょうか?」
彼女の問いに隣でずっと立っていた女性が返事をする。サージェが自身の部下から必要と感じて連れて来た数少ない切り札の一人、サキュバスの女性だ。
着ているのは執事服だがサージェとは違い豊満な胸が今にもボタンを吹き飛ばしそうで男性が見れば釘付け間違い無しだが本人は男性恐怖症なのでそのような意図はない。あくまでメイド服と比べた結果だ。
「それは無い……とは言い切れないわね。可能性的には黒か桃か……一応金もなくは無いわね。」
自身以外の魔王の性格を思い出しながらサージェは誤った認識の規模を治す為に集団催眠をかけるべきかと頭の片隅で考えながらも普段通りの量の書類を捌く。
「……ん?」
その書類の中に以前見つけた開拓村に対する行いが書かれていた。
大体はサージェが決めた通りになっているが同行者の中に見慣れた名があり、眉根を寄せる。
「これ、私は金剛以下のランクに同伴を命じたわよね。何故魔銀の、それももうすぐ魔純塊目前の彼女に行かせたのかしら?」
独り言の様に呟いた言葉。だがサキュバスはそれを聞き取っていたので扉の方へと歩き出す。
「あぁ、良いのよ。直接見るから。」
そう言い、サキュバスを止めるとサージェは眼を閉じる。
思い出すのはこの内容を命じ受けた者、その記憶を読む。これは彼女が完全に相手の事を支配出来ているからこそ出来るスキルだ。
命じられた者がより下位の者に命じ、それをくだんの冒険者、ミスティ・レイドが偶々冒険者ギルドにいる時にギルドマスターに伝え、それを聞いた彼女はその兵士に軽く頭を下げながら自分の知り合いがその近くにいるかもしれない。よく出会う町に立ち寄る序でにその仕事をしても良いかと打診して来ていた。
それをギルドマスターは受け入れ、兵士にそうなったと目の前で決まり、兵士は何も言えずにそのまま帰還したようだ。
一連の流れを見たサージェはまたもこめかみを抑えながら深い溜息を吐き出す。
内心、(もうやだ。人間勝手に動く。)と思っているが顔には出さずに顔を上げる。
「手違いが起きたみたいね。サキュバス、ミスティ・レイドの小隊が今何処にいるか確認してもらっても良いかしら?危険な場所なら直ぐに戻りなさい。」
訪ねてはいるがこれは命令だ。サキュバスはその場でお辞儀をすると顔を上げ、元気良く「はい!」と返事をすると同時にボタンが弾けた。
「ひゃわ⁈」
「………。」
サージェの瞳の奥に暗い炎が少しだけだが灯った。




